51話 『霧に誘われて』
一週間を乗り越えてからというもの、それからの私たちはまだまだレベル上げなんかが足りないと考え、メンバーを入れ替えながらモンスター討伐を繰り返していた。
そして、その最中で私も紅葉と組むことが勿論あり、焔ちゃんが苦労した理由も分かるのだが、これは言うまでもない事だ。
それよりも、そんなレベル上げを繰り返して一ヶ月経った今日、今現在の状況の方が重要だろう。
なにせ、NPCに呼び止められて魔獣討伐の依頼を頼まれてしまったのだから。
「よーし、それじゃ早速魔獣討伐に行こっか!」
「んー、確かに私たちもある程度は強くなったし……でもなぁ、討伐依頼ってことはボスも居るだろうし……」
私と焔ちゃんだけならば何かあっても対処出来る能力があると自負している。
けど、桜達はどうだろうか。レベルも上がり、ステータスも高くなり、冬に関して言えばユニーク武器と素質が相まって相当強くなっている。
でも、それでも圧倒的に経験が足りていないのが事実だ。
今まで三人から、主に桜から聞いた話だと、二層に来る前も一層のボス以外では戦っていないらしく、冬のユニーク武器も偶然戦闘じゃないイベントで入手したものだと言っていた。
つまり、三人ともボスとの実践経験が乏しいのだ。
「し、雫さん! 焔さん! 私たちなら大丈夫です! 付いていく事も容易です!」
「そうっすよ! 心配そうな顔しなくても問題ないっす!」
「冬も沢山鍛えてもらったから怖くない……よ?」
視線を向けたのは一瞬。
それでも桜達にとって私が何を心配しているのかを理解してしまったようで、近寄ってきては口々に「大丈夫」と繰り返している。
「うん。分かってるよ。三人が強くなったことも、もう心配しなくても良い事くらい。……でもね、不安なんだ。やっと出来た仲間だからさ、もし失ったりなんてしたらと思うと……」
「――雫! 後ろ向きに考えちゃ駄目だよ! 折角桜達がここまで言ってくれてるんだから! 信じてあげようよ! それが仲間でしょ?」
「うん、そう……だよね! よし! それじゃ行こうか! 魔獣討伐に!」
焔ちゃんに檄を飛ばされ、俯いていた顔を上げた私にはもう迷いはなかった。
依頼を受けた以上は討伐しなきゃいけないし、桜達にとっても良い経験になるはずだ。
だからこそ、今こうして和気藹々と楽しんでいる桜達の心をへし折るほどの強い魔獣じゃないことを祈っておこう。
◇ ◇ ◇
魔獣が暴れているという場所は、街から離れた、この二層において唯一の森林地帯であり、到着する頃には日が沈みかけていた。
木々によって光は遮られ、鬱蒼とした空気と、遠くなのか近くなのか分からないモンスターの鳴き声が響いている。
これが夜になればもっと不気味な雰囲気になっていくが、現状怖がっているのは冬だけだし、無理に明るい雰囲気を作らなくてもいいだろう。
「桜姉、紅葉姉、手を繋いで下さい……。怖いです……」
「えー、手なんて繋いだら襲われた時に対処出来なくなっちゃうよ! ね? 師匠もそう思うでしょ?」
「うーん、確かにそう思うけど、でも先頭の私が警戒してるし、雫も居るからそこまで紅葉が急いで対処するってことはないんじゃないかな。今は五人だしさ、妹が怖がってるんだから手くらい繋いであげなよ。あ、それと師匠呼びはしないでね」
「そ、そうっすね! んじゃウチは冬が怖がらないように手を繋いであげることにします!」
紅葉にとって、今の焔ちゃんの言葉は少し厳しいものだったかもしれない。
恐らく焔ちゃんは無自覚に言っただけだと思うが、それでも紅葉に必要ないと言っているようなものなのだ。
言葉を受けた後、苦笑いというか、愛想笑いのようなものをしたのが見えたし、ここは私がどうにかするべきだろう。
「ねぇ紅葉、私が冬と手を繋ぐからさ、桜と一緒に警戒して貰っても良い?」
「えっ!? っと、はい! 任せて下さい! ほら、桜行くよ!」
「んっと、うん! それじゃ雫さん、冬を宜しくお願いします!」
頼られたのが嬉しかったのか、目を輝かせながら桜の手を引き、紅葉は前線へと走って行った。
残されたのは冬は一瞬だけ名残惜しそうな顔をしていたが、私が他愛無い話を振る事によって徐々に恐怖が薄れていったのか、森の中腹でモンスターから襲撃を受けるころには震えは止まっていた。
「雫! 前と裏からモンスターが来るよ! これじゃ挟み撃ちされちゃうからそっち頼むよ!」
「了解! こっちは任せておいて! ヤバくなったら呼んでね!」
森の最深部に迫るにつれてモンスターの数が急激に増えていき、私たちはパーティーの分断を余儀なくされていた。
それでも今までメンバーを入れ替えて連携の練習をやってきた甲斐もあり、大きな傷を負う事もなく戦えている。
ただ、段々と霧も濃くなっているし、あまり離れて戦っていたら合流出来なくなる可能性が高いのも事実だった。
「――雫!? どこ行くの!? モンスターはもう――!」
「大丈夫! 後はこいつだけだから!」
難なくモンスターを討伐していき、私と冬は二人で残りの残党も倒してしまおうと考えた。
恐らく焔ちゃんからは死角になっていて姿が見えていないのだろう。
だから、切羽詰まったように私へと声を掛けてきている。
「雫さん、皆の声がどんどん離れていきますが、戻りますか?」
「ううん、まだそこまで離れてないし一気に仕留めちゃおう。そっちの方が後々楽になるからね」
「……分かりました」
微妙な間を持ってから発した言葉はなんだか不安を抱えているように聞こえたが、私はそこに追及する事もなくモンスターを追う事に集中した。
最後の一体、道案内するかのように逃げ続けるモンスターの事を。
しかし、私はすぐに自分の判断が如何に愚かだったのかを知る事になる。
焔ちゃんたちの声も聞こえなくなり、霧はどんどん濃くなっていき、冬ともピッタリくっついていなきゃ見えない程になるのだから。




