17話 『逃げた先で』
今ここで断ってしまえば逃げるのは難しく、下手したら殺されてしまう。
そう考えた結果、私は一瞬焔ちゃんの方を見た後に、口を開き、男たちの誘いに乗る事に決めた。
「あの、パーティーを組むので腕を離してくれますか? 私たち弱いので、どちらにしても逃げられないし、貴方たちと一緒に居てユニークアイテムを入手出来るなら断るつもりもないです」
「雫!? 何言って――」
私が受け入れるとは思っていなかったのか、焔ちゃんは怒ったように叫ぼうとするけど、直後に私が一回首を振ったことで、諦めたように口を閉じた。
長年の付き合いがあるからこそ、私の意図を理解してくれたのだろう。
「そうかそうか! 確かに弱いなら強くなりたいよな! 良いぜ、離してやるよ」
私が自分たちの事を弱いと言ったお陰か、あっさりと腕を離してくれ、ようやく私たちは自由となった。
ここまでくれば後はタイミング次第だ。
「それじゃパーティーを組もうか。変な真似したら今度は殺しちゃうかもしれないから気を付けろよ? 俺たちだって傷つけたくはないんだからさ」
まずはフレンドにならないとパーティ―申請が送れない以上、男たちはフレンド申請を送ってくるけど、その間に私は焔ちゃんへと小さい声で声を掛けた。
「……私が合図したら全力で走って」
「……えっ、あ、うん、だよね。組むわけないよね。でもさっきまでのは……あ、そういう事か」
どうやら焔ちゃんは私が諦めて本当に組むと思っていたらしく、少し驚きながらも、私の行動と言動を思い出し、全ては逃げる為だと理解してくれた。
正直、さっきの段階で理解してくれたのかと思ってたが、まぁこの際どっちでも良い事だ。
「おいおいおい! なにこそこそ話してんだよ! さっさと申請を受諾しろや! 殺すぞゴラァ!」
「ってか、今組むわけないとか言ってなかった? 聞き間違いじゃないよね?」
全部聞こえてたわけじゃないと思うけど、少なくとも疑われて武器を取り出された時点で、猶予はもうない。
どれだけ私が早撃ち出来るかに懸かっているのだ。
「逃げるよ! 焔ちゃん!」
「うん!」
今にも痺れを切らして襲ってきそうな男ではなく、森を知り尽くしていると言われていた方が危険だと思った私は、盾を持っているものの、その人を狙って一発の銃弾を撃った。
盾で防がれるかもしれないし、人に向けて撃っていいものか一瞬葛藤したものの、さすがに一撃じゃ死ぬことはないと思うし、大丈夫だろう。
しかし、案の定というべきか、銃弾自体は盾に防がれてしまった。
けれど、私が放ったのは雷の弾であり、防いだ瞬間は余裕そうにしていた表情も、感電によって苦痛に満ちた表情へと変貌している。
「騙しやがってクソがっ! 何が弱いだよ! ふざけんな、絶対に見つけ出して殺してやる!」
なんとか作戦が成功した私は焔ちゃんの手を引きながら走り出す。
背後からは凄まじい怒声と共に走ってくる足音が聞こえてきており、追いかけられるという恐怖と戦いながら、私たちは振り返ることなく走り続けた。
直線的に走るだけではすぐにでも追いつかれてしまう危険性がある以上、何度も脇道に入ったりと、道なき道を進んでいたが、それでもまだ私たちを探す声は耳に届いている。
そうして、もしかしたら今追いかけてきている奴こそが本当は森に詳しいのではないかと思った矢先、私は木の根に足を引っかけて転んでしまった。
どうやら遂に私の足は限界を迎えてしまったらしい。
「雫! 乗って!」
「良いの? まだ私頑張れるよ?」
「良いから早く!」
私が盛大に転んでしまった事で、居場所がバレた危険性がある以上、そこに長居することも出来ず、言われるがままに私は焔ちゃんの背に乗った。
「ありがとね」
「大丈夫! 体力には自信あるから!」
それからは、さすがに私を背に乗せた状態では全速力で走ることも出来なかった為、何度か休息ついでに隠れたり移動したりを繰り返していた。
そうして、ようやく男の声が聞こえなくなったと思えば、辺りは夜になっており、どうやら男たちは諦めたようだと理解した。
まぁ、真っ暗で鬱蒼とした森の中で人探すのは容易ではないし、暗闇に居るモンスターにわざわざ自分の居場所を知らせるような真似はしたくないと思ったのだろう。
「はぁ、怖かった……」
「私も怖かったけど、今は何より私たちの顔を覚えられただろうから、早いとこ強くなって簡単に撃退出来るようにならないとだよ!」
「そうだよね。名前まで知られているし、銃を撃った所為で殺そうとしてきたしね」
「撃たれたからってのもあると思うけど、どっちかって言うと、騙された挙句に簡単に逃げられたからってのが一番だと思うかな」
「そういうものなのかなぁ」
ああいう人間と出会った事がない上に、どういった思考を持っているのかも考えた事がなかった私は、さっきの出来事を忘れる為に、空を見上げる。
瞬間、私の視界には驚愕すべきものが映りこんだ。
「ほ、焔ちゃん! 空! 見て!」
私が興奮気味に声を掛けるが、焔ちゃんからは返答はないが、もしかしたら焔ちゃんも既に目を奪われて声を発する事が出来ないのかもしれない。
なにせ、地球とは違った赤い満月が昇っており、星と共に輝いているのだ。
神秘的というか、異様な雰囲気で黙ってしまうのも無理はないだろう。
しかし、実際は全く違った。
私が目を奪われているのを他所に、焔ちゃんは違うものを見つけていたのだ。
「雫! 空なんて見てないで、ほら、こっち見てごらんよ!」
焔ちゃんに脇腹をつつかれながら声を掛けられ、仕方なくそっちに目を向ければ、目の前にはダンジョンらしきものがあった。
ひっそりと、だが存在感がある。
洞穴の可能性も充分にあるが、それならそれで休息するのに最適だ。
「えっ、これってもしかして?」
「分かんないけど、今日の夜は変な満月だし、もしかしたら条件を満たしてる可能性はあると思うよ! まぁこのダンジョンは普通ので、どこかで条件を満たしたダンジョンが存在するかもだけど、ま、入ってみれば分かるよ!」
誰かが既に攻略したかもしれないダンジョンだし、ユニークアイテムじゃないかもしれない。
けれど、このまま暗い中森を彷徨うくらいなら、ダンジョンか或いは洞穴、洞窟の方がマシだろう。
それに、焔ちゃんは目を輝かせているし、内心私もドキドキしてしまっている。
「でもレベルとか大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ! 難しいダンジョンだったら最悪逃げれば良いんだから!」
逃げられるのなら確かにそこまで心配になる事もないだろうと思った私は、焔ちゃんの言葉に頷いて後をついて行く。
躊躇もなく、暗闇の中を。




