35話 『神様介入!?』
どこが美味しい店なのかも分からず、目に付いたお店に入った私たち。
そこでは、一層とは違う砂漠だからこその食べ物が数多く存在し、満足もしたし勿論美味しかったが、やっぱり飲み物全般は相変わらず高くついてしまった。
けど、こういう気候だから水分は必要だし、需要がある以上は値段が高くなるのは当たり前の事なのだから仕方ないと思う他ない。
「ふぅ、お腹いっぱい。これからどうする?」
「うーん、どうしよっか。まだ休むには早いし……それにしてもやっぱり賑やかさが違うね」
店を出てみれば辺りは暗くなっており、街は静かになると思いきや、賑やかさはより増していった。
一層とはまるで違う楽し気な雰囲気が漂っているのを肌で感じられるほどに。
「ねっ! この閑散としてない感じがさすが二層って感じ! 酒場とかもあるみたいだし、一層とは違って楽しいね!」
「酒場かぁ……ちょっと怖いけど行ってみちゃう? なんか私もテンション高くなってきたし!」
「よし! 行っちゃおう!」
現実の世界においては年齢も年齢だから居酒屋なんて行った事もないし、お酒も飲んだことがない。
だからこそ、こう大人になったような気がして、酒場に入った瞬間から私の心はドキドキとワクワクが止まらなかった。
「うぇ、苦い……」
「あはははっ! 良い反応だ!」
「えぇ!? 焔ちゃんも初めてでしょ!?」
「そうだけど、なんか普通に飲めちゃうんだよね!」
初めてのお酒が日本と全く同じなのかは分からないし、多分違うのだろうけど、私にとってとても苦くて飲めたものじゃなかった。
けど、それは最初だけで、勇気を出して飲み続けてみれば不思議と美味しく感じ、色んな種類のお酒をちゃんぽんして飲んでしまったのだ。
「ふふっ、この街は楽しいね」
「うん、一層とは違ってこの世界を楽しんでいる人とか受け入れている人が多いからかもね。一層はこう暗い雰囲気が漂ってたしさ」
「そうだねぇ。そういえば雫が気にしてたあの女の子達は無事に二層に来れたのかな?」
焔ちゃんの言葉を受けて、ふわふわしている脳をフル回転させて女の子達というのを探し出し、思い出したのは三姉妹の女の子達だ。
確かに何度か目を向けてるし、出来たら生き残っててもう一度会えたら良いなぁとは思う。
「どうだろうね。もし次どこかで会えたら今度は話しかけてみようかな?」
「うん、それが良いよ。それに私たちもそれなりに強くなったから困ってたら力になれるだろうしね」
それからも焔ちゃんとは呂律が回らない中でもなんとか楽しく話していたが、気が付けば少し眠ってしまっていたようで、グルグル回る視界の中で、焔ちゃんが他の人と話しているのを見えた。
そしてそんな光景を見た瞬間に嫉妬を感じてしまい、フラフラした足取りで近寄ろうと頑張るが、どうにも力が入らず、断片的に会話を聞く事しか出来なかった。
「噂じゃ――特殊なイベント――、――良いかもな。ま、そう簡単に――でもないけど」
「へぇ、ちょっと気になるかも! 教えてくれてありがとね! ――ねぇねぇ雫! 面白い情報を聞いたよ!」
話し終わったのか手を振りながら笑顔で走り寄り、倒れそうな私を椅子に腰掛けさせてから、焔ちゃんはさっき聞いてきた話をしてくれた。
脳が回っているような感覚で気持ち悪いし、断片的に聞こえていたから明日話して欲しい気持ちもあるけど、今はとりあえずなんとか我慢しながら聞く事にしよう。
ここで帰りたいと言ってしまえば焔ちゃんの興醒めしちゃうだろうし……。
「おーい、雫大丈夫~? 話聞いてた~?」
「ふぇ、なんの話~?」
「オアシスだってば! 行ってみたいよね!」
「うーん、綺麗そうだし……あ、駄目だ。ごめん、気持ち悪い……」
「ちょっと大丈夫!? もー、張り切って飲みすぎだよ! しょうがないなぁ、ほら、部屋行くよ!
吐きそうなのをなんとか抑えながら部屋へと辿り着き、トイレに篭る事一時間。ようやく吐き気は取れたものの頭痛はするし、なんだか寒いような気もしたので私はそのまま寝ることにした。
そして、次の日に生まれて初めて二日酔いというのを味わい、私は地獄を見ることになり、お酒を控えようと焔ちゃんに説教されたのは言うまでもない事だ。
初めて酒場で酒を飲み、死ぬほど吐いた上に説教されたにも関わらず、私たちはそれなりの頻度で酒場へ通ったりしながら、しばらく二層の街を拠点にしながらも危なげなくモンスターを狩る生活を続けていた。
勿論、酒場ではお酒を楽しみにしているというのもあるが、それ以上にプレイヤーが多く、有用な情報を得ることが出来るのだ。
「焔ちゃん! 今日も疲れたし、お酒飲もうよ!」
「んー、まぁ良いけどよくあんなに吐いたのに懲りないね」
「うっ、なんかお酒飲むと疲れが取れるっていうか、なんというか……」
「いや、別に良いよ。最近はペースも分かってるみたいだしね。でも、次飲み過ぎたら今度こそ禁止にするよ!」
特段怒っているようには見えないけど、酒場によく行くようになってから今日までの間、最初の内は何度も飲み過ぎて吐いており、焔ちゃんに介抱されてきたのだ。
こうやって釘を刺すように言ってくるのも無理はないし、私も大人しくそれを守るほかないのだ。
「――あっ! またチャットが盛り上がってるよ!」
「ホントだ! 今度はどんな内容で盛り上がってるのかな?」
「んーとね、どうやら二層のボスの位置と情報だって! 結構弱かったみたいだよ」
焔ちゃんの言う通り、私もチャットに目を向けてみれば、そこに書かれていたのは二層のボスがゴーレムであり、複数あるコアを破壊しなきゃいけないこと。他にも、壊すごとに凶暴化していくといった事が書いてあった。
位置に関しても詳しく書いていて、これを機に一層の時と同じく二層の攻略が本格的に始まっていくと思う。
当然私たちも攻略したいとは思うが、二層に来てから幾つかのダンジョンを攻略した程度じゃレベルも足りていないだろうし、まだ無理だろう。
それに、私たちが攻略したダンジョンのボスは一層のボスはおろか、ユニーク武器の時の兎より圧倒的に弱ったから、恐らく二層の中でも弱い方のダンジョンだっただろうし。
「お、しかも遂にユニーク武器で二層を突破してるらしいよ。これはまたユニーク武器の争奪戦が始まりそうだね」
「あー、でもユニーク武器ってあとどれくらいあるんだろうね? 私たちは既に持ってるから関係ないけどさ……」
ユニーク武器という存在は、一層の時にも噂にはなるくらいの代物だったが、今こうして日の目を浴びてしまった以上は焔ちゃんの言う通り、争奪戦が始まるのはなんとなく分かる。
けど、実際イベントが発生するだとか入手するまではユニーク武器かどうかなんて分からないし、この世界に残り幾つあるのかだって分からないのだ。
そんな中で争奪戦だなんてあまりにも不毛すぎると思うけど……。
『ユニーク武器の総数10本。残り4本。入手方法は特殊イベントのみ』
まるでこのタイミングを見計らったかのように、盛り上がっていたチャットへとユニーク武器の残数が書き込まれた。
これが真実か否かは分からないが、少なくともこれでイベントを攻略する人はより増えるだろう。
「というか、一層と二層だけで半数以上見つかっているのに驚きなんだけど!」
「うーん、でもこれが嘘の可能性だってあるし、一概に信じていいものなのかなぁ」
「まぁ確かにね。でもチャットの名前ってほら、本名になるわけじゃん? でさ、それを踏まえてこの書き込んだ人の名前を見てみてよ」
言われた通り、改めてチャットを遡って見てみれば、確かに異質な名前をしていた。いや、異質というよりも『神様』という直球すぎる名前だ。
もしかしたら実際にその名前の人が居るかもしれないけど、さすがに確率は低そうだし、これは紛れもなく真実の情報だという事になる。
なぜわざわざ書き込んだのかは分からないが、ユニーク武器を持っていない人からすれば有難い情報に間違いない。
「凄い、神様もチャットに介入してくるんだ……。これからも書き込んでくるのかな?」
「いや、それはどうだろうね。今回は特殊な例だと思うよ。まぁチャットを見ているのはあるかもしれないけど、あくまでも観測者、というより神様らしく見守っているのが基本だろうしね」
「そっかぁ、まぁそうだよね……」
それから私たちは未だ盛り上がり、一層と二層のイベント情報なんかを話し合っているチャットを閉じて酒場へと向かうことにした。
元々行く予定ではあったが、こんな情報が流れた今、恐らく酒場で情報交換が行われているだろうし、有益な情報を入手するには絶好のタイミングだ。




