58話 『敵襲!?』
壁に松明を設置していき、明かりを確保しながら進んでいく私達。
通路幅は狭く、水で濡れているのかツルツルと滑ってしまいそうになるが、それでも離れないように固まって動き続けていた。
「なんだか肌寒いね」
「うーん。二層が砂漠で熱い代わりに地下は涼しくなってるからかな?」
私達が入ったのは岩山からだが、それでも太陽が燦々と照らし、気温が高かった二層とは違い、下に進むにつれてどんどん空気は冷えていった。
温度差を感じて寒く感じているだけかと思い、皆んなに聞いてみても、焔ちゃんは平気そうだが、他は体を震わせている。
「冬、大丈夫?」
「はい。ちょっと寒くて動きづらいですが、まだ問題ないです」
「そっか。危なくなったらすぐ言ってね。それで、紅葉と桜はいつでも戦えそう?」
先頭を焔ちゃんに任せ、私は後ろで警戒している三人へと話し掛ける。
張り詰めた空気の中で、適度に会話をした方が良いと考えたのと、震えている体では襲撃された時に対応出来るか心配になったからだ。
もし、動くのが難しいのなら私が後ろを警戒して三人を焔ちゃんと挟んで進む陣形に変えるべきかもしれないし……。
「そうっすね。ウチは足先が冷えちゃってるので、急に動くのは難しいかもしれないっす。慣れてなくて申し訳ないっす……」
「私は紅葉と違って指先が少し……。引き金を引くのが咄嗟には出来ないかもしれません」
「了解。それじゃ、少し陣形を変えようか。私が後ろに行くよ」
申し訳なさそうな表情をしている二人を見て、私が後ろに行く事を選択した。
ダンジョン攻略の経験が乏しい三人に無理はさせたくないし、松明の火でまずは体を暖めてもらうのを優先してもらう為に。
「雫! 前から敵襲! 数は分からないけど、それなりに居るかも!」
「待って、こっちからも来てる!」
ダンジョンを進み続けて数十分。アリの巣のように入り組んだ道を進んでいた私達は、まんまとモンスターの奇襲を受けてしまった。
「紅葉は私を手伝って! 前の敵を蹴散らすよ!」
「りょ、了解っす! 焔さんに合わせてみせます!」
狭い通路の中で襲われては身動きは取りづらく、出来るだけ離れないようにするのを優先した私達は、ひとまず敵を近くまで引き寄せた。
そして、私からでも焔ちゃん達が相対している敵は見えた。
陸に適応した魚のような、半魚人。
所謂リザードマンと呼べるモンスターの姿が見えた時、焔ちゃんの合図に合わせて紅葉も動き始める。
「冬、悪いけど前に出て耐えれるかな? 私と桜で撃ち落とすから!」
「任せてください! 大盾の役目を果たします!」
「有難う! 任せたよ! ーー桜! 桜は襲われる事を気にしないでとにかく見える敵を片っ端から撃って!」
「了解しました!」
前からはリザードマン。後ろからは蝙蝠と壁を伝って歩く巨大な蟻が攻めてきている。
冬も桜も既に昆虫には耐性があるのか、或いは無理やり耐えているのかは分からないが、カサカサと歩く音を聞いても怯える気配はなかった。
しかし冬に何匹もの蟻が重なった時ーー
「嫌ぁぁぁぁ!! 気持ち悪い! 気持ち悪いです! 離れてください!」
「冬! 今助かるから!」
前衛として守りを一手に引き受けてくれている冬はモンスターにとっては格好の的になっており、大盾を幾ら振り回そうとも途切れないくらい襲われていた。
しかし、冬が襲われているということはつまり私たちには攻めてきていないという事であり、蝙蝠は桜に任せ、私も短剣を手に蟻へと走り出す。
「はぁぁぁ! やぁぁぁあ!」
虚を突いた連撃で次々と殲滅していき、数が少なくなった蟻は逃げるように退いていった。
元々数は少なめだった蝙蝠もいつの間にか全て倒されており、振り返って焔ちゃん達を見てみれば既に倒し切っている。
「冬、お疲れ様」
「はぁはぁ。凄く、凄く気持ち悪かったです!」
「あはは。そうだよね。よく頑張ったね」
ダンジョン内において逃げていったモンスターを追う事は危険な為に、冬を労った後、私達は休む事なく進むことにした。
ダメージも特になく、苦戦という苦戦もしなかったが故に休憩は必要ないと思ったからだ。
まぁ、冬に関してだけ言えば、少し休ませてあげた方が良かったかもしれないが。




