48話 『相性悪い……?』
雫たちと離れることになり、紅葉と二人でパーティー組むようになった初日から三日目迄、私たちはただひたすらに連携なんて気にしないかのように各々モンスターと遭遇しては自由に戦っていた。
勿論、紅葉が周りを見ているかは分からないが、私がぶつかったり、邪魔しないように配慮しながら戦っていたのは言うまでもないだろう。
そして、そんな特訓というかモンスター討伐は比較的上手くいっていた。連携なんて皆無に等しいが、自由というのが私たちに合っているのか、不思議とスムーズにモンスターと倒せていたのだ。
ただ、これはあくまでも私たち二人だからこそ上手くいっているだけというのは理解している。
雫たちと組むようにまれば五人になるわけだし、自由というのは難しいだろう。
だから、三日目が終わって上機嫌な紅葉へと私は一つの提案を出すことにした。
「あのさー、明日からなんだけど、今まで通りモンスターを倒すのは良いとして、ちゃんと連携を取れるようにしてみない? ほら、今は適当だけどさ、これからもこんな感じじゃ困るしさ」
「了解っす。ウチもそれで全然良いっすよ! 桜達ともパーティーを組んでたんで余裕で出来るっすもん!」
「そ、そう……? それじゃ明日に期待するね」
「任せて下さいっす!」
ビシッと自信満々言い切った紅葉へと少しの不安を覚えつつも、ひとまず提案を嫌がられずに済み、連携の練習が出来るようになったことを喜ぶことにした。
そうして次の日、私の嫌な予感は的中してしまい、その日の私たちはまるでいつものような動きが出来ず、普段なら簡単に倒せるモンスターにすら苦戦し、傷を負ってしまうという事態にまで陥っていた。
「紅葉~! 勝手に動き回ってないで私の指示をちゃんと聞きなさい!」
「えー!? 桜達と一緒の時と同じようにやってるだけっすよ!?」
「むむむっ。そうなのか。でも、今みたいな戦い方じゃフォロー出来ないくらい離れたりするし、正直言って紅葉って突っ込んでるだけだから危なっかしいんだよね。モンスターを倒すことに夢中で周りが見えてないでしょ?」
傷を負いはしたものの、一旦連携というのを捨てればまたいつもように簡単に倒すことが出来、ひとまず周囲にモンスターが居なくなったのを確認してから、私は紅葉の戦い方について厳しい事を交えながら指摘する事にした。
「うぐっ、確かにウチは夢中になっちゃうと周りが見えなくなって突っ走っちゃうのがあるのは認めるっす……。でも結果的にモンスターを倒せてるなら良くないっすか?」
「んー、それはそうかもしれないけどさ、それじゃ仲間になった意味もないじゃん? っていうか、紅葉が全部一人で出来てるなら私もここまで言ってないからね」
ちょっとキツイ言い方かもしれないけど、それでも私は紅葉のそういう考え方を改めて欲しいが為に言い放った。
案の定、言われた直後はポカーンとしていたが、今は言葉の意味を理解したのか、不貞腐れたような、いじけた様に私から目を逸らして距離を取っている。
正直これではまたモンスターに襲われた時に助けるのが難しいから近くに居て欲しいのだが、暗に紅葉は一人じゃ何も出来てないと言ってしまった手前、私も気まずいのだ。
「あー、その、なんていうかさ、私もちょっと感情に身を任せて言っちゃった部分もあるし、嫌な思いさせちゃったよね。……ごめんね」
いつも元気な紅葉が数十分も喋らず黙々と考え事をしているが為に、嫌われてしまったのではないかと思った私はたまらず声を掛けてしまった。
……ただ、私の謝罪を聞いた紅葉の反応は予想外のものであり、まるで驚いているかのように目を丸くしているのだ。
「え、えっと、焔さんが何か悪い事言いましたっけ!? す、すいません! ウチってばまた何かやっちゃいました!?」
慌てた様に私へと近づきながら精一杯謝ってくる紅葉を見て、私は自分が誤解していたことにようやく気付く事が出来た。
そもそも、紅葉は私の事を嫌っていたわけじゃなかったのだ。距離を取り、黙々としていたのも、考え事をしていたらいつの間にか離れていただけとの事だし、私の被害妄想が過ぎただけ。
「いや、違うの。紅葉は悪くないよ。私が嫌われたと思ったから仲直りしようと思って早とちりな行動をしちゃっただけだからさ」
「い、いやいやウチが焔さんを嫌うなんてあり得ないっすよ! でも……そうっすね。やっぱりウチが悪いと思うっす。いつもこうやって迷惑掛けちゃうんすよ。あはは、ウチって面倒くさいっすよね……」
無理矢理作ったような顔。作り笑いを見て、私は思わず抱きしめてしまった。
自分と似ているような気がして、なんとなくその心の内が分かるからこそ、私は無意識に動いてしまった。
当然、突然の事で紅葉は驚いてるけど私はまだ離さない。
「ちょ、これじゃ襲われたらどうしようも出来ないっすよ! それにどうしたんですか突然!?」
「良いの。ちょっとジッとしてなさい。何が起きても私が守ってあげるから」
「うっ……了解っす」
紅葉は言葉足らずで、でもそれでいて色々考えては溜め込んじゃうタイプで、多分吐き出し方を知らない。
私が雫に出会う前にそうだったように、紅葉は昔の私とそっくりだった。
多分このままじゃいつか潰れてしまうだろう。
だからこそ、せめて少しでも気持ちが理解出来る私が受け皿になれるように、私は抱きしめながら自分の気持ちを吐露した。
それはもしかしたら過去の自分を慰めるものだったかもしれない。
けど、それでも昔の私の話をすれば紅葉も自分と似ていると思ったのか、感応したように静かに泣き出してしまった。
 




