34話 『観光気分です!』
焔ちゃんと一緒にひとまずは何も買わずに街を見て回り、私は一層とは家の様式や、品揃え、施設の違いなんかに目を輝かせていた。
隣では焔ちゃんも同じようにキラキラした目というか、楽しそうな顔をしている。
「雫! 凄いよこの防具! 涼しそう!」
「ちょ、い、いやいや、こんなの着れないって! 恥ずかしいもん!」
「えー、そうかなぁ。ま、確かに雫の子供体型じゃ難しいかな?」
殆ど下着のような防具を手に取りながら話しかけてくる焔ちゃんは、ニヤニヤと笑いながらわざと私を煽ってきている。
大体こういう時は自分が見てみたいから、着てほしくて煽ってきているのであり、それを知っている私は逃げるようにその場を立ち去ろうとした。
普通の服ならともかく、あんなの着て人前に出るとか恥ずかしくて死んじゃいそうだし。
「ちょっと待ってよ~。もしかして怒ってるの?」
「……怒ってないし」
「ごめんね、ちょっと着てほしくて嫌な事言っちゃった」
「別にわざとだって分かってるから良いよ。っていうか、そんなに着て欲しかったの?」
「うん! 水着みたいで可愛いじゃん!」
確かに焔ちゃんの言う通り水着と似たようなものだとは思う。けど、防具がそれで良いのかとも思ってしまうし、例え水着だと思い込んだとしても、あれを日常的に着るのは羞恥心に耐えられそうにない。
「ま、何言われても絶対着ないけどね」
「そんなぁ。涼しいし良いと思ったのに……」
「良くない! ほら、次行くよ!」
「はぁい」
割と本気で落ち込んでいる焔ちゃんを引っ張り、ひとまずテンションの上がりそうな武器屋へと赴いてみたのはいいものの、ユニーク武器を持っている以上武器に関しては買い換えたりする必要がなく、品揃えが変わっているのを楽しそうに見ている事しか出来なかった。
とはいえ、焔ちゃんのテンションも元に戻ったし、一応見に来て正解だったと言える。
「うわっ、やっぱり一層より高いか……」
「あちゃー、ホントだね。これなら一層でもっとたくさん買っておくべきだったかも……」
「そうだよね……失敗したなぁ」
銃を使う以上は弾は消耗品であり、必需品に間違いない。だからこそ、消費した分を補充しておこうと思い、弾を見ていたのだが、軒並み一層の所よりも一割程高くなっていた。
一割と聞けば微々たるものかもしれないが、数を多く買うからこそ一割が致命的なのだ。
また、属性の弾も一層と変わっているかの確認もしたのだが、こちらは変っておらず若干落ち込んだのは内緒だ。
「はぁ、さすがに短剣だけじゃ厳しいし、買うしかないか」
「んー、それじゃ雫の援護射撃も必要だし、私が半分出してあげる!」
「えっ!? 良いの!?」
「うん、全然構わないよ!」
それから、手で丸を作りながらニシシっと笑う焔ちゃんへと飛びつくように抱き着こうとしたが、店の中だからなのか避けられてしまい、危うく棚にぶつかりそうになるハプニングがあったが、これ以上騒がしくして店に迷惑を掛けないようにササッと弾を購入して次の店へと向かい始めた。
最早完全にショッピングになっているが、こういう気分転換も必要だし、なにより焔ちゃんとデートしているみたいで悪くはない。
「あ、見て雫! こっちにも防具屋があるよ!」
「えっ? あー……品揃えがさほど変わらなさそうだし、スルーで良いんじゃない? 焔ちゃんは見たい?」
この街が二層で中心的な街であり、広いからこそ同じような店が立ち並ぶのは仕方ないと思うし、似たような品揃えという事は客からすれば品切れを心配しなくていいメリットがある。
ただ、それで店としては良いのか分からないが……。
ともかく、さっき防具屋を見た以上、品揃えが変わっていないのなら見る必要ないと私は思ってしまうが、焔ちゃんはどうなんだろう。
返答に間があるし、悩んでるってことは見たいのかな?
「んー、良し! スルーしよう!」
「ホントに良いの? もしかして何か欲しい防具があったりした?」
「ううん、全然! 確かに今着けてる防具はゴブリンキングの所為でちょっと炎で焦げてる部分もあるけど、見えづらいから気にしてないし大丈夫だよ!」
「そっか、それじゃ違うお店行こっ!」
防具屋をスルーし、他にも何か面白いものがないか探しているとき、ふと私は焔ちゃんの言ったゴブリンキングという単語から思ったことを聞いてみることにした。
そこまで気になるものではないが、話題の一つにでもなると思って。
「そういえばさ、ゴブリンキングってドロップ品があったりするの? 一応お金は貰えてるけど私たちにはドロップ品無いよね?」
「んー、そうだね。私たちはなにもないかな。でも、確かだけど剣とか防具がドロップした気がするよ! 性能はそこまで良くないくせに超低確率らしいけどね」
「へぇ、それじゃ何回も倒す人は少なそうだ……」
「そうだね。もっと良いアイテムとかだったら周回する人も沢山居そうだけどね……ま、この世界じゃ難しいかもしれないけど」
苦笑しながら話す焔ちゃんの言う通り、この世界で周回するのは物凄く大変な事だと思う。でも、それでも良い装備がドロップしたりするのなら意地でも手に入れる人は一定数居るはずだ。
私としてはあのゴブリンキングや他のボスと何回も戦うのなんて避けたい所だけど……。
「あ、見てみて、ここアイテム屋さんみたいだよ! 結構使っちゃってるし補充しよ!」
「えっと……うん、そうだね。特に飲み物系とポーション類は買っておいた方が良さそうかな」
そうしてコロコロと話題を変えながら歩き続けていた私たちは、ここまでの道中等で消費したアイテム類の補充と、二層での変わったアイテムを楽しみに店へと入っていった。
「うーん、相変わらず回復アイテムはポーションしかないかぁ。あっ! なにこれ! 凄い! こんなの絶対買っちゃうよ!」
急に興奮したかのように一人で騒ぎだした焔ちゃんを気になって近寄ってみれば、その手に持っている所謂クナイのような投げ物を見て納得してしまった。
なにせ、正直言って私からしても欲しいと思えるデザインをしているのだから。
とはいえ、毒や麻痺といった属性が付与されているみたいだけど、本当に必要かどうかと聞かれたら要らないと思えしまうのも事実だ。
効果の程も分からないし、お互いに遠距離攻撃だって出来るのだから、ここは無駄遣いしない為にも止めた方が良いかもしれない。
「えー、私が遠距離攻撃できるし、焔ちゃんも斬撃飛ばせるのに必要なの?」
「必要だよ! だってカッコいいもん!」
目をキラキラさせながら顔を近づけてきた上に、どれだけ必要なのかを早口で説明されてしまい、最早止めることも出来ずに私は諦めて他のアイテムを見ることにした。
「んーと、解毒薬に石化解除薬ね。これは一層には無かった物だけど、やっぱり二層からはこういった攻撃、属性を使ってくるって事なのかなぁ。……よし、一応買っておこうかな」
これから先の事を考え、万が一の為に購入してしまったが、毒や石化はどう考えてもやばいし、あるに越したことはない。
「雫~、疲れたしそろそろ休もうよ~」
「うーん、それもそうだね。私も足痛いし、宿探そっか」
ある程度必要な物を購入し、夜になる前に出来るだけ綺麗な宿屋を見つけた後、お腹も空いていたことだしまずはご飯を食べることに決めた。
――時刻は夕刻、まだまだ私たちの今日は終わらない。
 




