8話 『次は私が!』
スライムが消えた事によりようやく初戦闘の終わった私たちは、その場に座り込んでいた。
肉体的には疲労は特にないものの、精神的というか、モンスターと戦うという事実そのものが心に少なからず負担を与えていたのだ。
特に焔ちゃんは私と違ってしっかり戦っているし、倒してもいる。
けれど、結局のところこういうのは慣れるまではどうしようもないと思う。
「それにしてもさ、液体まで消えちゃうなんて凄いよね! ゲームだからって言ったらそれまでだけど、こう、直に見ると不思議って感じ!」
「確かにそうかも。どういう原理なのか気になるけど、多分解明できないだろうなぁ」
疲れているとはいえ、興奮は止まらないようで、焔ちゃんはひっきりなしに私へと話しかけてくる。
スライムの弱点が解かり易いだとか、突き刺した感触、自分の体を動かし、日本に居たころよりも動きやすいといった事まで、余すことなく自分が感じ、思ったことを楽しそうに笑いながら話してくれている。
そんな話を聞くのは勿論楽しいけれど、戦っていない私じゃどうにも実感しづらく、苦笑気味にしか反応する事が出来なかった。
「あ、そうそう、スライムを倒した時に経験値とアイテムが手に入ったんだよね! 雫には入った?」
「えーっと、うん。経験値は私にも少し入ってるみたい。ただ、アイテムはないかな」
「そっかぁ。ってことは、とりあえずパーティーさえ組んでればレベル上げは出来るってことね」
アイテムや経験値も、恐らくは活躍した順、というよりどれくらい戦ったかで判別され、割り振られているのだろう。
勿論、止めを刺したかどうかの関係性もあるかもしれないけど、少なくとも焔ちゃんと同じ速さで成長したいのなら、私もちゃんと戦うしかないわけだ。
けれど、パーティーに加入しているだけで少なからず経験値が入ってくるということは、即ち強い人に付いていくだけで強くなれるということだ。
当然、そういった手を使うのは悪い事じゃない。普通のゲームなんかでも良くある手法だし、例え誰かがやっていても咎めるべき行為ではない。
私だって、もしも焔ちゃん以外の人とパーティーを組むことがあったりだとか、自分が強くなって、弱い子を助けるためにやるかもしれないし……。
でも、この世界に限っては良い事ばかりじゃないとも思う。
なにせこの世界はゲームじゃなく、今では現実なのだ。幾ら肉体が強くなろうと、痛いものは痛いだろうし、試してはいないけど、脳や心臓なんかを貫かれたり、壊されたら、ステータスなど関係なく死ぬ可能性がある。
それに、レベルを上げて戦えるようになるのは良いけど、自分でも戦わないと精神的に成長出来ないし、レベルだけのいわゆる雑魚に成り下がってしまう。
「雫のことも私が強くなってからレベル上げしてあげようか~?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら焔ちゃんは聞いてくるが、多分これは私が断ると分かっていて言ってきている。
そういう魂胆が分かり切っているから、お願いしてやろうかと思うけど、やっぱり最初からおんぶに抱っこの状態は嫌だ。
「ううん。それじゃ私はいつまで経っても焔ちゃんの横に立てないし、なにより私にだって焔ちゃんを守らせて欲しいもん」
「ふふっ。雫ならそう言うと思った! それじゃ、次は雫が戦う番だからね! ふっふっふ。雫も粘液塗れになる気持ちを味わうと良いよ」
悪い顔をして笑っているが、焔ちゃんはもしかして私の武器が銃であるということを忘れているのだろうか?
それとも、逃げた事をまだ根に持ってるとか?
「うーん。私は銃だから焔ちゃんみたいに粘液塗れにはならないと思うけどね」
「はっ! そうだった! あちゃー、銃かぁ。そっかぁ。そうだ、雫も短剣で戦ってみるのはどう!?」
確かにサブ武器として短剣も持ってはいるが、わざわざ近距離で戦うわけがない。
というか、焔ちゃんはそんなに私を粘液塗れにしたんだ……。
「どう!? じゃない! どれだけ私を粘液塗れにしたいのよ」
「うー、だって、雫の濡れ濡れの姿が見たいんだもん……」
しょんぼりし、不貞腐れたように言っているが、なんていうか私は一瞬身の危険を感じてしまった。
多分笑う為に見たいと思っているだけだろうし、私が考え過ぎなだけだろうけど。
ま、まぁでも正直私としては焔ちゃんなら友達以上でもアリかなと思う。絶対に本人には言わないけど。
「あ! 雫! モンスターが来たよ!」
焔ちゃんの声でハッと、妄想していたのをやめ、ポヨンといった音が聞こえる方へと視線を向ける。
するとそこには、新たなモンスター、と言っても先程と同じスライムが3匹、跳ねながら迫ってきていた。