61話 『水中戦』
水中で身動きが取りづらい上に、私に残された酸素も少ない。
そんな中で、悠々と私を見つめるモンスターは焔ちゃんによって切り落とされた首を除く、三本の首をゆらゆらと動かしている。
警戒しているのか、それとも水の中という事もあって余裕とでも言いたいのか。
どちらにせよ、数分でどうにかしないと私の息が続かずに殺されてしまう。
だからこそ、少しでも速く動くために私は短剣を口に咥え、先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けた。
勿論、狙いは首だ。
「――!?」
ただ、そう簡単に接近させてくれる程モンスターも優しくはなく、器用に首を動かして私を囲むと、三方向から水の球を吐き出した。
それも、地上で見た時よりも一つ一つが圧倒的に大きく、尚且つ速かった為に、瞬時に下へと潜り込む事でなんとか直撃は回避したが、酸素をより多く使ってしまった。
ただ、三つの水の球がぶつかり合った結果、爆発したように衝撃波が発生し、私の体は抵抗する間もなく吹き飛ばされてしまった。
が、しかし、幸か不幸か偶然にもモンスターの巨体が壁になってくれたお陰でこれ以上飛ばされることはない上に、攻撃するチャンスまで生まれた。
この好機を利用する他なく、モンスターが見失っている内に短剣を思いっきりぶっ刺し、その傷口へと銃口を当て、私は酸素が続く限りその場に留まり、撃ち続けた。
傷口から血がどんどん溢れ出し、周囲が血の色に染まっていく中で、モンスターは痛みによって悶絶しているのか暴れ始める。
しかし、それでも私は振り払われないようにしがみつきながら撃ち続けた。
そうして一分程度経った時、モンスターは私を一刻も早く引き剥がす為か、今まで以上の速度で上へと向かって泳ぎ出し、水中から飛び出した。
「――雫!」
「戻ってきたよ! 焔ちゃん!」
モンスターが地上へと降り立つと同時に、私も離れ、離れ際に何発か追加で撃ってから急いで皆の元へと駆けだした。
「雫さんが生きてて良かったです。水に残されたと聞いた時はもう駄目かと思っていましたから」
「冬も死んじゃうんじゃないかって不安だった……」
「二人とも、心配掛けてごめんね。でももう大丈夫だから! あいつを倒して皆で帰ろう!」
未だ紅葉が目覚めていない中、焔ちゃん、桜、冬は私の言葉に頷き、武器を構える。
眼前の先には怒りのままに暴れ狂っているモンスター。
その全容は水に隠れていて見えなかったが、動くたびに地面が揺れるほどの巨体であり、一本一本の首が体よりも長い。
見た目から考えるに、このモンスターはヒュドラで間違いないだろう。
まぁそれにしたら首の本数が少ないし、まだ幼体とかの可能性は充分にある。
とは言え、目の前にいるヒュドラが幼体だろうが、生体だろうが、姿を現した以上はここからがボス戦の本番という訳だ。
紅葉が気絶して欠けた今、守りながら戦うのは難しいかもしれないが。
「焔ちゃんは私と前に出て! 冬は紅葉と桜の守りを、桜は援護射撃をお願い!」
「「「了解!!!」」」
怒りのままに吠え叫ぶヒュドラを見据えながら指示を出し、私に続いて焔ちゃんも走り出す。
しかし、ヒュドラに近づいていく内に咆哮の圧はどんどん強くなっていき、思うように進めなくなっていた。
「くっ、いつまで叫ぶのよ!」
吹き飛ばされないように踏ん張りながら、銃を構えて撃ちだす。
が、銃弾すらも届くことはなく、結局の所ヒュドラの咆哮が終わるまでの間、私たちは手を出す事すら出来なかった。
そして、音が止むと同時に顔をあげてヒュドラを見てみれば、まるで進化したかのように体の色が青から赤へと変わっていた。
「雫! ボーっとしないで! こいつ、陸に適応したみたいだから!」
焔ちゃんの声を受け、ハッと我に返ったその時、既にヒュドラは私へと向けて残った三本の首から水ではなく、炎の巨大な球を放ってきていた。
三つが重なった事によって、太陽のように膨れ上がった炎は私を飲み込もうと猛スピードで迫ってきている。
避ける事は不可能。防ぐことも出来ない。
直撃は免れない以上、どうにか死なない事を祈りながら耐えきるしかないだろう。
――っと、刹那の瞬間に考えていた。
「全く、雫は世話が焼けるんだから!」
「だ、駄目だよ! それじゃ、焔ちゃんが――!」
「……大丈夫。任せといてよ」
炎が眼前に迫る瞬間に、焔ちゃんは私へと振り向き、小さく笑った。
熱気で汗が流れるのを感じ、乾いた喉を潤す為に唾を飲み込む。
世界は不思議な事にスローモーションになっていて、焔ちゃんが何をしようとしているのか分かってしまった。
「ふぅ。……っ! ハァッ!」
一度瞬きをしてしまえば、世界は元通り普通の速度で流れていて、さっきまで感じていた熱気は消えていた。
代わりに額から汗を流しながら振りぬいた剣を収める焔ちゃんが私を見つめながら立っている。
つまり、炎の球を斬るという焔ちゃんの目論見は成功したのだ。
「ねっ? 大丈夫だったでしょ?」
「う、うん。助けてくれてありがとね。……それにしても、まさか本当に斬っちゃうなんて」
後ろを振り向き、真っ二つになった炎の球が水に落ちるのを見て、思わず声に出してしまった。
これでは信用していなかったと思われてしまうかもしれない。
「んー、私も正直一発で成功するとは思わなかったんだけどね。けどさ、ここで出来なきゃ二人とも死にはしなくとも致命傷を負う可能性が高いな。って考えたら集中力が増して、なんか出来ちゃった」
「なんか出来ちゃったって……普通は出来ないからね?」
「まぁまぁ、もうコツは掴んだから正面は私に任せてよ。雫は死角からの攻撃でよろしく!」
高揚している焔ちゃんは笑顔のまま駆け出してしまった為に、私は遠くなる背中へと「了解」という言葉を返してから、気合を入れ直した。
ーー今度は失態を見せないように。




