5話 『険悪な2人組』
「あのー、私たちまだ駆け出しの冒険者でして、色々教えて欲しいことがあるんですが……」
買い物を済ませた私たちは、店を出る前にこの街についてや、街の近くにはなにがあるのかを聞こうと考えた。
今の私たちにとって、この世界が現実だからこそ、あらゆる情報は手に入れておいて損はない。
「そうだねぇ。他所の店に行かれたら困るけど、あんた達は冷やかしじゃないしね。良いよ、なんでも教えてあげる」
それからしばらく、この街の広さや、近くの店、オススメの宿屋なんかを聞いていると、奥から昔冒険者紛いの事をやっていたという人が出てきて、私たち冒険者に必要なアイテムが売っている場所なんかも教えてくれた。
中でも、街の外には幾つか村があって、街よりは金額は高いものの、そこでもアイテムを買えるという情報は有り難いものだ。
なにせ、外に出て冒険をしている最中に、アイテムも尽きて、モンスターに襲われてとなると、街に戻れなくなる可能性が高い。
そうなった場合に、行く行かないに関わらず、村の位置だけでも知っておけば最悪の状況に陥ったとしてもなんとかなる。
「すいません、色々教えていただきありがとうございます!」
「元冒険者の方に教えていただきとても助かりました! 本当にありがとうございます!」
「ほら、あんたのお陰で女の子達が感謝してるよ。良かったじゃないか」
「いやー、あははっ。正確には冒険者じゃないんだけどね。それに全然強くはなかったし、近いことをやっていただけだから……まぁでも、君たちみたいな駆け出しを少しでも助けることが出来たなら僕の経験も無駄じゃなかったかな」
この人にとって、きっとその生活はとても厳しいものだったのだろう。
どうしてやめたのか、どうして無駄だと思ってしまったのか。
その理由を聞くのは野暮というもの。
だからこそ、私達はただ頭を下げ、感謝を述べて店を出る事にした。
「……やっぱり冒険者って辛いのかな」
「うーん。どうだろうね。その人次第じゃないかな? 私は今楽しみで仕方ないし、結局の所自分に合ってるか合ってないかだと思うよ」
「そうだよね。私も、焔ちゃんがいるからこそちょっと楽しみって思えるけど、1人だったらどうなってたか分かんないし……」
事実、私が仮に1人でこの世界に来たとしたら、多分、どこかで引きこもってしまっていると思う。
まぁ、焔ちゃんがいなかったとしたら、私もゲームをやっていないわけだから、この世界にはいないと思うけど……。
「ま、どっちにしてもやってみなくちゃ分かんないし、今考えても仕方ないよ! さ、とりあえずアイテムを買いに行こ!」
「うん!」
私の心に潜んでいた恐怖という感情を全て吹き飛ばしてしまうほどの笑顔と、差し出される手。
握って分かるその温もりに、私は心から焔ちゃんが居てくれて良かったと思うのだった。
その後、仲良く手を繋ぎながら、教えてもらった薬屋で幾つかのポーションを買った私達は、ようやくモンスターを倒しに行こうと考えた。
とはいえ、銃なんて使ったこともない物だし、最初からうまくは使えないだろう。
だからこそ、そして、一度買った弾を撃ってみようと思い、空に向けたその瞬間ーー
「お前がヘイト管理をちゃんとしてればこんなに傷を負う必要なかったんだよ! ポーションの無駄遣いじゃねえか!」
「うるせえ! 毎回毎回俺にばっかり押し付けやがって! お前はモンスターに攻撃される痛みを知らねえだろ!」
「そんなもん知るわけねえだろうが! お前が盾役をやるっていったんだろ!? 今更グダグタ言ってんじゃねえよ!」
突然の怒声にびっくりした私は、咄嗟に銃を隠してしまった。
特になにも悪いことはしてないけど、体が勝手に動いてしまったのだ。
とはいえ、その行動は正しかった。
なにせ、丁度外から帰ってきたのか、傷だらけの人達が言い争っているのだ。
もしも銃を持っていたのなら、こっちに注意が向いてしまっていたかもしれない。
「……あぁ、そうかよ。それじゃ俺が痛みを教えてやるよ!」
争いが激化したことで、耐えられなくなったのか、1人の男が短剣を取り出し、それで刺そうとし始めた。
このままでは刺された方は死んでしまうと思いつつも、私の体は動かず、ただ目を閉じて、震える手で焔ちゃんの手を強く握りしめることしか出来なかった。