20話 『起死回生の一撃』
防具を切られた衝撃と驚きでその場に思わず座り込んでしまう。
幸いにも私が致命傷を受けたと勘違いしてくれているか、或いは私が怖がっていると思っているのかは分からないけれど、兎は悠長にもゆっくりと歩みを進めてくれていた。
お陰で少しだけど考える余裕が出来ている。
……ただ、考えられるとは言っても、ポーションを飲めばすぐさま襲ってくるだろう。
そうなれば、回復よりも自分が動けるかどうかの確認の方が重要だ。
「まずは傷を見ないと……」
切り裂かれている防具はもはやその機能は失われてしまっているが、最後に役目は果たしてくれている。
傷を実際に見てハッキリしたが、血は意外と出ているが、そこまで深くはない。
つまり、殆どのダメージを防具が受けてくれたことになる。
でも逆に考えてみれば、防具ありでもここまでダメージを負っているという事だ。
もしも今の私みたいな生身で攻撃を受けてしまえば一撃で殺される可能性は充分に高い。
ただ、恐らくはこの傷ならば問題なく戦いは続けられるだろう。
「……はぁ。死ぬのは怖いけど、逃げられないしね」
この場所からは逃げることが出来ない。
それは分かっている。どちらかが死ぬまで戦いは終わらないのだ。
だから、私は戦わないといけない。
死ぬ可能性が高かろうがここで呆然と突っ立てるわけにもいかないし、全てを焔ちゃんに任せるのも無理がある。
「大丈夫、私なら戦える」
焔ちゃんを死なせない為に、自分が生きる為に。
自分を鼓舞してから銃を構える。
そして兎の胴体へと何発も銃弾を放ち、それに紛れさせて一発の銃弾だけ違う箇所へと撃ち放つ。
気付かれないようにと願いながら。
「っ!? ――――!!!!」
銃弾が兎を貫き、金切り声が耳に響く。
兎は相変わらず私の攻撃なんか効かないとでも言うかのように余裕ぶっていたが、唐突に声になっていない叫び声を上げながら暴れ始めた。
「……良かった」
安堵している暇なんて本当はないけれど、狙い通りに右目を撃ち抜くことが出来たことで、私は一瞬胸を撫で下ろした。
そしてその隙を使い、すぐにポーションを飲み、痛みを抑えつけようとするかのように手当たり次第に攻撃している兎へと、死角からの追撃を仕掛け始める。
ーーそれから少しの間は私が危険に晒されることは無く、ほぼ一方的に攻撃出来ていた。
が、そんな時間は長くは続かない。
目が見えないということに慣れたのか、片目だけにも関わらず正確に銃弾を避けながら私へと攻撃をし始めたのだ。
更に最悪なのは右目を失った兎はさっきよりも凶暴になっている事。
私を完全に殺す対象として完全に定めた上で、岩を投げて、その陰に隠れながら接近して頭を噛み砕こうとしてきたり、爪を振り回しながら迫ってきたり。
動きを読まれている分、それら全てを完璧に避けるのは難しく、致命傷は受けていないものの、私の体には傷が増えていった。
「また躱された!?」
本能なのかはたまた直感なのか。
私が撃った直後から着弾するまでの僅かな時間に避けてくる事が多くなっていた。
人間では到底不可能だから驚愕してしまうけど、もしかしたら私の撃ち方が直線で分かりやすいから躱せている可能性もある。
だからこそ、今度は違うやり方を試すことにした。
銃を隠して弾道を見えなくするという工夫だ。
しかしとて、当てはするけど狙いが正確じゃないからこそダメージは更に少なくなっていった。
とはいえ、もはや狙っている暇なんてそうなく、的がそれなりにデカいのだから、撃ちまくるしかないのが現状だ。
このままじゃジリ貧になって負けちゃうかも……。
不安が脳裏をよぎっていく。
ボスとしての体力が一緒な分、焔ちゃんのお陰もあってダメージは徐々に蓄積していってるのは有難い。
が、これ以上時間を長引かせたらもっとヤバい事になるのは確実だ。
焔ちゃんの方を見てみれば、多分今の私と同じことが起きているのだろうと予測できた、
どう見ても傷が増えているし、何より相手の槌は確実に焔ちゃんに当てにきている。
なんとか紙一重で躱しているけど、躱しきれないのもあって吹き飛ばされているのも視界に捉えてしまう程だ。
「焔ちゃん!?」
走り出そうとする足を止めるかのように、或いは絶対に助けに行かせないとでも言うかのように行く手を阻まれてしまった。
「そこをどいて!」
必死に銃弾を放ち、なんとかよろめかせることに成功したものの、相変わらず近くに寄ることは難しい。
きっと近づけば兎に攻撃されてしまうし、その場合は私が焔ちゃん以上に危険に晒されてしまう。
怒りで我を忘れそうになったけど、まだ焔ちゃんが死んだわけじゃないし、一旦冷静になって頭を冷やさないと……。
「……良かった。まだ大丈夫そう」
よろけた兎の隙間から焔ちゃんが生きているのを確認し、なんとかポーションを飲んでいるのが見えた。
無事なのであれば、私は目の前のボスに集中した方が良い。
体力ゲージはようやく残り一本になりそうだし、既に動きが読まれつつある以上、ある程度大雑把でも弱点を狙いに行く以外起死回生の方法はなさそうだ。
「っ! 痛いけど、これくらいなら!」
わざわざ直線的に走り出し、無謀にも突っ込む私へと兎は爪で切り裂こうとしてくるが、それをなんとか掠り傷で抑えるように避けながら進み続ける。
そうして、どうにか懐へと潜り込んだ私は寝ころんだ体勢のまま残っている目を狙い、撃ち抜いた。
「――!!」
直後、兎は断末魔を上げ、私は思わず耳を塞いでしまう。
音を遮断する中でこの場に留まったらやばいという直感が働き、即座に距離を離そうとしたが、思うように体は動かない。
兎が手当たり次第に暴れ始めてしまったのだ。
目の見えない中で標的である私を殺す為に。
痛みで我を忘れながら爪を、口を、頭を、使えるものは全て使って目が見えない中で暴れている。
ーーでも、どの攻撃も私に破片なんかは当たっても、直撃する事はなかった。




