59話 『四つ首の主』
モンスターを倒した事を皮切りに、音が響いたせいで位置がバレたのか、次々とモンスターが押し寄せてきた。
倒しても倒しても、進めば待ち伏せされ、後ろからは迫ってくる音が聞こえる。
通路幅にも、暗さにも、寒さにも慣れたとしても幾度となく起こる戦闘で確実に私達は疲弊していた。
「そろそろ一休みできる場所があれば良いけど……」
息も切れ、疲れている皆からの返事はないが、同じことを考えているのは明白であり、私達は吸い寄せられるように罠にしか思えない窪みへと足を運んでしまった。
どうにかして休みたい、その一心で進んだことが間違いであり、疲れていれば普段なら絶対にしない行動もしてしまう。
油断が招いた結果である事は間違いないが、モンスターから隠れられる窪みへと全員が足を踏み入れた瞬間にこれが罠である事に気付いてしまったのだから既に手遅れでしかないのが現実だった。
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
「落ちてる! 落ちてるっす!!」
「ど、どうしたら、どうしたら良いんですか!?」
カチっという音が聞こえた瞬間に訪れた浮遊感。
これは紛れもなくトラップであり、なんとか着地は出来たものの、私達が辿り着いた場所は周囲が水に囲まれている小島のような場所だった。
異様な雰囲気が漂っているし、水の中には泳いでいる巨大な影がある。
これはどう考えてもボス戦だろう。
「皆! 来るよ!!」
視線を感じたその瞬間、私は固まっていた全員に伝わるようにと声を張り上げた。
「私が防ぎます! 皆さん私の後ろに!」
声を聞いた冬が大盾を構えて前に立ち、私と桜はその後ろに隠れて体を支える。
どんな衝撃がきても耐えられるようにと。
そして、紅葉と焔ちゃんは冬が防いだ後に仕掛けようとしているのか、左右に展開していた。
「来ます!」
冬が言葉と共に体へと力を込めるのと同時に、水中から勢いよく水の球が飛んできた。
それも、人を一人飲み込めるくらいの大きさであり、尚且つ4方向から飛んできている。
つまり、冬一人じゃ防ぎきれないという事だ。
「焔ちゃん! 冬をお願い!」
「任せて!」
防ぎきれないと判断した以上、避けるしか選択肢はなく、私が桜を抱え、焔ちゃんが冬を抱えることでなんとか避ける事が出来た。
しかし――。
「ッ! ……すいません、しくじりました……」
私達がなんとか避けている中、紅葉の注意もこっちに向いてしまっていたのか、伸びてきた首を避けることが出来ずに巻きつかれてしまっていた。
紅葉の顔が徐々に青白くなっていき、肺も圧迫されているのか声も出せていない。
自力での脱出は難しいだろうし、このままでは紅葉が死んでしまう。
……けど、すぐにでも助けたい思いがあっても、私達を阻むように残りの首が攻撃を仕掛けてくるのだ。
「雫! 私が無理やり突破する! 後ろに付いてきて!」
「了解!!」
埒があかない状況を打開すべく、焔ちゃんが攻撃を受けることを前提に突き進み、私はその後ろから援護する。
また、桜も冬に守られながら援護射撃してくれているし、これでなんとか紅葉の事を助けられるだろう。
「やばいやばい、それはダメ!」
「雫!?」
私達の猛攻を凌ぎきれないと判断したのか、モンスターは紅葉を飲み込もうと大きな口を開けていた。
それに加え、ズルズルと水の中に引き摺り込もうとしているし、紅葉だけでも確実に殺すつもりだ。
でも、そんな事は許さない。
「はぁぁぁ!! 食べさせるわけないでしょうがぁぁぁ!」
いち早く気付いた私は全速力で駆け抜け、モンスターの開いた口を無理やり閉じさせるように下から蹴り上げる。
衝撃によって仰反るモンスター。
だが、その目は死んでおらず、未だ私よりも紅葉を食べようとすぐに動き出した。
ただ、私が特攻した事に驚きつつも、すぐに状況を理解した焔ちゃんが首を切り落とそうと剣を構えているのだ。
その事に気付いていない以上、紅葉が食べられる事はない。
――筈だった。
「焔さん! 危ない!」
「ッ!」
私も焔ちゃんも、衝動によって動いた結果、視界が狭まっていたのだ。
だからこそ、横から迫る攻撃を見過ごしてしまった。
桜からの声に気付こうとも、時既に遅く、私の目の前で焔ちゃんは吹き飛ばされてしまった。
「焔ちゃん!? 大丈夫!?」
受け身も取れず、ゴロゴロと転がっている。
無防備な所を狙われ、衝撃も痛みも大きかっただろう。
「痛てて。こんなに威力高いのか。こりゃ、これ以上の直撃はくらっちゃいけなさそうだ」
「もう、そんな悠長に言ってないで、早くポーション飲んで! 血も出てるじゃん!」
頭から血を流しながらも、呑気にしている焔ちゃんの元にすぐさま駆け寄り、ポーションを投げ渡す。
血は出ていようともそこまで重傷を負っている訳ではなさそうだった為に、私はすぐさま紅葉の元へと戻り、回収を試みた。
「桜! ずっと頭、特に目を狙って撃ち続けて! 冬は焔ちゃんの守りをお願い!」
「「はい!!」」
指示を出し、倒れている紅葉へと手を伸ばす。
もう少し、もう少しで届く。
――だけど、私の手が届く事はなかった。




