19話 『学習するボスモンスター』
吹き飛ばされたあと、ひとまずここから先も戦いを続ける為に回復を開始。
ジワジワと回復していく中で、万全とは言わずとも動けるようになった事で、私は必死に戦っている焔ちゃんの援護の為に動き始めた。
現状焔ちゃんにヘイトが集まっているからこそ、私は安全に死角を探すことが出来、結果的に少しとはいえダメージを与えることが出来た。
ただ、相変わらずダメージ量は少なく、まだ体力ゲージを一本も削れていないのは絶望的と言っても良いのかもしれない。
「雫! さっきは大丈夫だった!?」
なんとか私の攻撃で切り抜けることが出来た焔ちゃんが心配する声を掛けてくる。
が、正直言って私から見れば焔ちゃんの方が傷が多くて心配になってしまう。
ポーションを飲む暇がなかったのだろうが、所々から血が滲んだり、垂れたりしているのだ。
でも、一人で二体相手にこれだけの傷で済んだのは偏に焔ちゃんの戦闘センスというか反射神経等が凄まじいからだと思う。
私ならきっとすぐにやられてしまっただろうし。
「うん。全然平気だよ! ポーションも飲んだし!」
「良かった。っと、そうだそうだ。私も飲んとかないとね」
ポーションを飲み、一息ついているのも束の間、二人で固まっている私たちへと何処からともなく巨大な岩が飛んできた。
辺りを見渡してもそんな岩など存在しない為、これはゲーム上の仕様というか、ボスはこういった何もない空間から武器を取り出す場合があるということだろう。
ともかく、幸いにも岩を投げるという行為は連発出来ないようで、激しい地響きを鳴らしながら私たちを分断しただけであった。
「焔ちゃん! 私がこっちの奴と戦うからそっちをよろしくね!」
「うん! 結局こうなってごめんだけど、よろしくね! 死にそうになったら助けに行くから!」
分断された結果、お互いに分かれて戦う事になってしまった。
けれど、元々近くで戦おうと思っていたし、焔ちゃんの負担も減るのだから問題はない。
いや、正直言って私がちゃんと戦えるのかという一抹の不安はあるが、もう戦うしかないのだ。
「っ! まぁ仕掛けてくるよね」
私らが幾ら個々で戦おうとしても、相手からしてみればそんな事関係ないわけで、着地した瞬間を狩るように横から槌が薙ぎ払われた。
しかし、私の視界の端には攻撃モーションが見えていた事もあり、咄嗟に屈む事によって攻撃を回避。
その上で、大きな隙を突いてがら空きの腹部へと数発銃弾をお見舞い。
でもーー。
「うえ! 効いてないの!?」
柔らかいと思って腹部を撃ったのは良いものの、血は出ているが痛みを感じている様子はない。
更には撃たれた状態のまま、槌を下からすくい上げるように振ろうとしてきている。
――避けられない。
今の態勢からそう考えた私は、壊れる事覚悟で銃を盾にし、腕と銃に衝撃を集めることでなんとか致命傷を避けた。
でも、兎の攻撃はそれだけじゃ終わらない。
上空に打ち上げられた私を、跳躍して叩き落そうとしてきているのだ。
「――お前の相手は私だぁぁあ!」
「キュ!?」
兎が私を狙って跳躍している。
そこから体を捻るのは困難に違いない。
つまる所、横からの攻撃に対応出来ないということであり、弾丸のように突っ込んできた焔ちゃんに、驚いたような声を上げながら突き飛ばされていった。
「ありがとっ! 焔ちゃん!」
聞こえているかは分からないが、窮地を救ってくれたことに感謝してから、私は空中で痛む腕をなんとか動かしてポーションを飲んだ。
最早一撃でもまともに食らえば体力が半分は削られてしまうのもあって、このままでは私たちの方がジリ貧になってしまう。
「ふぅ。出来るだけ直撃は避けないと」
さっきの様に油断はもうしない。
幸いにも銃は無事であるし、ヒット&アウェイを基本にして攻めていく。
ただ、残されている兎は臼という武器を失って、さっきより凶暴になっているのが怖い所。
なにせ、私は自分より速い相手に対して回避しながら攻撃するというのを殆ど試したことがないのだ。
「……さすがに難しいな」
動きながら撃ち続けるのは良いものの、なまじ動きながらな分狙いが正確じゃなかったり、正確に狙おうものならすぐさまそこを狙われてしまうという状況が続いていた。
地面すら抉る爪と、壁すらかみ砕く牙。
更には相変わらず岩を投げて視界を遮ったり、銃弾すらも防がれているのだから、どうしても決定打に欠けてしまう。
これ以上……どうすれば?
思わず疑問が浮かんでしまう。
当然私も出し惜しみしていないのだ。
いや、というより安い弾だとダメージが低すぎる為に属性の付与された弾をこれでもかというくらい使っている。
だからこそ、例え狙いが正確じゃなくて掠ったりしただけでもダメージは与えられていた。
けれど、それでも倒すには程遠いのが現状。
「きゃあっ!」
距離を取ってしまえば死闘を繰り広げている焔ちゃんの元にヘイトが向かってしまう。
それを防ぐには必然的に近くで回復したり、リロードしたりしないといけないのだが、その際に私が避け続けた結果でもあるのだろう。
どうやら私の避けかたを学習して、先読みして攻撃してきたのだ。
勿論、そんな事出来ると思っていなかった私は、迫りくる爪を避けられず、防具ごと体を切り刻まれてしまい、つい叫び声を上げてしまった。
「……これやばいよね」
防具が実質無くなったという事に絶望し、こっから先は地獄だと思考は纏まっていく。
そんな最中、私の眼前には今の攻撃が私に通ったという事を読み通りとでも言いたそうな顔をしながら不敵に笑っている兎が立っていた。
 




