26話 『役割分担』
鳴りやまない歓声の中、幾ら情報を持っているとはいえ、警戒しながら武器を構える私たちの前で、ゴブリンキングはけたたましい雄叫びと共に武器を天へと向けてかざし、それに呼応するかのように観客席から数体のゴブリンが降り立ってきた。
降り立ったゴブリンたちは、情報によれば全て何の変哲もない普通のゴブリンの筈なのだが、私たちの目の前で王を守るようにして立っているのはどう見ても普通じゃない。
光沢が輝く鎧に体を隠すくらいの大盾と、赤い宝石の付いた片手剣。まさにゴブリンナイトといった名称が付いていそうな見た目をしているのだ。
今まで見てきた情報では取り巻きが変わったというのが無かった為、条件なんかは分からないが、とにかく厄介なことになったのは間違いなかった。
「うわっ! 全然情報と違うじゃん! もー!」
「あはは。仕方ないよ、完璧に情報が出揃っているわけじゃないしね。それじゃ、とりあえず私が取り巻きで、焔ちゃんはゴブリンキングで大丈夫そう? 一応出来たら援護はするつもりだけど」
「大丈夫! 任せといて! 今度こそカッコいい所見せちゃうから!」
事前に決めていた通り、ゴブリンキングと同じく双剣を扱う焔ちゃんがボスを相手にし、私は周囲の取り巻きを相手にする。
と言っても、幾ら武器が殆ど同じとはいえ、戦い方は違ってくる可能性があるから、私は取り巻きを相手にしながら援護する形になるけど……。
「それじゃそっちは任せたよ!」
「うん! 焔ちゃんも危なくなったらすぐ退いてね!」
私の言葉に頷く事で返した焔ちゃんは、ひとまず纏まっているゴブリン達を引きはがす為に斬撃を放ってみせた。
当然、こっちの攻撃を受けるわけにもいかないゴブリン達は、分散したものの、真っ先にボスへと攻撃を仕掛けた焔ちゃんへと全員のヘイトが集まてしまった。
けど、私もここで傍観しているわけではない。幾ら焔ちゃんがヘイトを集めようが、私には銃がある。
焔ちゃんが取り巻きに攻撃していない以上、遠距離からでも私が攻撃すれば敵意を集めることが出来る為、取り巻き全員に向かって何発か発射し、見事に全員私へと釣られてくれた。
これでまずは引き剥がすことに成功したし、当初の作戦通り進めることが出来る。
「焔ちゃん! 右に避けて!」
「っ! 了解!」
取り巻きが私へと注意を向けたその瞬間、ゴブリンキングも一瞬私へと視線を向け、それに気づいた焔ちゃんが攻撃を仕掛けるが、それはゴブリンキングの罠だった。
無防備だと思って仕掛けた焔ちゃんへと、口元歪めながら剣を横から薙ぐようにして振ろうとしてきている。
しかし、そんな状況が見えていた私は雷の属性弾を装填し、剣を弾くのでは顔を狙って連射した。
幾らボスの体力があるとはいえ、私からの攻撃という不意を突かれた形でのダメージは予想していなかったようで、少し仰け反り、剣を振る手は止まった。
「雫! ありがとう、助かったよ!」
「ううん、大丈夫! でももう援護は出来ないかも。こっちも結構強そうだし……」
「問題無いよ、もうあんなヘマはしないから!」
既に私を取り囲んで警戒しているのもあり、これ以上焔ちゃんへの援護は叶いそうにない。
元々事前に得た情報と違って、明らかに見た目から強そうなのもあるし、馬鹿みたいに突っ込んでこないことを考えるとそれなりに知能があると思っていいだろう。
そして、知能があるということは連携を使ってくる可能性が高いという事でもある。
「あーやっぱり。これは厄介相手だなぁ」
手始めに近くに居た敵へと数発放ってみるが、鎧と盾の所為で甲高い音を立てて弾かれてしまった。頭は何も装備していないことを考えると、そこを狙うのが一番だろうけど、きっとそう簡単には狙わせてくれないだろう。
現に、私が撃つと同時に撃たれていないゴブリン達も動き出し、私へと攻撃を仕掛けてきているし、上手く死角を狙ってきていることからも統率が取れていて連携も出来ている。
そんな中で頭を正確に狙い撃つなど不可能に近い。
「……貫通弾を試してみようかな」
囲まれている状況の中でどうにか突破口を開くために、ボソッと呟きながら弾を装填する。
一応練習で何回か試したことはあり、反動に上手く耐えられるかは分からないが、岩すらも簡単に貫通していたことを考えると、鎧ならなんとかなる可能性は高い。
「よし! 当たってよね!」
私が声を出したことで警戒を強めたのか、盾で身を隠し始めたゴブリンたちの内、一体を標的にし、一発の銃弾が飛んでいく。
今回はしっかりと体に力を入れていたこともあって、なんとか反動で肩が外れることはなかったが、変な体勢、或いは一気に数発撃てばどうなってしまうか分からない。
けど、そんな事よりも、
「やっぱり。これならなんとか戦えそう!」
反動によって軌道がズレてしまい、心臓を狙い撃ちというわけにはいかなかったけど、貫通弾の威力は申し分なかった。
なにせ盾を貫き、鎧も当然のように貫通しているのだから。
また、今の私の一撃はゴブリンたちにとって予想外の一撃だったようで、自分たちの守りが通用しないという恐怖感からでなのか、さっきまでは守りに徹していたにも関わらず、今は一転して攻めようとして来ていた。
けれど、既に統率が取れておらず、連携もままならないゴブリンたちの攻撃はどれも単純であり、避ける事は容易かった。
「んー、さすがに跳弾は意味無さそうかな」
避けながら何発か放った跳弾は、確かに地面を反射して上手く計算すれば頭に当てる事も出来そうだが、反射によって威力が減衰してしまうし、防御が固く動きが速いとは言えない相手には不向きだった。
ただ、さっきの貫通弾による一発がどうしても心に残っているのか、私が銃を向けるたびにすぐさま身を隠すように逃げようとするし、時間は掛かるかもしれないけど、こいつらを倒すのも時間の問題だと思う。
――しかし、そう簡単にいかないのが現実だった。
 




