2話 『ゲームの世界』
ゲームを起動し、暗い画面の中で待っていた私は、まるで沈んでいくかのようにゲームへと入り込んでいた。
「えっ!? ちょっと! なにこれ!」
私の声が暗い世界に響き、反響している。
明らかにおかしい状況だ。
そもそもVRゲームとは言っても、アニメに良くある設定なんかとは違って、いわゆるフルダイブなんてものは一般家庭では出来ないのだ。
まるでゲームの世界に入り込んでいるという風には出来るものの、実際に入る事はできない。
ましてや、一般家庭で出来るVRゲームでは企業とかでやるフルダイブのゲームとは明らかに質が段違いの筈。
なのにも関わらず、今の私はゲームの中にいるのだ。
そう思っていたり感じている訳でもなく、紛れもなく私はゲームの中に入っている。
『失礼致します。今回は私共が開発したゲーム、「レプリカント・ワールド」に応募してくれてありがとうございます。つきましては、ご当選した貴方をこの世界にご案内致しますのでご了承下さいませ』
「待った。頭の中整理するからちょっと待って」
突然私の目の前に現れたのは、いわゆるメイド服というものを着た人間。
いや、アンドロイドだ。
どこから現れたのかについても疑問が生じるけど、それよりも問題なのは今のこの状況。
確かに私はこのアンドロイドが言った通り、『レプリカント・ワールド』というゲームに焔ちゃんと応募した。
そして、それが当選。
そこまでは正しい。
けど、その後だ。今私はゲームの中にいる。そこをアンドロイドに説明してほしいのだ。
この明らかに間違っている今の状況を。
『終わりましたでしょうか?』
「えーっと、まぁ一応は。でも、その世界に行く前に一つだけ聞いても良いですか?」
『はい。なんでしょう?』
「私って今ゲームの中にいますよね? 家でヘッドギアを装着しただけなんですけど……」
『そちらについての説明はまたゲームの世界に着いてからさせていただきます。ではそろそろお時間になりますので、失礼致します』
アンドロイドに触れられたその瞬間、私を猛烈な睡魔が襲い、次の瞬間には私は眠ってしまった。
「おーい、雫〜? 起きて〜」
「……ん……ん? あ、おはよ」
「うん、おはよ。ってか、どうして来ちゃったの? あれだけ忠告したのに!」
「えっ? いやだって、焔ちゃんの声全然聞き取れなかったもん!」
「あ、そうだったの? そっかそっか。ま、もう来ちゃったし仕方ないね。それじゃ、雫が眠ってた間に聞いた話を簡単に説明してあげる!」
そこから、未だ寝起きの私へと一瞬で眠気など吹き飛ぶような話を焔ちゃんはしてくれた。
どうやら、この世界は本当にゲームの中の世界で間違いはなく、元の世界にいる私たちは存在せず、いわゆる異世界転移というものをさせられたらしい。
そして、私たちをこの世界に転移させた人物こそが、あのメイド服を着たアンドロイドであり、いわゆるこの世界の神様との事だ。
また、私たち以外にも数千人規模でこの世界に日本人が来ているらしく、加えて言えば元の世界に戻る方法も一つしかないとの事だ。
そして、その一つというのがこの世界を攻略する事。
「攻略かぁ。それって全部で十層のエリアをクリアしろって事でしょ?」
「うん、事前情報を見た感じだと、一層が普通のオープンワールドゲーム並みに広いみたいだしね」
「えっ、それって例えば一番端ってどうなってるんだろ?」
「んー、確か繋がってるんだったかな? 端まで行くと、逆側の端に出るって言ってた気がする!」
「ふーん。なるほどねぇ…….」
私自身、このゲームについての情報を少しは得ている。
と言っても、この世界にはいわゆる魔法があるということや、ステータスがあるという事。
他には、季節ごとのイベントなどが無限大にある事、そして、これは私が知らず、焔ちゃんにサラッと教えてもらった情報だけれども、どうやら開発者は死んでいるらしい。
このゲームを作る段階において熱中し過ぎた結果、付喪神が宿り、それが意識を持って私たちを転移させたというのが現状だ。
つまり、神様視点で言ってしまえば生まれの親に対しての親孝行とも言える。
なにせ、ゲームを作って死んでしまったのならば遊んでくれる人はいない。
それをゲームに宿った神がどうにかした結果がこれだ。
まぁ正直、付喪神が宿るなんて信じられないけど、こうして既にログアウトも出来ないゲームの世界に居るのだから、非現実的な事は起こりうる可能性自体はあるという事。
「ま、なんにせよクリアすれば戻れるんだし良いじゃん!」
「いやいやいや、この世界にモンスターだって居るんだし、死んだらおしまいなんだよ?」
「大丈夫! 一回死んでもレベルがダウンされるだけらしいよ! さすがに二回目はダメらしいけど、一度死んでも大丈夫なら簡単だって!」
ヘッドギアを装着している以上、あの付喪神が脳に影響する電波を発生させられるというのはなんとなく理解出来る。
方法とかはともかく、多分本当に出来てしまうのだ。
だからこそ、私たちの命は常に握られていると言ってもおかしくないだろう。
まぁ、さすがに気にくわないから殺すとかはなさそうだし、この世界においては二回目に死んだときに現実で脳が破壊されて植物状態にされてしまうらしいから、いわゆるアニメなんかである普通のデスゲームよりは親切と言えるのかもしれない。
とはいえ、普通に考えれば死を体験できるとかおかしいし、正直一度たりとも死にたくはない。
「まぁそりゃ、ゲームとしては死んでも良いっていうのは簡単だけどさー。今はここが現実なわけじゃん? 絶対痛いよ。私たちじゃ耐えられないくらい痛いって」
「ふーん。なら私だけで行っちゃうから! 後で付いてきても知らないからね〜」
今の私たちは第一層の街の中、噴水広場にいる。
NPC、いわゆるノンプレイヤーキャラクターも含めて、人は大勢居るのだ。
そんな中、走り去ろうとしている焔ちゃんを見つけるのは至難という事もあり、私は必死で服の袖を掴み、焔ちゃんを引き止めた。