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4話 『異物なのは私達』

 アイテムを探しに、最初の街を散策している中で、私達は妙に多い人達に圧倒されていた。


 同じ初期装備の人や、3人で固まって動いてる私たちみたいな女の子の集団、他にもあからさまにいわゆる冒険者っぽい重装備の人、普通に家族で買い物している人など、沢山の人が街を歩いているのだ。


 前者に関しては私たちと同じくこの不幸な出来事にあった人たちであり、後者の冒険者に関してはこの世界の人っていう可能性が高い。

 そんな中でも、特に私の目を引いたのは固まって動いている女の子の集団だ。

 私たちと同じくゲームの中に取り込まれてしまったのだとは思うけれど、余りにも年齢が若くみえる。

 化粧とかによる若さではなく、完全に小学生、いや、贔屓目に見て中学生といった所だと思う。


「何見てんの〜?」

「いや、あの子達大丈夫かなって思ってさ」

「あー、確かに困惑してるっぽいね。けど、さすがに助けてあげる事は()()出来ないよ? だって、私たちも弱いし、助ける力もないんだしさ」


 確かに焔ちゃんのその言葉は正しい。


 "人は一人で勝手に助かるだけ、誰かが誰かを助けることなんて出来ない"


 何処かで聞いたような気もする言葉だが、この言葉の意味を私は真に理解していない。

 けれど、こうして今考えればなんとなくだけど理解し、その言葉が正しいのかもしれないと思えた。

 当然、この言葉自体一見冷たく聞こえる言葉であり、焔ちゃんの言葉も他人が聞けば、いや、正義感の強い人なんかが聞けば突き放した言葉のように聞こえてしまうだろう。


 けれども、私達もまだこの世界に来たばかりであり、仮に手を差し伸べようにも、力が足りなさすぎるのだ。

 だからこそ、焔ちゃんは()()出来ないという風に言った。


「そうだね。まだ何も出来ないけど、あの子達が生き延びてくれるか、絶望して閉じこもる前にはなんとかしてあげられたら良いな」

「ま、逆に私達に何か起こるかもしれないし、あの子達に助けられるかもよ?」

「あー確かにそれもありそう」


 偶然にも私たちの話が聞こえたのか、焔ちゃんが歩き出した後に、私も続けて歩き出そうとしたその時、3人組の1番リーダーっぽい女の子と目が合った。

 偶然かもしれないけど、私はその子たちに会釈をし、その整った顔立ちを忘れないようにと頭へと刻み込んでから焔ちゃんの後を追った。


 それから暫く歩き、再び観光気分で歩いている私たちの前に出店や沢山のお店の看板が見え始めてきた。

 恐らくというよりも、確実に辿り着いたこの場所こそが、この街一番の賑わいがある場所だ。

 ただ、賑わっている分先ほどの道よりも圧倒的に沢山の人がいた。


「うわー、凄い人の数」

「そうだね。はぐれないように手でも繋ごうか?」

「うっ、それはちょっと恥ずかしいかも……。というかさ、思ったんだけど、あんまり私達プレイヤーとNPCの違いが分からなくない?」

「あー……確かに言われてみれば分かんないかも」


 半分は私たちと同じ人間だけど、多分半分はNPC。

 こう見てみると違いはなく、気軽にNPCだと思ってしまってはいけない気がした。

 それに、家族連れの人たちを見れば分かる通り、NPCにも感情があるのだ。


 だからこそ、転移してきた私たちこそが異物であり、NPCからすれば異世界人なのだろう。


「ってかさ、手を繋ぐことが恥ずかしいって事は、もしや子供扱いされたと思っちゃった?」

「思ってないし! 確かに身長は小さいけど、私は子供じゃないし!」

「はいはい、分かってるよ〜だ。雫は子供じゃないもんね。……でもさ、本気ではぐれないように手を繋がない?」


 こういう時の焔ちゃんはズルい。

 断れない目で私を見つめ、絶対に自分のしたい事を貫き通すのだ。

 けれど、逆にそれが助かったりもする。

 私としても体が小さいこともあって、正直な所離れ離れになる可能性が高いと思っていたからだ。

 勿論、そんな事は恥ずかしいから言えないけれど。


「ねぇ、雫。この世界のNPCの人たちに対する対応なんだけどさーー」


 手を繋ぎ、隣同士で歩き始めてすぐに、少しだけ悲しそうな目をした焔ちゃんが私を見ずに口を開いた。


「ーー私たちと同じ人間だと思って接しない?」


 その言葉を聞き、焔ちゃんが悲しそうな目をしていたことの意味を私は瞬時に理解した。

 この世界の人たちはあくまでも作られた存在だ。

 例えこの世界では生きていたとしても、根本的な所は変わらない。

 だけれど、そこで冷たく接してしまうのは間違っているだろう。

 私たちこそが異物であるのだし、しっかりとこの世界はゲームではなく現実だと理解した上で、焔ちゃんとしては例え根本はゲームだとしても、NPCもプログラムではなく、生きているのだからちゃんと接してあげようという事だ。


 自分達と作られた存在ではまるっきり違う。姿形は似ていても、中身は違う。

 例え同じ人間として接しても、変わることのないその事実に焔ちゃんはきっと悲しくなったのだと思う。


「……うん。そうだね! そうしよっか!」


 私の返答に焔ちゃんは笑顔で返し、その後は雑談を交わしながらお店を見始めた。

 しかし、そんな中で、私と焔ちゃんは幾つか気付きたくなかった事に気付いたり、会話を聞く事で知ってしまった事が幾つかある。


 それは、要所要所に未だゲームの中だと思っているのか粗暴な振る舞いをしたり、調子に乗っているような人がいる事。

 また、中にはまだ現実を受け入れきれず、座って固まっている人なんかもいる。


 話している会話を何度か聞く限りでは、既に宿屋で引きこもっている人もいるみたいだ。


「宿屋に篭ってるのもアリかもしれないけど……お金とかどうしてるんだろ?」


 単純な疑問だけれど、最初から私たちに与えられたお金は少ない。

 その中でどんなに上手くやりくりした所で、毎日宿屋に泊まり続けていたら長くは持たないだろう。


「人の心配してる場合じゃないよ、 ほら! 弾を買わないと!」


 焔ちゃんが私の注意を引くようにして、指をさす。

 その方向には銃の看板を立てているお店があった。

 外からでも見えるようにか、少なからず銃が並べられており、弾に関しても問題なく売られているようだ。


「おっ、いらっしゃい!」


 当初の目的であった弾を買うために、私達は店へと入る。

 とはいっても、どの弾を使うべきなのかは全く分からないし、正直言って私たちだけで選んでも失敗してしまう可能性が高い。

 つまり、店員さんに聞くのが一番なのだ。


「可愛い女の子達にオススメを聞かれたら答えないわけにはいかないね! うーん、最初なら無難にこれなんかどうだい?」


 店員さんがオススメしてくれたのは、安価で沢山の弾。

 どれもダメージは少なそうだけど、確かに使い方も分からない最初じゃこれくらいが妥当といったところかもしれない。


「あ! 見て! 魔法が込められた弾だって! ーーうげっ、たっかぁ……」

「アハハ……確かに結構良い値段するね」


 思わず苦笑いしてしまうくらい、私達には手が出せそうにない金額だった。

 いや、今から買う弾を全てやめて、全財産を全て費やせばなんとか買えるとは思う。

 けど、そうした場合、幾ら魔法が込められているとはいえ、10発程度しか弾がないという状況になってしまう。


「なんだい、その弾が欲しいのかい?」

「いや、その、さすがにお金が足りません……」

「うーん。よし分かった。その弾を買ってくれたら、普通の弾もサービスしてあげる。それでどうだい?」


 今ここで買うべきなのだろうか。

 確かに魅力的な話だ。全財産を使うものの、炎魔法の込められた弾と、普段使い出来る弾も手に入る。

 ……けど、そうしたら回復系のアイテムを揃えられなくなってしまう。


「うっ……どうしよう……」

「買っちゃえば? 私が雫用の回復系のアイテムを幾つか買うし、このチャンスを逃しちゃダメだと思う!」

「そ、そうだよね! それじゃ買います!」


「よしきた! 毎度あり!」


 焔ちゃんが私の分のアイテムも買ってくれるのなら、ここで断るべきではないと思い、私は買ってしまった。

 でも、少しだけ焔ちゃんには申し訳ないと思う。

 私は自分の為にお金を使ってるから良いけど、焔ちゃんは私の為に使わないといけない。

 けど、これで魔法が使えるし、少なからず戦力にはなるはずだ。

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