1話 『現実の終わり』
本作はVRMMOのデスゲーム作品となっております。どうぞ宜しくお願い致します。
ーー夢を見ている。
悲しい夢を。あり得ざる世界の夢を。
「ーーねぇ、ーー。起きてよ。嫌だよ、目をーー覚ましてよ!!」
ある朝の寒い日に、カーテンから差し込む暖かい太陽の光で私、兎間雫の目は覚めた。
「ん〜……はぁ。ホント最悪な夢……」
「雫〜! まだ寝てるの!? 朝ご飯出来てるよ!?」
「はーい! 今行く〜!」
寝起きで視界がボヤけている中でも、私の頭は働き、夢の内容について考えていた。
今回私が見た夢は、友達と一緒に何かと戦う夢だ。そして、その中で私が死ぬ夢。
紛れもなく最悪な夢である事に間違いはない。
自分が死ぬ、いや、それよりも大事な友達が私の死を悲しみ、涙を流していたその表情こそが私の胸を締め付けていた。
「雫ー!?」
「はーい!」
けれど、夢は夢だ。現実ではない。
だからこそ、最悪だと思っていながらもまだ私の気分が落ちる程度で済んでいる。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
この夢が現実になるということをーー。
「お母さん、おはよ〜!」
「おはよ〜! じゃないわよ! もう学校行く時間じゃない!」
「げっ、もうこんな時間なの!? 朝ご飯のパンだけ貰ってくね! 行ってきまーす!」
「はいはい。気をつけて行ってらっしゃい!」
勢いよく家を飛び出た私は、パンを口に咥えながら走り、急いで学校を目指していた。
家から学校までの距離はそこまで遠くもなく、幸いにも通学路へ辿り着いた時にはまだゆっくりと歩いている人達が沢山いた。
「って、あれ? 私遅刻ギリギリのはずだったんだけど……あ、焔ちゃん! おはよっ!」
「おっ! 今日は珍しく早いじゃん!」
通学路の中で一際目立つ赤い髪に気付き、私が声を掛けたのは、大親友の暁焔ちゃん。
小学校からの親友で、高校生になった今でも仲の良さは健在。
けど、高校生になってからは一度も一緒に登校したことはなく、今こうして出会えているのが不思議だった。
まぁそもそも私が毎日のように寝坊しなければ良い話なんだけども。
「んー? なんでだろ? 家の時計は遅刻ギリギリの時間だったんだよね」
「あっはっは! ホントなにやってんのあんた!」
「えっ? えっ!? あっ! そうだった!」
焔ちゃんが私の言葉を聞いて笑い始めたのをきっかけに、私は昨日の帰りに焔ちゃんに話していた内容を思い出した。
そう、私は昨日の夜に家の時計を遅刻ギリギリの時間で止めていたのだ。
いつも遅刻してしまう生活を直すためにやってしまった行動だけど、今日を見る限りではどうやら正解だったみたい。
しかし、多分私は二度とこんな事はしない。
何故なら、私の髪や服は乱れすぎているからだ。
「もう、仕方ないなぁ。まだ時間あるし私が髪直してあげる! ほら! 早く学校行くよ!」
「うん!」
焔ちゃんに手を引かれ、私たちは学校へと入っていく。
そして退屈な授業を終え、学校に来たときは見違えたかのように綺麗に整えられた髪と制服で私と焔ちゃんは帰路へとついた。
「あ、ねぇねぇ、そういえば前に抽選してたゲームってあるじゃん?」
「あー、そういえば最新作のVRゲームだっけ?」
「そうそう! それがさ、今さっき見たら当選してたんだよね! 雫はどう? 当選してた!?」
「ん。ちょっと待って、確認してみる」
大のゲーム好きである焔ちゃんとは違い、私自身は特にゲームが好きな訳ではなかった。
確かに焔ちゃんとゲームするのは楽しいし、一人でもやる事はあるものの、そこまで好きというほどではない。
「あ、私も当たってる」
「ホント!? やった! それじゃ早く家に帰ってやってみよ!」
「ちょっと、課題があるでしょ? それ終わらせてからね」
「もう! 課題なんしてしてる暇ないよ! 丁度明日は記念日で学校休みなんだし、明日やれば大丈夫だって!」
「はいはい。それじゃ、またゲームでね」
「うん! 絶対だよ! すぐ来てね!」
猛スピードで駆け出していく焔ちゃんに手を振ってから、私も歩き出す。
数分と経たない内に家へと辿り着き、無造作に置かれている段ボールを開封する。
「着替えてっと。よし、仕方ないからゲームしてあげるかな」
ゲーム内でフレンドになっている人が今ゲームをやっているかはすぐに分かる。
だから、私がVRゲームをする為に装着するヘッドギアを被れば焔ちゃんがゲームをしているか分かってしまうのだ。
そして、当然の如く私のフレンドはただ一人である。
なにせ、私は現実でも焔ちゃん以外に友達がいない人見知りなのだから。
「おーい、もうゲームやってる〜?」
「……メ。……っちに……やく……ゲームを……って!」
「ん? 聞こえないんだけど! まぁいっか。ゲーム起動っと!」
焔ちゃんとのボイスチャットは正常に繋がっているものの、声は途切れて聞こえなかった。
恐らくゲームに夢中か、トラブルがあったのだと思う。
まぁどちらにせよ、ゲームを起動してしまえば会えるし問題ない。
そう思って私はゲームを起動した。
……いや、起動してしまった。
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