43話 『桜と冬と紅葉』
それから街に着き、宿屋で改めて自己紹介とステータスを見せてくれることになった為、私たちは簡単に食事だけ済ませて宿屋へと向かった。
元々予約は取っていたものの、桜たちの分は取っておらず、大部屋に変えてもらおうかと思ったが、仲間になってすぐに同じ部屋だと緊張してしまうかもしれないという焔ちゃんからの意見もあり、別々で部屋を取る事になった。
荷物を置き、部屋着へと着替え、各々お風呂に入ってから私たちの部屋へと桜たちは訪れた。
皆も服は着替えており、なんだか女子会というか、お泊り会みたいな感じがして少しだけワクワクしてしまう。
「それじゃ、どうする? まずは私たちのステータスから見せようか?」
「そうだね。パーティーに入ってくれるんだし、先に知っておいてもらおっか」
パーティーリーダーである私が一番最初にステータスを披露したことで、緊張感をなくそうと思っていたのだが、それよりも先に焔ちゃんが見せびらかすように披露し始めた。
「ふふーん! どう! 強いでしょ! でもでも、雫の方が実は強いんだよ!」
「ちょ、ちょっとハードル上げないでよ! もう!」
焔ちゃんの所為でなんだか見せるのが恥ずかしくなってしまったが、それでは話が進まないと思い、意を決して私も見せる。
当然、ユニーク武器の能力を使った事でレベルが下がっている私は焔ちゃんよりも弱かったが、それでも三人にとっては驚くに値したのか、焔ちゃんと共に私は少しの間褒め倒されることになってしまった。
「そ、そろそろ私たちは良いから三人のも見せてもらって良い?」
「いやー、初めての仲間のステータスかぁ。楽しみだなぁ! それで、誰から見せてくれるの~?」
私もワクワクしているし、焔ちゃんを怒るに怒れない状態であり、三人は緊迫した雰囲気のままステータスを披露する事になった。
「それではまずは私から確認をよろしくお願いします。お二方の後なので見劣りしちゃうと思いますが……」
まず最初に見せてくれたのは桜からだった。ただ、ステータスと同時に改めて自己紹介をし始めた事で、まるで面接をしているような形になってしまったのは否めないが。
「そっか、武器は狙撃銃ね。これなら完全に援護役だし、パーティー的にも有難いね」
「そうだね。私は近接メインだし、死角を潰してくれるのは有難いよ。雫の負担だって減るし!」
「それなら良かったです。最悪武器を変えるのも視野に入れていましたので……」
「「それは勿体ないよ!」」
本気っぽい桜の言葉に、揃って返事をする私たち。
当の本人はやっぱり本気だったのか、きょとんとしているが、桜はどう見てもおっとりしているようで大事な場面ではしっかりとするタイプで間違いないし、おっとりしている以上バリバリ戦闘するタイプじゃないから援護役というのは非常に合っていると思うのだ。
だからこそ、武器を変えるのは勿体ないと言わざるおえなかった。
「あ、ずっと気になってたんだけど、三人とも名前と同じ髪色をしているよね。もしかして生まれつきとか?」
「いえ、冬だけが生まれつきで、一人だけ変わっていると思われてしまうかもと思ってそれぞれ染めてます。……変でしょうか?」
「ううん! すっごく似合ってるよ!」
「そうそう! 心配しなくても三人とも可愛いよ!」
私たちの言葉にホッとしている桜はピンクのロングヘア―であり、冬と一緒に喜んでいる紅葉も名前に合った髪色をしている。
それぞれがちゃんと似合っていて、私から見てとても可愛いと思えるのだからもっと自信を持ってほしいが、こればっかりは本人たちの心持ち次第だし、難しい問題だ。
……現に、私も焔ちゃんに可愛いと言われるけど、自分ではそうは思えないし。
「はいはーい! 桜の番は終わったよね! 次はウチね!」
髪色の話の後は、ステータス面についての話を少しだけした後、今度は紅葉の番へと変わり、最後に冬という順番でステータスと自己紹介は終わった
紅葉に関しては髪は茶髪でサイドテールをしており、元気な女の子だ。運動神経も良いようで、武器は鎌のようだった。もしもパーティーを組むのなら、焔ちゃんと一緒に前衛を任せたいと思うが、性格的にも後衛って感じではないし大丈夫な筈だ。
また、最後に冬に関してだけど、髪色は青というよりも水色であり、ツインテールの小柄な子だ。表情を変化させることが少なく、口数も少ないけど、三姉妹の中で一番周りは見えているし、冷静沈着という言葉が合う子。
それに、武器が異質なのも特徴の一つ。街に着く前から思っていたが、いざこうして目の前で見せられると正直唖然としてしまう。
なにせ、大盾という武器なのだ。防具だろと思うかもしれないが、れっきとした武器であり、それもユニーク武器で間違いない。
特殊な能力については サブ武器が持てない代わりに、HPとVIT、MNDを全て1.5倍にしてくれるのと、大盾での攻撃が1.2倍になるとの事だが、正直見た目的にはめちゃくちゃ重そうで小柄な冬には持つのすら厳しそうに思えてしまう。
「冬ちゃんはその大盾は重くないの? なんか潰されちゃいそうに見えるんだけど……」
「全然重くないです。なんか装備したら重さを感じないみたいで……ただ片手じゃ持てません」
どうやらサブ武器が使えないというのはつまり、大盾そのものを片手で持つことが出来ないかららしく、目の前で弾かれている冬を見て驚きつつも、私は納得した。
こうして焔ちゃんと共に簡単に紅葉と冬の性格も考えて、前衛か後衛かを決めたが、おおよそ最初から考えていたパーティー構成に落ち着いてしまった。
桜と冬がセットで後衛、紅葉と焔ちゃんが前衛、私が真ん中で両方フォローするという形だ。
まぁ、いざ戦闘になれば崩れてしまうかもしれないけど……。
「うーん、こうして見るとやっぱり全体的にレベルが低いかな。という事で、焔ちゃん。残念ながらダンジョンは暫くお預けです」
「えー!? うー、ま、まぁ確かにこのレベルだとちょっと危険かも……」
「お手を煩わせてしまって申し訳ないです……」
「ううん、気にしなくて大丈夫だよ」
武器が三人ともある程度特殊であり、尚且つユニーク武器があるからこそ二層に来れたのだと思うが、それにしてもレベルが低い。
私たちが既にレベル15付近に対して、この子たちは10に満たないのだ。
二層に来てからどれくらいの日にちが経ったかのは分からないが、これではゴブリンキングに挑んだ時はもっと低かっただろうし、よく勝てたなと正直思わざるを得ない。
「桜姉、もしかして私たち要らない子……?」
「ば、馬鹿! そんな事ないって! 気にしなくて良いって言ってるし! ね、桜!」
「そ、そうよ。冬は何も心配しなくて大丈夫よ」
私が考え込み、その後どう鍛えていくかを焔ちゃんと話し合っている間、三人は不安に思ったのか各々慌てたり、泣きそうになったりと忙しなく表情を変えていた。
そもそもパーティーを組むし、レベルなんて上げれば良いのだから要らないなんてことはないが、私たちだけで内緒話のように話していれば不安になってしまうのも無理はないのかもしれない。
「あー、えっとね、少し焔ちゃんと話し合ったんだけど……」
「もしかしてパーティー組むのは無しにするんですか?」
「ちょ、冬、割り込んじゃ駄目だって! 桜もなんとか……あぁ、駄目だフリーズしてる……ウチだけじゃどうしようもないって!」
私の切り出し方が悪かったのか神妙な空気を作り出したみたいで、焔ちゃんが暴走気味の紅葉を止め、皆を安心させるまで多少の時間が掛かってしまい、落ち着いてからようやく私はこれからの方針を話すことが出来るのだった。




