40話 『救出完了!』
こうして三人で数十分に及ぶ戦闘をした結果、ハーピィたちは私たちを倒せないと判断したのか、威嚇するように奇声をあげた後に何処かへと飛び去って行き、ようやく戦いの幕を下りた。
私を含めて焔ちゃんも、女の子も息は上がっており、特に焔ちゃんに関しては最前線でずっと戦っていたからこそ疲労も傷も比べ物にならないくらいに多かった。
「焔ちゃん、お疲れ様。はい、これを飲んで」
「おっ、ありがと! さすが雫、気が利くね!」
キョロキョロと辺りを見回し、モンスターが周りに居ないことを確認してから私は焔ちゃんの元へと駆け寄ってポーションを渡す。
「ねぇ、雫。あの倒れてる二人、ずっと起きないけど死んでたりしないよね?」
心配になったのか、焔ちゃんは一瞬視線を向けながら小声で私へと聞いてくるが、近くで守っていた私は二人が生きている事を知っている。
一度私が死んだときの焔ちゃんと同じ状態であり、ただ二人は寝ている、気を失っているだけなのだ。
「大丈夫だよ、二人ともちゃんと生きてるから」
「そっか、それなら良かった。それじゃ、疲れた事だし街に帰りますか! あ、雫はどっち背負いたい?」
「んー、小柄な方で良い?」
「了解!」
ほんの少しの数分にも満たない間だけ一息つき、私たちは倒れている二人のそばで回復している女の子へと近寄り、街へと帰る旨を話した。
一掃の時もそうだが、モンスターの狩場とも言われているこの場所で長時間の滞在をしようものならまた襲われるのは必然だし、ここは一目散に帰るのが最善だ。
「えぇ!? そんな、どっちかは私が背負いますよ! 助けてくれたのにそんな事までさせられないですし……」
「良いの良いの! 疲れてるでしょ? ほら、私たちはまだまだ元気だからさ! ね、雫!」
「うん、これくらいなら余裕かな。軽いし、気にしなくて大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます!」
それから一度深々と頭を下げて感謝された後、眠っている二人の女の子を背負って歩き出す私たちに対して、再度女の子は感謝を述べ、横に立って歩き始めた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだったけれど、きっと死ぬかもしれない恐怖と、誰も助けに来てくれないかもしれないという不安が解消されたものだろうと思い、不用意に声を掛けないようにしながら街へと向けて歩みを進めるのだった。
◇ ◇ ◇
「ん、あれ? ウチがまだ生きてる……? それに体も痛くないし……」
モンスターとは出来るだけ遭遇しないように歩みを進め、日が落ちかけた頃、ようやく全快したのか焔ちゃんの背中で寝ていた女の子が目を覚ました。
ただ、今の状況が理解できていないのか、キョロキョロと辺りを見渡して困惑している。
もしかしたら夢の中とでも思っているのだろうか?
「お、目が覚めたか。重傷みたいだったから元気になって良かったよ。ほら、ずっと心配してた桜が今にも泣いちゃいそうだぞ」
「えっと、ん? あれ? ……あっ! ウチらを助けに来てくれた人っすね! 助けてもらった上に背負って貰っちゃって申し訳ないっす!」
「紅葉! まずはありがとうございますでしょ!? それと元気なら早く降りなさい!」
二人が寝ている中で、私たちと女の子、桜は会話を重ねた事である程度の仲になっており、桜たちが三姉妹であり、長女が桜であるという事も知っていた。
ただ、正直温厚というかあまり怒らないようなイメージが既にあった為、今こうして起きてきた次女、紅葉に気迫を感じるくらい怒っているのを見て、私たちすらも言葉を失ってしまっている。
「ごめんなさい。もう歩けるので降ろしてもらって大丈夫です。それと、助けてくれてありがとうございます」
「あー、私たちも元々あそこに行く予定だったからさ、成り行きだよ成り行き。だからそんな感謝される事でもないよ」
「そうそう、桜ちゃんもあんまり怒ってあげないで。まだ状況が把握出来てなかっただけみたいだからさ」
「……むー、お二方がそう言うのならこれ以上は怒りません」
苦笑いしながら私たちが対応したことで、桜の怒りは収まり、紅葉もホッとしたように胸を撫で下ろしている。
そして、一気にうるさくなったからなのか、私の背中で寝ていた致命傷の女の子もゆっくりと目を開け、これまた紅葉と同じ様に困惑しながら眠そうに目を擦っている。
「桜姉さん、紅葉姉さん、どこですか?」
「冬! 良かった! 冬はもう駄目かと思ってたから生きてて良かった!」
「あ、ちょ、二人分背負うのは……無理……」
背負われている三女、冬が起きた事で喜びを隠しきれない紅葉が私に飛びついたことで、耐えきれなくなった私は崩れ落ちてしまったが、冬たちも同時に地面へと座り込みながら喜びを分かち合っている。
桜も寄って行き、三人ともが涙を流している光景は思わず貰い泣きしてしまいそうだった為に、私たちは一度だけ見て微笑んだ後、モンスターが寄ってこない様に警戒する事にした。
――それから、三人が泣き止むまでの暫くの間、声に釣られてやってきたモンスターは少なからず存在していたが、そのどれもが単独かつあまり強くないモンスターだった為、特にこれといって邪魔されることも傷を負う事もなかったのは幸いなことだっただろう。




