42話 『新しい仲間が出来ました!』
「ごほん。それでは話が逸れちゃったから、もう一度話すね。とりあえずダンジョンを見つけたっていうのは分かると思うけど、詳しい場所については……」
ダンジョンが存在する正確な場所、それは狩場から少し離れたそびえたつ岩山の中腹に亀裂が入っている場所とのことだった。
岩山の中腹となれば戦っているときには見えないと思うが、どうやって焔ちゃんが発見したのか気になる所。
「そんな場所にあるのが良く見えたね……もしかして冬ちゃんみたいに掴まれたとかないよね?」
「正解! 良くわかったね! そうなの、実はハーピィに掴まれて上空に投げ飛ばされちゃってさ~」
「えっ!? そうなんすか!? それでよく傷が殆どないっすね……」
焔ちゃんの返答に先に驚いたのは紅葉であり、冬は思い出したのか怯え、桜は唖然としている。
同様に私だって驚いてしまうが、一歩間違えば重傷になっていたであろう事実をこんな簡単に、笑いながら言っているのだから、本人にとっては遊園地のアトラクションかなんかだと思っていそうだ。
「大丈夫、皆驚いてるけど心配はないよ! 落ちる前に飛んでたハーピィを踏み台にして勢いを弱めたから受け身も取れたしね! 余裕余裕!」
最早乾いた笑いしか出ない中、無邪気に笑っているのは焔ちゃんだけであり、私はこれ以上この件に関しては何も聞かないことにした。
やっぱり焔ちゃんにとっては危機でもなんでもなかったのだろうし。
……ただ、次からはちゃんと危ない時は言ってもらわないと助けられないから、少し怒っちゃうけど。
「あらら、雫が怒っちゃった。すぐに言わなかったのはごめんって! でもね、私としてはその時からダンジョンを見つけた衝撃の方が強かったんだよ!」
「そ、それはさすがっす! ゲーマーの鑑っすね!」
「紅葉、さすがにそこは見習っちゃ駄目よ? 危ない事は許しませんからね。冬がどんな目にあったか覚えてるでしょ?」
そっぽを向いて怒っている私を宥めようと焔ちゃんが謝るけど、軽率にも紅葉が同調してしまい、桜からも怒りのオーラが出始めてしまった。
冬も冬で未だにハーピィに掴まれて落とされたことを思い出しているのか、顔は少し青ざめている。
「分かった、とりあえず話を進めよう。もう起きた事で怒っても仕方ないしね。桜ちゃんたちもひとまず話を進めて大丈夫?」
「はい、勿論です」
もしここが砂漠でなければ正座でもしていそうなほど怯えている紅葉はさて置き、これ以上話が停滞してしまう前に私は焔ちゃんからダンジョンへと続く道と危険性を聞く事にし、それを考慮した上で行くべきか話すことにした。
まぁ当然の如く、行くか行かないか決めるとすれば、焔ちゃんの返答は行く以外なかったけど。
「ま、焔ちゃんが行く以上は私も付いていくけど、こら! 焔ちゃん! 三人を無理矢理連れて行こうとしないの!」
「えー、だって、みんなで行った方が楽しいよ?」
「ダーメ。危険な場所かもしれないんだから本人たちの意思が大事なの」
「……うん、そうだよね」
強制的連れて行こうと画策していた、興奮状態の焔ちゃんを一旦宥めてから、私は三人へと向き直し、ダンジョンに一緒に行くか聞いてみることにした。
もし焔ちゃんを宥めなければこのまま三人を強制的に連れて行くという暴挙に出るかもしれないし、三人の意思を尊重する為にも私が聞く他ない。
「三人は私たちと一緒に来る? もし三人で決められないなら長女である桜ちゃんが決めても良いけど、私としてはしっかりと意思を尊重したいと思ってるし、危険な場所かもしれないし拒否してくれても全然構わないよ。別に三人とはこれっきりという訳じゃないと思うし……。ただ、付いてくるなら三人にとってトラウマとも言えるあの狩場を通らなきゃいけないこともちゃんと考えてね」
「はい。ですが私としては聞かれるまでもなくお二方と一緒に行きたいと思っています。この世界に来た以上繋がりは大事にしたいですし、なによりも強くなるには逃げてもいられませんから」
正直、街に着いてから返答を聞こうと思っていたのだが、桜は私の話を聞いた瞬間から決めていたようで、強い意志を持った目で即答してきた。
桜の向ける意思の篭った視線と言葉からは、紅葉と冬を絶対に守るという事を訴えているように感じ、私は驚きながらもその返答に小さく頷いた。
そして、頷いたことでいつものおっとりとした表情に戻った桜を見た後、続けざまに紅葉と冬もダンジョンに付いていくと決めた事で、私たちにこの世界に来てから初めて仲間が出来るのだった。
……まぁ、ひとまずは一つのダンジョンの間だけだけれども。
「だってさ、焔ちゃんも聞いてたよね? 皆でダンジョン攻略する事になったよ」
「良し! そうと決まればすぐに行こう! なんなら今からでも!」
なんだかんだ焔ちゃんもまだ三人とは離れたくなかったのか、一緒に攻略するという事に喜び、またも無茶難題を言い始めたしまった。
「馬鹿。そんなすぐに行けるわけないでしょ。準備だって出来てないし、三人が二層に来てたとしてもダンジョンに挑むにはまだ実力が足りないと思うからすぐには無理だよ」
「えー! 私たちが守ればそれで良いじゃん! 時間なんて空けたら他の人達が攻略しちゃうよ!」
「ダーメ。狩場にある以上はそれなりの強さだと思うから、ハーピィに苦戦しているようだと危ないでしょ? だからとりあえずレベル上げが優先ね! それに他の人がもう攻略してるかもしれないんだから一朝一夕で決めちゃ駄目だよ。焦ったら油断して死んじゃうかもしれないんだから」
ダンジョンの強さが未知数で、私たちでも守り切れるか分からない以上、三人には自衛をして貰わないといけない。
その為にはどうしても私たちまでとはいかなくとも、それなりの強さになってもらわないといけない。
すぐに行けない事に焔ちゃんはしょんぼりしているけど、仲間が欠けないように万端を尽くすのは必要な事だから我慢してもらう他ない。
「なんか申し訳ありません。私たちが弱いばっかりに……」
「あ、良いの良いの、気にしないで。どっちみち私と焔ちゃんだけでもすぐに行くつもりなんてなかったからさ」
「えっ!? そうなの!?」
申し訳なさそうしている桜へと返した何気ない言葉に焔ちゃんは反応し、よりショックを受けている。
まるで楽しみを没収された子供のようで可愛く見えるからもう少しこのまましょんぼりさせたままでも良いけど、三人も苦笑いしているし、さすがにそろそろ元気を取り戻させるとしよう。
「ほらほら、ダンジョンには行かなくてもイベントとかはやるつもりだから元気出して。どうせ強くなったら行くんだから、後の楽しみにしとけば良いでしょ?」
「うん、絶対だからね。私がすぐに三人を強くするから、そしたらすぐに行くよ! 絶対! だからダンジョンの場所を忘れないでね!」
「はいはい。私が覚えておくから、そんな急かさないの」
母親と子供か、或いは姉妹かのように話し合う私たちがおかしかったのか、次第に後ろから笑い声が聞こえ始め、振り返ると、
「お二方はまるで姉妹みたいですね」
「うんうん、ウチらなんかよりよっぽど仲良いよ!」
「ふ、冬も二人がちょっと羨ましいです……」
三人からそう言われてしまい、私の顔は恥ずかしさからか途端に赤くなってしまった。
しかし、焔ちゃんはなんとも思っていないのか、私が「そんな事ない!」と言うよりも早く、甘えるように抱き着いてきた。
「雫お姉ちゃん! 疲れたからおんぶして~」
「も、もう! 焔ちゃんもふざけないの!」
不意に抱き着かれた衝撃で更に照れてしまった私は無理やり焔ちゃんを引きはがそうとするけど、上手く力が入らずどうも引き剥がすことが出来ない。
こうなれば要望通り背負うしかない。
「はぁ、仕方ないなぁ。今日だけね」
「うん、ありがとね!」
焔ちゃんを背負った私を、微笑みながら暖かい目を向ける三人。
気恥ずかしい気持ちになってしまうけど、今はとにかく元より気にかけていた三姉妹の子達が無事であり、こうして仲間になってくれたという事実と、助けることが出来た事に嬉しさを覚えながら街へと帰還するとしよう。




