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7話 『実戦!!』

 それから暫くの間雑談を交わし、モンスターを見ることもなく時間だけが過ぎていった。

 それに伴い、時間が過ぎたことによって、この世界に順応した人が増えたのか、街から出て行く人は後を絶たない。


「ねぇ、そろそろ私達もモンスターと戦ってみない?」

「んー、私的には良いけど、雫は心の準備とか大丈夫? ゲームの中の世界とはいえ、生き物を殺すんだよ?」


 焔ちゃんの言葉は最もだと思う。

 現実とは違うゲームならば、生き物を殺そうが、例え人を殺そうが、それはゲームだから許されるのだ。


 ゲームと現実は何もかもが違う。私が人を殺したりしても、この世界にいる以上裁かれることはないけど、後味は悪いなんてものじゃない。

 あくまでも、これは人を殺した場合だけど、モンスターも生き物であることに変わりはない。


 それを踏まえて考えれば、モンスターを殺した後に感じる後味の悪さも少なからずあるだろう。

 断末魔なんかを聞いた日には今の私じゃ耐えられないかもしれない。


「あははっ。ま、その顔じゃまだ無理そうだね。……でも、この世界にいる以上はさ、いずれ通らなきゃいけない道なんだし、引き篭もらないと決めた以上は戦わないといけないんだよ?」

「そう、だよね。何もしなければ生きていけないし、モンスターを怖がってたら逆に殺されちゃうかもしれないもんね……」


「そうそう! だから、後少し休んだらとりあえずモンスターを探しに行こっか! 私が戦うから、雫はそれ見て慣れていったらいいよ!」


 焔ちゃんが戦い、私は見ているだけ。

 なんとなく申し訳ない気持ちになりそうだけど、現状を考えればそうした方が良いに決まってる。


「うん。それならなんとかなりそうだし、焔ちゃんの戦いを見ることにするよ!」

「よし! じゃあ、それで決まりだね!」


 これからどうするかを決めたあとは、ひとまずモンスターと遭遇した時の行動を2人で考え始めた。

 あくまでもイメージトレーニングでしないし、最初のエリアにいるモンスターに対してここまでする必要はきっとない。

 けど、万全を期す事自体は悪い事じゃない。


 実物を見なくとも、自分が戦っているところをイメージするだけで、なんとなくだけど戦えるような気がするから。


「よーし! モンスターを倒しに行くぞ!」

「うん! 行こっ!」

「そのやる気、良いよ良いよ! もう見るだけじゃなくて雫も戦えそうじゃん!」

「うっ……ま、まぁ、実物を見ないと分からないけどね」


 私達が悠長に休み過ぎた結果、あと数刻もすれば日も沈んでしまう。

 夜になればモンスターも変わるだろうし、強さも変わると思う。

 元々日が沈んだあとには、街に戻る予定だし、今からモンスターと戦い、戻れば丁度良い時間になるはずだ。


「あっ、見て! 居たよモンスター! ほら、あそこに!」


 焔ちゃんが指さした先に居たのは、いわゆる色んなゲームに出てくる粘液と赤い石のようなもので構成されているモンスター、『スライム』だった。

 ポヨンポヨンという音が聞こえそうなくらい飛び跳ねているが、私たちには気付いていないのか、迫ってくる様子はない。


 ただ、この世界での仕様なのか、視線を向けるだけで、モンスターのステータスまでは分からないけれど、レベルと名前は表示されている。そのお陰もあって、私はスライムがレベル的には最弱のモンスターであるという事まで理解した。


 ただ、例えスライムであっても油断する事は出来ない。粘液が酸性の可能性もあるし、予想外の攻撃をしてくる可能性もある。

 だからここは一旦引いて……。


「雫は見てて! 私が戦ってみる!」

「えー!? 危ないよ!」

「大丈夫! 動きも遅そうだし私の敵じゃないよ!」

 スライムへと目掛けて走り出した焔ちゃんは、先ほど武器屋で購入した一振りの短剣を取り出し、スライムを薙ぎ払う様に切りつけた。

 しかし、全力で振ったにも関わらず、スライムが敵意を察知して体を固めたのか、或いは元々弾力性が凄いのか焔ちゃんはポヨンと言った感じで弾かれてしまった。


「うわっ、実際のスライムってこんな感じなんだ!」

「えっと、焔ちゃん……もしかして楽しんでるの?」

「うん! だって、初戦闘だよ! 楽しまないと!」


 目を輝かせて笑う焔ちゃんに手を貸し、立たせてから私もスライムを見据える。

 こうしてしっかりと見てみると、粘液の中で蠢く石のような物が見えた。

 ただ、その石が弱点であるのは分かるものの、スライムもそれは分かっているのか、石を軌道が読めないように動かし続けている。


 ゲームとかだと簡単に倒しているイメージがあるが、それは多分スライムの石をゲーム補正というか、そんなもので毎回壊しているからだろう。

 でもそれは、現実だと難しい。

 ましてや、私の目に握られている銃で撃ち抜くなどもってのほかだ。


「よし! ちょっともう一回やってみる!」

「う、うん。気を付けてね」


 銃で撃つのが難しいとなれば、頼りになるのは焔ちゃんしかいない。

 勿論、私だって焔ちゃんばかりに戦わせたくはないし、銃だって練習するつもりだ。

 けど、そうは言ってもやっぱり初めてはどうしても怖くなってしまう。


「ここだぁぁあ!」


 そうして私が考え事をしているうちに、焔ちゃんは動き回る石へと短剣を突き刺し、スライムを撃破した。

 けれど、代償というべきか石を砕かれたスライムからは弾力性というものが失われ、形が保てないのか、やがて溶けていき、短剣を突き刺したままでいた焔ちゃんの腕、というよりも袖から肘付近にかけて粘液が付着していた。


「雫〜! 勝ったよー!」

「ほ、焔ちゃん! やめて! 私まで粘液塗れにしないで!」


「ぶー。折角私がハグしてあげようと思ったのに」

「いや、あんなに悪そうな顔してたら誰だって逃げるよ!」


 急にスライムの形が崩れていったから反応できなかったのも仕方ないし、短剣という武器の関係上もあるが、ドロドロと粘液を垂らしながら、嬉しそうにこっちへ向かってくるのは是非やめていただきたかった。

 まぁ、抱きつかれる寸前の所で私が全速力で逃げたし、スライムがいつの間にか粘液から消える頃には、焔ちゃんの袖からも粘液は消えていたから、未遂で終わったが……。


 ともかく、こうして私達、というよりも焔ちゃんの初戦闘は呆気なく終わっていった。

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