44話 『鍛冶屋にいるプレイヤー』
これからの方針を皆へと話した結果、五人で行動するよりもパーティーを分断してレベル上げをする事に決まった私たち。
明日から一週間程私は焔ちゃんとは別行動になってしまうし、なんとなく寂しい気もするけど、パーティーリーダーである私が文句を言う訳にはいかない。
それに、分断する事を決めたのも焔ちゃんと一緒に決めたのだから仕方がない事だ。
「あの、今日の戦闘で防具が傷ついてしまったので鍛冶屋に行きたいのですが……その、ついでに親睦会というかパーティー記念にご飯でも一緒に食べませんか?」
私が考え事をしているとき、おずおずとしながら桜が挙手をして発言し、私たちはその提案に乗っかった。
幾ら明日から一緒だとしても、その前にもっと仲良くなるのも大事な事だ。
なにより、簡単にしか食事をしなかった事で皆がお腹を空かしているのなら、大勢で食べた方が美味しくなるだろう。
「よし! そうと決まればご飯を食べに行こう! お酒も飲めるところが私は良いな!」
「ちょ、焔ちゃん! その前に鍛冶屋ね! ご飯はその後!」
「ふふっ。焔さんは随分とお腹が空いているみたいですね」
クスクスと笑う桜、そしてその前に盛大にお腹を鳴らす焔ちゃん。
赤面している焔ちゃんは小さく私の言葉に頷き、隠れるように縮こまってしまった。
「あ、ウチももうお腹が空きすぎて背中とくっついちゃいそうです! そうだ! 焔さんとウチは先にご飯食べても良いんじゃないっすか? 席も取れますし!」
「紅葉姉、それは図々しいと思う。冬と紅葉姉の防具を直しに行くんだから」
良い提案をしたかのように誇らしげにしていた紅葉を止める形で冬が袖を掴み、焔ちゃんと同じく紅葉もしょんぼりとしてしまっている。
ただ、別に全員で鍛冶屋へと行く必要はない。
むしろ紅葉の提案通りの方が良いまである。
「よし! 決めた! 紅葉の提案に従って、焔ちゃんと紅葉は先に行って席取りをよろしく!」
「雫〜! ありがとっ! 大好き!!」
余程お腹が空いているのだろうと思い、そんな姿を見兼ねて焔ちゃんと紅葉を先に行かせることに決めると、歓喜した焔ちゃんは徐に抱きついてきた。
「先に行って食べ過ぎないようにだけしてよね」
「はーい! ほら、紅葉! 行くよ!」
「えっと、でも……」
紅葉はチラッと桜と冬に視線を向ける。
桜は笑顔で手を振り、冬は頬を少し膨らませて目を合わせないようにしていた。
「私は冬のそういう所も私は凄く良いと思うよ。でも、仲間なんだからそんなに気を遣わなくて自由にして良いからね」
「……むぅ。雫さんがそう言うなら……。紅葉姉も食べすぎないようにだけ注意して下さい」
「うん!」
冬の言動にパァッと顔が輝いた紅葉は大きく頷きながら返事をする。
これではどっちが姉か分からないが、これはこれで良好な関係なのだろう。
「それじゃ行ってきまーす!」
「頑張って席をもぎ取って見せるっすよ!」
焔ちゃんに手を引かれ、駆け出して行く紅葉を見送った後、残った私たちはゆっくりとした足並みで鍛冶屋へと赴いた。
「ごめんなさいね。紅葉ったら自由というか、適当な性格をしてまして……」
「冬も紅葉姉の適当さはちょっと怒った方が良いと思う。やっぱり自分の防具なのに付いてこないなんてあり得ないし」
「んーと、ま、まぁ焔ちゃんも似たようなところがあるから全然大丈夫だよ。それに、変に遠慮されるよりはこっちの方が良いからね」
今までずっと焔ちゃんと居たお陰で紅葉に対しても特に嫌と思う事はないし、むしろ話した通り遠慮されるよりはよっぽど今の方がマシなのだ。
ただ、戦闘中に自由に動き回られると困るかもしれないけど……。
「先程もそうですが、雫さんが許可した以上、今回は良いですけど。一応帰ったら私から注意しておきますね。冬も紅葉が逃げないようにお願いね」
「うん、紅葉姉はすぐ逃げるから任せておいて」
「あはは。あんまり厳しくはしないであげてね」
それから鍛冶屋に着くまでの間、私は焔ちゃんの話やこれまでの戦いの事を話したり、なにより一回死んでいるという事も二人には話しておいた。
別に伝えたからと言って心配されたいとかではないが、やっぱり死んだという事実は他の人から見たらだいぶ辛そうに見えるみたいで、私はひたすら励まされ、それは鍛冶屋に着くまで続くのだった。
「お、いらっしゃい! 良い所に来たね! 丁度今は仕事がないんだよ。んで、武器の手入れか? それとも製造?」
一層にはなかった鍛冶屋。初めて来た鍛冶屋だけど、そこに居たのは所謂NPCではなくてプレイヤーだった。
喋りは男勝り感があるが、さらしを巻いている胸は隠せない程に大きいし、身長も高い。
なにより怪我でもしたのか眼帯を付けているのが特徴的だった。
とはいえ、こうして目を奪われている間にも鍛冶屋の店主はジッと見てきているし、冷やかしと思われない為にも本題を切り出した方が良いだろう。
「あ、えっと、今回依頼したいのは防具の修理で……これって直せますか?」
「んー、一つはなんとかなりそうだけど、こっちの小さめの方は新しいのを買った方が良いと思うかな!」
「そうですよね。結構破損も酷いですし、難しいですか……」
紅葉の防具も酷い状態ではあるが、それでもまだなんとかなりそうな見た目はしていた。
しかし、鍛冶屋の人の言葉通り、冬の方が防具としての形を保っていないのだ。
元々駄目元で持ってきたわけだし、この判断をされるのは仕方ないだろう。
それに、直せないのなら買えば良いだけの話。
問題は冬が防具に思い入れがあるかどうかだが……。
「冬ちゃんは新しいのでも大丈夫?」
「はい、直せないなら仕方ありませんし、大丈夫です」
「お、話は纏まったみてえだな! んじゃ一つは預かるとして、そっちのピンクの子とあんたは大丈夫か? 今なら安く直してやるが」
鍛冶屋の言葉を聞き、私は桜と少し話してからどうせじゃやってもらおうという事になり、各々宿屋から防具を持って手渡した。
金額に関しては、まぁ全部合わせれば一式揃えれるくらいではあるが、最近お金を使っていない私にとって手痛くない出費だ。
「おお、先に全部払ってくれるなんて上客だな! 良し、最速で仕上げてやるから明日の朝にまた来な!」
「雫さん、主に私たちの防具なのに払って頂き申し訳ありません……」
「ありがとうございます、雫姉……」
「良いの良いの、パーティー記念ってことで気にしないで! それと冬ちゃんには明日防具を買ってあげるからね」
「えっ……良いんですか? あ、ありがとうございます!」
冬が妹のように見えてしまい、甘やかしすぎてるかもしれないが、喜んでくれているのだからこれくらいは問題はないと思う。
ただ、あまりにも色々買い与えたりしてしまえば、ここでは親代わりでもある桜が私に対して申し訳ない気持ちを持ってしまうだろう。
それに、紅葉も羨ましがることが目に見えてるからこれから先は程々にしておいた方が良さそうだ。
「それじゃ明日取りに来るからお願いします」
「おう! 任せときな! あぁ、それと俺の名前は神楽だから、店に来たら呼んでくれ! 奥で作業してるかもしれないからな!」
鍛冶屋のプレイヤーが神楽という名前なのを知り、もしかしたら今後もお世話になるかもしれないと頭の片隅に置いときながら、私たちは二人の待つ食事処へと足を運び始めた。




