57話 『いざダンジョンへ!』
モンスターを倒し、依頼を達成した私達はNPCと出会った場所へと戻り、報酬を受け取っていた。
宝箱も開け、中身がそれなりに良い物だったということもあって、既に私たちの間に気まずい空気は流れておらず、いつも通りの和気藹々とした空気が流れている。
とは言っても、内容自体はなんていうか所謂女子会のようなものじゃないが……。
「ねぇ! 雫も次はダンジョンに行くべきだと思うよね!?」
食事処で豪快に肉を齧り、お酒で飲み込むと、焔ちゃんは同調しろと言うかのように顔を近付けてきた。
「違いますよ! ウチはさっさと二層を攻略するべきだと思うっす! ウチらならもう余裕っすよ!」
対して、紅葉も負けじと私へと近付き、二層を攻略しようと言ってきている。
正直、私としてはどっちから先にやっても良いのだが、ここで『どっちでも良い』と言ってしまえば、二人が更に騒がしくなるのは想像に容易い。
だからこそ、ひとまず桜と冬の意見を聞くべきだろう。
狡いかもしれないが、多数決にしてしまえば私は多数派につけば良いだけなのだから。
「ま、まぁまぁ落ち着いてよ二人とも。桜と冬の意見も聞かないといけないしさ」
「桜! 桜はダンジョン行きたいよね!?」
「冬は違うっすよね? 二層をさっさ攻略したいっすよね?」
怒涛の勢いで仲間を作ろうする二人だが、桜と冬はこうなる事が分かっていたのか、パスタを食べるのを中断してまで私の後ろに隠れ、こっそりと自分達の意見を耳打ちしてきた。
「はい、それじゃ焔ちゃんも紅葉もちゃんと座って」
手をパンパンと叩き、子供を大人しくさせるように二人を座らせる。
「それじゃ今から次に行く場所を発表します。今回は多数決なのでどっちになったとしても文句は言わないように」
意見が対立している以上、どちらかが決まれば、片方は文句を言いたくなるだろう。
だからひとまず先に釘を刺しておき、私は自分の意見も交えながら決定した行き先を話した。
「ーーんー! 良いダンジョン日和だね!」
「むぅ。そうっすね。ウチも楽しみっす……」
休日を挟み、もう少し強くなる為にダンジョンへと行く事に決定した私達は朝早くから宿屋を出て向かっていた。
焔ちゃんはワクワクといった感じだが、紅葉は依然として不貞腐れており、冬と桜が必死に宥めてはいるものの効果は薄そうだ。
「紅葉、これあげるよ。前回の魔獣討伐で頑張ってくれたしさ、今回も期待してるから、これを装備して宜しくね」
「えぇ!? 良いんすか!? 頑張るっす! 任せてくださいっす!」
魔獣討伐によって貰った報酬はお金以外となると三つの装備品だった。
どれもがピアスではあるが、二層という階層においては破格の性能をしているのは間違いない。
でも、私達は五人パーティーなのだ。
三つとなれば誰かが我慢する他なく、ステータスなんかを考慮した結果、冬と焔ちゃん、そして私が貰う事になってしまったのだ。
STR3%のピアスは私、VIT3%のピアスは冬、そしてAGI3%のピアスは焔ちゃん。
つまり、桜と紅葉が貰えない結果となっている。
「……あの、ホントにあげちゃって良いんですか?」
「……良いの良いの。紅葉が頑張ってくれたのは事実だしさ」
桜が心配するように小声で声を掛けてくるが、私がパーティーリーダーというだけで貰うのも気が引けていたし、助けてくれた紅葉が受け取った方が良いのは確かだからこそ、その旨も一緒に桜へと伝えた。
「雫さん、気遣ってくれてありがとうございます」
「気にしないで良いよ。こういうのもリーダーの仕事だからさ」
仲間が、チームメイトが暗い顔しているのも、対立しているのも私にとっては嫌な事なのだ。
出来る事ならずっと笑って楽しくしていたいが、それが難しい事だとは分かっている。
でも、少なくとも私が出来る事をやって笑顔になってくれればそれで良いのだ。
「さ、着いたよ! この岩の隙間から入ればダンジョンだ!」
テンションの上がった紅葉が終始冬や桜に絡み続け、私と焔ちゃんでモンスターを倒しながら進んでいると、太陽が傾く前に私達は焔ちゃんが見つけていたダンジョンへと到達することが出来た。
未踏である事を示すかのように、中はとても暗く、松明なんかで明かりは確保されていない。
いつどこでモンスターに襲われるか分からない中、私達は慎重に進む事にした。




