63話 『いざ! 二層ボスの元へ!』
--それから暫く、私達が話している最中、ヒュドラは光の粒子となって消えていき、代わりにダンジョンのクリア報酬とでも言うべき宝箱が出現した。
倒れている焔ちゃんも宝箱は気になるようで、すぐさま起き上がったかと思えば怪我なんて気にせずに一目散に向かっている。
桜たちも私たちが動き出したのに気付いたのか、こちらへと歩みを進め始めた。
それに……やっぱり紅葉も焔ちゃんと同じなようで、宝箱の存在に気付いた瞬間、泣き止み、駆け出した。
「それじゃ開けるよ」
そんな焔ちゃんに続くように私達も歩き出し、宝箱に到達すると、私が開ける事になった。
皆んなに合図を出し、頷いたのを確認した私が宝箱を開ければ、そこに入っていたのはまるで生きているようにも見える蛇が付いた小手と巻物が一つ、後はお金の山だった。
「んー、この小手は能力からして冬にあげた方が良いかな? 皆もそれで良い?」
「そうだね、私が装備しても動きにくそうだし、自動カウンター機能がついてるなら守りの冬が適任だ」
「ウチも冬で良いと思うっすよ! 今回一番活躍してましたし!」
「私も遠距離から狙撃するのがメインなので、雫さんと焔さんが宜しければ冬にあげて欲しいです」
満場一致といった結果でヒュドラの小手は冬に渡される事になり、巻物はひとまず私が所持、お金は全員で等分といった形になった。
「そ、そんな、小手まで貰ってお金まで貰うなんて、私は要らないです……」
「良いから良いから、これは皆んなで頑張った報酬なんだからさ。受け取ってよ」
「うっ……はい。ありがとうございます……」
遠慮がちにしている冬へと無理やりお金を渡した事で、すっかり空になった宝箱を尻目に、私達は街へと戻る為にダンジョンから出る。
クリアした達成感と反省点を話しながら。
「ねぇ、焔ちゃん、そういえばこの巻物って……」
「あー、それはね、一回だけその紐を解いて使えばヒュドラがブレスを放ってくれるっていうアイテムだと思うけど、アイテムに説明とか付いてない?」
「あ、あった! それで合ってるみたい! でも、これは味方にも当たっちゃうんだね。使い方に気を付けないと……」
「ま、使う時は雫が合図を出してくれれば良いよ」
巻物の効果を知り、迂闊には使えないことを理解した私は、桜達にもピンチの時に使うけど、危険という旨も併せて効果を伝える事にした。
「ーーってな訳で、私が合図を出したら出来るだけ離れるか、私の後ろに来てくれると助かるかな」
「分かりました。ただ、元々私は後方からの攻撃が多いので心配ないと思いますが……紅葉、貴方が心配だわ」
「うん、紅葉姉は突っ込んでいくから心配……」
「そんな! ウチだってちゃんと合図くらい聞けるっすよ!! ねぇ、焔さんもそう思いますよね!?」
「あはは。それは、どうだろうねぇ……」
縋り付くように焔ちゃんへと助けを求めるも、目線を逸らされることで暗に否定されてしまい、紅葉は「そんなぁ……」と言いながら項垂れてしまった。
「紅葉、元気だして。ほら、街に戻ったらご飯が待ってるからさ!」
「そう……っすね! お肉沢山食べるっす!」
ご飯だけで機嫌が治るくらいチョロいと思った事は内緒だが、何はともあれ私たちは出口専用の長い階段をようやく上がりきり、外に出る事が出来た。
こうして、すっかり夜となっているフィールドを月明かりに照らされながら、私達は街へと帰っていくのだった。
「さてと、そろそろ休息は充分だしさ、ボス討伐に行こうよ!」
「うん。そうしよう。情報も集めたし、万全に攻略出来るだろうしね。桜達も大丈夫そう?」
「はい! 心身共に問題ありません」
「ウチも早く行きたくてウズウズしてたっす!」
「わ、私は皆さんに付いて行きます……」
各々が返答し、それを聞いた私は頷き、全員の装備とステータスの最終確認を行った。
とはいっても、遠足の持ち物確認程度の緩さだが。
「良し、それじゃ行こうか!」
こうして、ヒュドラを討伐してから数日。
ある程度の休養を挟んだ私たちの心身はすっかり回復し、二層攻略の為にボスの元へと向かい始めた。
元々予定していた事であり、実力も申し分ない。
加えて情報もあるのだから、それほど苦戦はしないだろうとたかを括っていたのだ。
しかし--それは余りにも傲慢すぎた。
「良し、とりあえず着いたみたいだね」
先駆者によって既に開拓されているルートを辿る事で、モンスターも少なく、安全だった為に比較的簡単に辿り着く事が出来た。
ただ、私たちと同じ時に二層を攻略しようと考えているプレイヤーはそれなりに存在し、ボスの元へと続く道、ボス前の広場にはそれなりの人数が集まっていて、臨時のパーティーなんかを求めたりしている。
「一層の時とは違ってここは賑わってるね。近くにモンスターが湧かないからかな?」
「んー、それもあるだろうけど、情報を見た感じだとパーティーの方がクリアし易いってのもあるんじゃないかな」
何度か声を掛けられようとも悉くをスルーしながら歩き続ける私たち。
後ろを振り向けば人混みが苦手なのか冬は桜にべったりくっついており、紅葉は掛けられる声に鬱陶しそうにしていた。
「さっさと行っちゃおっか」
はぐれる程の人混みではないが、それでもはぐれないようにしながら広場を抜けていき、そこから続く一本道を進んでいけば、喧噪が離れていくにつれて空気はピンと張りつめていった。
そうして、身構えながら進んだ先に見えたのは苔むした巨大な扉。
およそ人の手で開けられるとは思えなかったが、私たちが前に扉の前に立てばギィと音を立てながらゆっくりと開いていく。
「あ、あれが二層のボス……!」
「これは、中々どうして刃が通らなそうだね。冬の大盾よりも拳が大きいし、これは銃を持ってる桜と雫が鍵かな」
「あ、えっと、はい! 狙撃なら任せて下さい!」
私たちが扉から中に入れば、中央に鎮座しているのは胸の前で巨大な斧を構えている、鋼鉄の巨人、【アイアン・ゴーレム】。
扉が出られないようにゆっくりと閉じようとも動く気配はなく、さながら石膏像のようだ。
「紅葉、ちょっと来れる?」
「ん? なんすか?」
「この扉、一緒に開けれるか試してみよ」
「了解っす!」
焔ちゃん達がボスを見て話しているのが聞こえるが、それに参加せずにひとまず私は紅葉を連れて逃げられるかどうかの確認をする事にした。




