41話 『和気藹々』
そうしてモンスターとの戦いがひと段落した所で三人の所へと足を運べば、まずは今戦ってくれたことへの感謝の言葉が飛んできた。
そして、その後徐に桜が立ち上がり、
「お見苦しい所をお見せした後ですが、全員が目覚めましたので改めて簡単に自己紹介をさせていただきます」
と、私たちに向けて丁寧に言ってくるが、正直自己紹介は街に着いてからで良いと思う。
なにせ、既に私たちは名前を知っているし、特徴だってなんとなく掴んでいるのだ。
まぁ、だからこそこうやってやってくれようとしてくれるのは有難いけど、こんな街の外でする必要はない事を伝えた方が良いだろう。
「んー、自己紹介は街に着いてからにしよっか。ここで悠長に話すのも危ないしさ」
どうやら焔ちゃんも同じことを思っていたようだ。ここは私も同調した方が良いだろう。
「焔ちゃんの意見に私も賛成かな。街に着いても時間はあるんだし、今急ぐことじゃないよ。それに、ゆっくりとお話したいしね」
「そ、そうですか。それでは街に着いてからお話致します。あ、でも、冬と紅葉はお二方の名前を知らないので教えてあげてください!」
少し残念そうにした後に、思い出したかのように頭を下げながら私たちへとお願いしてきた。まさか自己紹介を断られると思っておらず、慌ててしまったのだろう。
しかし、別にお願いされるまでもなくそれくらいは街に着く前に教えようと思っていた為、私たちは紅葉と冬に向けて簡単にここまでの経緯なんかも一緒に伝えることにした。
「えっと、雫さんと焔さん……最近どこかで見たような……」
「あ、分かったっす! 一層のボスの時にチャットに書いてた人っすよ! いやー、あの情報がなかったらウチらはまだ二層に来れてなかったかもしれないっすからね」
「え、そうなの? 桜ちゃんからはそんな話全然聞いてないけど……。雫も聞いてないよね?」
「うん、聞いてないよ。でも、名前だったら同一人物が居るかもしれないし、本人か分からなかったから話さなかっただけじゃない?」
私たちの視線は一気に桜へと集まるが、当の桜は何を話しているのか分からないといった感じだ。
まぁこの話を聞いていようがいまいが、私たちの書いた情報のお陰で三姉妹はここまで来れた訳だし、こうして巡り合ってるのだからそれで良いし、桜が話していないのが悪いという事は一切ない。
「あ、駄目っすよ。桜は機械っていうか、そういうのが殆ど分からない機械音痴なんで。チャットとかステータスとかも全部ウチらが教えてたりするんすよ」
「へぇー、そうなんだ。でも確かに苦手そうな雰囲気は感じるかも」
「あ、雫もそう思う? なんだかお母さんみたいな雰囲気だよね~」
紅葉の言葉を聞き、なんとなく納得した私たちは再度桜へと視線を向けるが、話を聞いていたのか困ったように苦笑しながら「そういうのは任せっきり」でと微笑んでいる。
とはいえ、そんな桜の姿からもお母さんみたいなオーラを感じてしまい、これこそが長女のオーラなのだろうかとついつい思ってしまうのだった。
それから私たちは適宜襲ってくるモンスターを倒しながら進んでいき、いつの間にか会話も弾んで仲良くなっていた。
ただ、こうして普通に話せるのも、一層でも見かけて心配していたという旨も伝えた事、それに対して三人から「心配してくれていたというだけで嬉しいです」と言って貰えたからだ。
お陰であの時声を掛けなかった罪悪感のようなものが消えた気がして気を遣わずに話せるようになったのだから。
「あー! 忘れてた! 雫! そういえばハーピィと戦ってる時に少し遠いけどダンジョンを見つけたんだよ!」
もうすぐ街に辿り着くといったところで突然焔ちゃんが声を荒げたかと思うと、慌てながら私へとダンジョンを見つけたという旨を話し始めた。
「もう! 叫ぶから何事かと思ったよ。ね、三人もビックリしちゃったでしょ?」
「はい、でも焔さんは本当にこの世界を楽しんでいるようでちょっと羨ましいです」
「ウチは焔さんが慌てるのも無理ないと思うし、ダンジョンなら興奮するから今のも仕方ないと思うなぁ」
「……冬はちょっとびっくりして倒れちゃいそうでした……」
「うー、冬ちゃんは可愛いなぁ。そうだよね、急に叫ぶなんて怖いよね」
紅葉は多分どっちかと言うと焔ちゃんと同じタイプだし、桜は達観しているというかそんな感じだし、素直なリアクションをしてくれた冬が可愛くて私はつい抱きしめてしまった。
ただ、今までの人見知りな私なら焔ちゃん以外には抱き着いたりなんてしないだろうし、こうした行動をつい取っちゃうという事はこの世界に来て私の人見知りは良くなってきたのだろう。
ま、とにかく抱き着かれた冬も満更でもなさそうだし、今はもうちょっとだけこの温もりを……。
「雫ってば! そんなご満悦みたいな顔しないの! 迷惑になるし抱き着くなら私にしなさい!」
「えー、でもこう抱き枕みたいなフィット具合が堪らないんだよ~。肌もひんやりしてるし」
まさか焔ちゃんが嫉妬したとは思えず、単純にダンジョンの話を進める為に無理矢理引き剥がそうとしているだけだとは思い、もう少しだけと思いながら必死に離れないようにしがみついていると、冬は『抱き枕』と言われたことでショックを受けたのかスルリと抜け出して桜へと張り付いてしまった。
そうして冬が離れた事で思わず名残惜しそうにしてしまうが、焔ちゃんが再度ダンジョンの話を開始したことで、微笑みを向けていた桜と紅葉の表情も戻ってしまい、私も渋々話を聞く事にした。
どうせ無茶を言うのだろうと思いながら。




