33話 『砂漠の世界』
二層が始まりました。今回の二層から仲間が増えますのでよろしくお願いします。
重たい扉を開けてみれば、熱風と砂埃が私たちを洗礼するかのように襲い、咄嗟に砂が目に入らないように私たちは目を閉じる。
「雫! もう目を開けても大丈夫だよ!」
焔ちゃんの声が聞こえ、少しずつ目を開けた私は、扉の向こうに広がる光景を目の当たりにして呆然とし、声が出せなくなってしまった。
「雫? 大丈夫そう?」
「あ、う、うん! ちょっとびっくりしちゃって……」
「そっか。ま、仕方ないよね、急にこんな砂漠が広がってれば誰だってびっくりしちゃうもん。環境が違いすぎーってね!」
物凄く楽しそうな焔ちゃんはきっとびっくりなんてしてないのだと思う。今だって目を輝かせて新しい階層を早く探索してみたいといった感じだし。
けど、逆にそれが新しい場所に踏み込むことに恐怖していた私の心をほぐすように和らげてくれるのだから有難い事だ。
「はぁ、今から砂漠を歩くのか……早く街が見つかれば良いなぁ」
「大丈夫、すぐ着くよ! ほら、ここからでも大きい街が見えるんだし!」
焔ちゃんが指差す方向には、確かに一際目立つ建造物が見えた。この二層にどれくらい街や村があるのかは分からないけど、少なくとも最初は今見えている場所を目指した方が良い気がする。
なにせ、今この場所からでもモンスターが何体か見えているのだ。
少し遠目でハッキリとはしていないものの、岩山付近には鳥のようなモンスターや、人間のような体と顔を持つハーピィというモンスターが見えるし、砂漠にも泳いでる魚のようなモンスターや巨大蟹まで存在している。
恐らく他にもやばそうなモンスターは沢山居るだろうし、手っ取り早く安全地帯に行って装備を整えるのがやっぱり先決だ。
「それじゃ、一直線で街に行こっか!」
「うん、そうしよう。あ、それとモンスターからは極力逃げようね。どうしようもなかったら戦うけど、ボスの後すぐに戦闘はキツイものがあるからさ」
「了解! 私も疲れてるし、今は出来るだけ戦いたくないからね」
意を決して扉を潜り抜け、熱気に体を包まれながら私たちは砂漠を闊歩する。
足裏が火傷するくらい熱く感じるし、日照りは容赦なく水分を奪っていくけれど、初めて来た場所という事や、こういった砂漠なんかを初めて歩いた為に、まるで旅をしているようで辛いけど楽しく街まで歩く事が出来ていた。
これも一人ではきっと心細くてしんどかっただろうし、焔ちゃんと一緒だということも楽しめた要因の一つだ。
「うー、喉がカラッカラだよ! いつになったら街に着くのさ! 結構近いと思ったのに!」
「まぁまぁ、あと一時間くらい歩けば着きそうだし、頑張ろっ!」
かれこれ数時間は歩いているものの、一向に辿り着かない街に対して、もしかして蜃気楼なのでは? っと思ってしまうが、結果的に街はちゃんと存在し、飲み物が尽きかけた時にようやく辿り着く事が出来た。
「ふぅ、疲れたぁ」
「ね、モンスターに何回も襲われた時はどうしようかと思ったよ。結局戦っちゃったし」
「まぁでも二層のモンスターの強さも少しは分かったし良かったんじゃない? 私たちでも特に苦戦することなったしさ」
最初こそモンスターに襲われていても逃げていたが、途中からは鬱陶しかったのもあり、逃げると決めていたにも関わらず私たちは戦ってしまっていた。
「そうだけどさ、砂に潜るモンスターはちょっと危ない場面もあったし、上の階層に行ったら拠点を見つけるまで逃げるのを徹底した方が良いと思うな。戦った私が言うのもアレだけどさ……」
「んー、それは確かに私も思ったよ。あんな風に地形を利用してくるモンスターは初めてだったしね。ま、上の階層とかはその時考えれば良いよ!」
「むー、いつも焔ちゃんは楽観的なんだから!」
なんだかんだでポジティブというか、楽観的に物事を捉えるのは焔ちゃんの良い所でもあり、悪い所でもあると思う。
今回だって、さっきも言った通り砂に潜るモンスターの攻撃を、砂漠という事もあって動き辛くて避けきれない場面もあったし、足がもつれて倒れちゃう事だってあった。
だからこそ、私たちは地形というのをこれからはよく理解しないといけないのだ。
それに、戦闘したことで余分に動き回ったから飲み物を多く使ったし、もし準備が出来ていなかったら砂漠で干からびていた可能性だってある。
それを踏まえれば今回は偶然上手くいっただけなのだと思うが、私の考え過ぎなのだろうか?
「どしたの? もしかして脱水症状とか?」
「ううん。考えてみれば私たちにはまだまだ問題点は沢山あるなぁって」
「あはは。確かに問題はあるけどさ、まだまだ私たちは初心者なんだから経験を積めば自然と最適な動きは出来るようになるよ!それに、雫はちょっと考え過ぎ! 人生は割となるようになるもんだよ! だからさ、折角街に着いたんだし、色々見て楽しもう!」
「……そうだね、うん。そうしよっか!」
焔ちゃんに手を引かれ、私は自分の考えていたことを無視するように飲み込むことにした。
今はただ、あんなに疲れていたにも関わらず、相変わらず元気に振り回してくる焔ちゃんの笑顔を見る為に。
それになんだかんだ焔ちゃんだって戦闘に関しては私よりも色々考えているだろうし、私がわざわざ考えた事の全部を言うまでもないだろう。




