6話 『初めての外』
「お前ら! 何をやってるんだ! 街中は戦闘禁止だぞ!」
騒ぎによって誰かが呼んだのか、或いは駆けつけたのかは分からないけど、両者の争いを止めるようにして兵士が入ろうとした。
けれど、その時にはもう遅かった。
「はっ? 何言って……うわっ!」
例え他人であるとしても、目の前で短剣が突き刺さるという光景を見る事は私には出来ず、咄嗟に目を閉じてしまう。
でも、不思議な事に痛みで叫ぶ声や、周りの人の悲鳴なんかは聞こえなかった。
ただ、代わりに弾かれたような音が響いただけ。
「大丈夫みたいだよ。ほら、見て」
「……いや、でも……」
もしも仮に目の前に血塗れの人が倒れているのなら、きっとトラウマになってしまう。
そんな恐怖が私を襲うけど、弾かれた音の正体を知る為に目を開けた。
「あれ? あの人、怪我もしてない?」
「うん。そうみたい。雫は目を閉じてて分からなかったと思うけど、短剣が突き刺さる瞬間に壁みたいのが出来て、弾かれてたよ」
「って事は、あの兵士さんが言ってた通り、街中じゃ戦闘は禁止されてるんだ。良かった……」
街中では戦闘が出来ないとするなら、誰かを殺すことなんて出来ないということ。
つまり、街中はある程度安全が確保出来る場所で間違いない。
けど、殺すのは無理だとして、暴力を振るうこと自体が止められるとは限らないし、外の村なんかじゃモンスターに襲われるだろうから、焔ちゃんが言っていた壁というのも発生しないと思う。
「焔ちゃん、街中でも、外でもあんまり離れないでね。ちょっと怖くなっちゃったし」
「もー、雫は可愛いなぁ! 任せといてよ、私が雫を絶対に守るから!」
「うん。お願いします」
騒ぎが起こり、兵士まで駆り出されたものの、それに乗じて新しい騒ぎが起こる事はなく、集まっていた人たちも次第に去っていった。
ただし、相変わらず門の前では先ほどの2人が言い争っているし、このままここで突っ立っていたら絡まれてしまう可能性がある。
だからこそ、私達は2人と目を合わせないようにしつつ、人混みに隠れながら外へと飛び出した。
「ふぅ。ようやく外に出れたね! さぁ、モンスターを倒しに行こう!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、焔ちゃん! まだ心の準備が出来てないよ!」
「大丈夫だって、近場で戦ってれば最悪逃げれるだろうし、傷ついても街に入って休めば問題ないよ!」
「確かにそうだけど……」
街の入り口には、元々配置されていたであろう兵士達が立っており、門は封鎖等はされていない。
夜になったら封鎖されてしまうかもしれないけど、そこまで遅くはならないと思うし、いつでも戻れると思って良いはず。
「そ、そういえばさ、この街を統治してる人とかも居るんだよね?」
「ん? 雫ってばさてはモンスターと戦うのが怖いからって、適当な話を振ったな〜?」
「違うよ。怖くないし!」
「そう? ま、でも立ち話も疲れるしさ、座ろっか! ほら、この芝も結構良い感じだよ!」
門から少し離れた草原で、私達は座り込み、話し始める。
と言っても、さっきの焔ちゃんの言葉は当たっていて、少しだけモンスターと戦うのが怖いからこそ、私が話題を振り続けているだけなんだけど……。
「あー、でもさ、さっきの話になるんだけど、街を統治してる人からしたら私達プレイヤーは厄介な存在だよね。少なからず野蛮な人も居るしさ」
「確かにそうかも。怖い人もいるし、なにより人数が多いもんね」
「そうそう! 突然こんな大人数が来たら迷惑でしかないよね。ま、私たちもそのプレイヤーの1人なんだけどさ」
焔ちゃんは笑いながら話しているし、プレイヤーである私たちからすれば関係ないような話だけど、当事者である人からすれば笑えない事だと思う。
なにせ、数千人規模の人達が突然この世界の、一つの街にやってきているのだから。
例え、お互いに干渉する事もなく、この世界で暮らしたいと思う人だけが干渉するとしても、私達プレイヤーは迷惑極まりない存在だ。
まぁ、そうは言っても、始まりの街である以上、ゲームとしては普通だし、なんとも思っていない可能性もあるけど……。
「って、焔ちゃんは警戒してなさすぎじゃない?」
「いやいや、モンスターもいなさそうだしさ、ほら、気持ち良いから雫も寝転がってみなよ!」
私が1人で難しく考えていると、焔ちゃんは綺麗な青空と太陽、それに心地よい風が吹く中で寝転び始めた。
確かに、周りにモンスターは見えないけど、警戒しなさすぎな焔ちゃんに少し呆れそうになるけど、なんだかとても気持ちよさそうな姿で、私もついつい隣に寝転んでしまった。