全人類は僕を嫌っている
全人類が僕を嫌っている。
僕がどれほど動いても、誰一人褒めてはくれない。
僕がどれほど願っても、誰一人近づいてくれない。
僕がどれほど信じても、誰一人信じてはくれない。
僕がどれほど語っても、誰一人聞いてもくれない。
僕がどれほど描いても、誰一人見てさえくれない。
僕がどれほど愛しても、誰一人愛してはくれない。
僕は、全人類の嫌われ者なのだ。
一言呟けばキモイと言われ。
一曲歌えば耳が腐ると言われ。
一枚絵を書けば目が腐ると言われ。
一回の邂逅を面白おかしく吹聴され。
一度でも手を触れようものなら逃げ出され。
一人残らず僕の前から消え失せて取り残され。
僕は、全人類から嫌われるために生まれたのだ。
人には、嫌いたい気持ちがある。
人には、蔑みたい気持ちがある。
人には、憎みたい気持ちがある。
人には、哀れみたい気持ちがある。
人には、勝ち誇りたい気持ちがある。
人には、敵意を向けたい気持ちがある。
僕は、全人類のために存在しているのだ。
誰もがストレスを感じている現代社会、その鬱憤を晴らすためのサンドバッグとしてこの世に生まれたのだ。
なんで、僕は、こんな運命のもとに生まれてしまったのだろう。
家族ですら、時折ストレスを解消しようと僕を怒鳴り付けるのだ。
……心が、落ち着ける瞬間が、ない。
いつだって、誰かに憎しみを向けられて。
いつだって、誰かの悪意を叩きつけられて。
いつだって、誰かが蓄えた怒りを受け止めて。
もう、僕は、嫌われものを辞めたい。
これ以上、悲しい思いをしたくはない。
これ以上、無気力に生きたくはない。
これ以上、孤独になりたくはない。
ああ、誰か……。
ああ、誰かに……。
ああ、誰かから……。
必要と、されたい。
誰か。
誰か。
誰か。
「あの、ちょっといいですか。」
……僕の目の前に現れた、女性。
「私の話を、聞いてもらえませんか。」
……僕に、求める、女性。
「私の事を、知ってもらえませんか。」
……僕は、全人類に嫌われているけれど。
「私の手を、取ってもらえませんか。」
……僕は、この女性には、嫌われていないらしい。
「あなたは、私に必要なの。」
……この世界に、たった一人だけの、僕を必要とする存在。
「私の願いを、叶えて。」
僕は、女性の望みを、叶えてあげずにはいられない。
「ね?お願い。」
僕は、女性の望みを、叶えてあげるために。
「これはね、幸せになれる壺なの!」
今日も、この世界で、全人類に嫌われながら、働き続けている。