25話 『嫌な人物との再会』
ユニーク武器を手にしてから、一層のボスに挑むために情報を集めつつ、レベルを上げる毎日を過ごしていた私たち。
その結果レベルは攻略した人よりも高くなり、武器の扱いも慣れてきた為、私たちは情報を基にボスの元へと向かっていた。
「ねぇー本当にこの道で合ってるの~?」
「うーん、一応合ってると思うんだけど……情報通りならそろそろ建物が見えてくるはず」
街から平原を歩き、鬱蒼とした林の中を既に数十分程歩き続けていた。
モンスターは現れないものの、監視されているような嫌な視線を感じるし、私としてもさっさと辿り着いて欲しいのだが、未だに情報にある円形闘技場など見えてこなかった。
「焔ちゃん、この視線ってさ、モンスターだと思う?」
舐め回すような視線はモンスターだとは思えず、遂に鳥肌が立ってしまった私は、立ち止まってキョロキョロと辺りを見回してから焔ちゃんへと声を掛けた。
「うーん、私は殆ど感じないし、多分モンスターじゃないと思うよ。だって監視していたり後を付けてきているのがモンスターだったら私たちの両方を見てくるはずでしょ? だから人間だと思うんだよね」
「い、いやいやいや、人間なんて嫌なんだけど! なんで焔ちゃんは余裕そうにしてるの!? ストーカーなんて気持ち悪いじゃん!」
「大丈夫、落ち着きなよ。ストーカーなんて私が撃退してあげるからさ!」
「うぅ、ありがとう」
視線の正体が人間の可能性が高いと判明した以上、下手に刺激すると何をするか分からない為に、私は焔ちゃんの手を繋ぎ、出来るだけ平静を装いながら歩き続けた。
ただ、私が焔ちゃんにべったりという事はつまり、私に向けられていた視線を焔ちゃんも嫌になるくらい味わう事になってしまい、遂にイライラが限界に達してしまった。
「おらぁ! 覗き見してないで出て来いよ! 気持ち悪いんだよ!」
辺りに響き渡るくらいの怒声にビビったのか、茂みからヌッと二人の男が姿を現した。小汚い格好をして、目も狂ったように焦点が合っていないが、間違いなく以前私たちを襲おうとした男たちで間違いないだろう。
あの後何があったのか知りたくもないが、ここまでおかしくなっているし、以前のように簡単には逃がしてくれないかもしれない。
「――ヒヒッ。まぁそう怒るなよ。俺たちはただ見守っていただけだぜ?」
「あっそ、じゃあもうやめてくれる?」
「そいつは無理だな。お前たちの所為で俺たちはモンスターに嫌というほど痛めつけられた後に殺されたんだぜ? あの時お前たちが逃げなければこんな事にはならなかったのになぁ!」
喋っている男とは裏腹に、もう一人の男はブツブツと何かを呟きながら爪を血が出る程噛んでおり、明らかに話が通じる相手じゃない事が分かる。
この場にモンスターでもいればどうにか逃げれたけど、そう都合よくはいかないし、こうなれば私たちが直接撃退するしかない。
出来れば殺したくはないけど、殺されるくらいなら覚悟を決めた方がマシだ。
「もういいや。もっとホントは苦しめてから殺してやろうかなって思ってたけど、もう殺すわ。お前らちょっと顔が良いからってムカつくんだよ!」
「顔が良いだってさ、良かったね、雫!」
「いや、こんな人たちに褒められても嬉しくないんだけど……」
「あーもう! うるせえガキが! 死ねや!」
頭を掻きむしり、血走った目で腰から剣を引き抜き、強気な焔ちゃんではなく、私へと襲い掛かってきた。多分、私の方が簡単に倒せると思ったのだろう。
けれど、どうせ何かしてくると思い、準備していた私には振り下ろされた剣は当たらず、逆に一発の銃弾で腕を撃ち抜く事が出来た。
正直、ここまで追ってきているのだからそれなりに強くなっていると思っていたのだが、それも杞憂なようで、撃ち抜かれた腕を抑えながら喚き散らしている様は誰が見ても無様そのものだ。
「おい! ボーっとしてないで早くこいつらを殺せよ!」
「ヒィ! すいませんすいません。今やります!」
怒声に驚き、慌てて攻撃を仕掛けてきたもう一人の男の動きは遅く、焔ちゃんによって短剣を砕かれてしまい、殺されると思ったのか、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
「お、おい! 待ちやがれ! せめてポーションを置いてけよ!」
「あらら~、一人になっちゃいましたね。それでどうします? まだやりますか?」
「ちッ! てめえら覚えとけよ! いつか絶対殺してやるから!」
このままじゃどう足掻いても勝てないと理解したのか、悪党が良く言う捨て台詞を吐きながら逃げるように去ってしまった。
「焔ちゃん、あの人たち見逃して良かったの? 私たちに勝てないからって他の人達に手を出したりしないかな?」
「うーん、もしかしたらあり得るかもしれないけど、さすがに人殺しはしたくないじゃん? 幾らこの世界とはいえさー」
「そうだよね。それしか選択肢なさそうだし、難しいか」
「そうそう! だからもうあんな人たちのこと忘れてボスに集中しよ!」
この世界に法律がない以上、殺したとしても罪に問われることはないし、殺すのだって正直言って簡単に出来てしまう。
でもそれをしてしまえばきっと私たちもどこか人として壊れてしまうと思う。
それに、この世界に来た以上は自分の身は自分で守るか、大切な仲間を見つけていないのが悪いのだ。もし、あの人たちが誰かを殺したとしても、全ては殺された人の能力不足でしかないのだ。
これは仕方ないと言ってしまうしかなく、私がどう思い、感じ、行動しようとも全てを救うなど無理なのだから。
そうして、モヤモヤとした気持ちを抱え込みながら、歩いていると、ようやく私たちの目の前に情報通り円形闘技場が見えてきた。
正面の扉は固く閉ざされ、周囲は高い外壁に囲まれている。
中からは騒がしい声が聞こえてくるが、どうにも人間の声には聞こえず、外にまで漏れる騒音でしかない。
「それじゃ行こうか。雫、準備は良い?」
「うん、問題無いよ。行こっか!」
重たい扉を開け、壁に掛けられている松明の光で照らされている通路を歩いて抜けていく。
騒音だった声は徐々に歓声にも聞こえ始め、通路を抜けた時、背後でバタンと勢いよく扉が閉まったかと思えば、より一層歓声は高まった。
「焔ちゃん、あれがそうだよね」
「うん、間違いないよ。情報通り、あれがゴブリンキングだ」
王冠を被り、顔以外は全て装飾されたフルプレートアーマーを身に着け、背中には二本の特大剣を背負っている。
大きさは軽く私たちの三倍はあり、まるでここの王者のようにマントをたなびかせているその姿はまさしくボスに相応しかった。
 




