23話 『頼ってはいけない力』
「ちょ、ちょっと見過ぎだって雫!」
「え、あっ! ごめん!」
「あ、もしかして私に見惚れちゃってたんでしょ! あーあ、私はなんて罪作りな女なんだ……」
「べ、別にそういうわけじゃないし……」
あまりにも目を奪われていた所為で、時間を忘れて見つめてしまっていた私。
焔ちゃんの照れているような、恥ずかしそうに上擦った声でハッと目が覚めた。
私としてはそこまで長い間見ていた気がしないのだが、顔を逸らしている焔ちゃんの耳を見る限りだと、相当な間見つめていたらしい。
「えっ!? 違うの!?」
「あー、いや違くはないけどさ、も、もう良いでしょこの話は!」
「えへへ~。ちょっとからかっただけなのに仕方ないなぁ。それじゃ、そろそろ本命の宝箱でも開封しよっか!」
ルンルンといった感じでスキップしながら宝箱へと近づいていく焔ちゃんだが、相変わらず回復に時間が掛かっている為に、立ち上がる事はおろか、歩く事など出来なかった。
「あ、雫はそこから動かなくて大丈夫だよ! 私がそっちまで持って行くから!」
「あ、ごめんね! それじゃお願い!」
ほんとに私が倒したのかなぁ。という疑問を抱くが、前に一度焔ちゃんを助けた時も同じような感覚に陥っていた気もするし、今回もきっとそうなんだと思えてしまう。
でも、もしも今回みたいのが焔ちゃんを標的にしたらきっと殺してしまう。
それも、意識がない状態なら、止めることだって出来ない。
制御できない力は魅力的だけど、同時に怖くもある。
だから、きっと私には隠された力みたいなのがあるのだと、誰かを助けたいと思った時にだけ覚醒するのだと思う事にした。
問題を先延ばしにしているだけかもしれないけど、どちらにしよ対処法なんて見つからないのだから仕方がない。
それに、こう思っていないとなんだか自分の中に誰かが居るような気がしてならないし、仮に隠された力があったとしてもこれ以上頼るのはなんだか駄目な気がしてしまう。
「ほら雫! なにやってるの! 早く開けようよ~」
「あ、うん! それじゃせーので開けよっか!」
これ以上考えてもあまり意味がないと思い、ひとまずは自分の中で一瞬感じた不安を無理矢理押し込み、宝箱へと手を伸ばす。
多分、この事は焔ちゃんに話すべきなんだろう。
けれど、話してしまえば心配を掛けてしまうし、そもそもこれは私自身の問題なのだ。
きっと焔ちゃんなら一人で背負わないでと言ってくれるだろうけど、それでも私は限界まで背負いたいと思う。
「雫? どうしたの?」
「あ、いやなんでもないよ。それじゃ、せーの!」
私の掛け声と共に、目の前の宝箱は開かれ、ここで初めて私たちはイベントクリアという文字を確認する事が出来た。
そして、それと共に現れる24時間のタイムリミットと「ダンジョン崩壊」の文字。
これはつまり、モンスターはボス以外見当たらなかったし、強いボスと戦ったから24時間は休んで良いですよって事なんだろう。
ここはお言葉に甘えて休みたい……所だけど、隣で騒いでる焔ちゃんが居るから当分は休めようにないかな。
「へぇ、ユニーク武器って手に入れるとこんな説明があるんだね」
私たちが手に取ったその瞬間に、目の前に出てきたのはユニーク武器についての説明文。
要約すると、壊れない、一度装備すると外せない、武器が装備者と共に成長するというものだった。
「一回装備すると外せないのかぁ。でも現状だと圧倒的に強いし、装備しないのはないよね?……って、もう装備しちゃってるし!」
「えっ? いやだって、こんなの装備しないのはないでしょ! ほらほら、雫も!」
「えー、まぁ確かにそうだけどさぁ」
既に焔ちゃんの腰には、月と星をモチーフにしたであろう双剣があり、急かされて装備した私には兎の模様が入った銃と、欠け月のような剣がある。
性能までは軽くしか見ていないけど、どっちにしろ今この場にモンスターが居ない以上試せない。
それに、傷が回復しても疲労まではどうにもならないし、今日は大人しく休んだ方が良いだろう。都合よくダンジョン崩壊までの時間がある訳だし。
「あ、そうだ! 雫はなんかドロップ品とかあった? 私は無かったんだよね」
「ん? えーっとちょっと待ってね。……あ、このピアスかな? 持ってなかったし」
「兎のピアスじゃん! 絶対それだよ! うわ、可愛い! ってか性能やば! 凄いよこれ!」
興奮している焔ちゃんから返してもらったピアスを見た私は、今まで見た事も聞いた事もない性能をしていて驚いてしまった。
なにせ、AGIのステータスを10%アップさせる装備品なのだ。
確かに、今までもチャットとかでアクセサリーの報告は幾つかあったが、その中でもここまで上昇させるものはなかった。
「えっと、これ焔ちゃんにあげようか?」
「ううん、羨ましいけど、それは雫が戦ったから手に入ったものでしょ? 私はユニーク武器が手に入っただけで充分だし、なにより雫が死ななかった事が一番嬉しいもん。だから、ほら、それは雫が装備しちゃいな!」
言われるがままに私はピアスを装備し、ステータスを見て本当に上がってるのを確認したあと、満月が見える花畑へと向かって動き始めた。
既に疲労が溜まりすぎているのか、後ろから話しかけてくる焔ちゃんに反応する事も出来ず、私は花畑に倒れるように寝転がった。
「ごめん、ちょっと疲れたから寝るね……」
「そうだよね。お疲れ様! あ、でもここはモンスターも居ないし、私も一緒に寝てもいい?」
瞼が落ちていく中で、私は焔ちゃんの手を握り、そのまま深い眠りへとついた。




