1 本坂先輩とランチタイム
ずぞぞぞぞ。
翌日の昼休み。
俺は学校の食堂で、カレーうどんをすすっていた。
ここの学食のカレーうどんは一杯二百円。
値段がお手頃なだけあって、味はうまくもまずくもなく、入っている具も少ない。
そんなカレーうどんをすすりながら、俺は昨日の出来事をぼんやりと考えていた。
昨日は矢代先輩の事で色々あった。
矢代先輩を狙うという謎の黒い車が現れたり、
矢代先輩のお父さんが沢凪荘に来て、何やら重大な事を矢代先輩に告げ、
九州に出張に行ってしまったり。
それから矢代先輩はすっかり元気をなくし、今朝もげんなりした顔をしてたけど、詳しい事情を俺達に話そうとはしない。
この事について沙穂さんは、
『これは矢代ちゃんの身内の問題みたいだし、私達は黙って見守ってあげましょう』
と言っていたので、俺や美鈴も矢代先輩をそっと見守る事にした。
でも、本当に大丈夫なんだろうか?
面倒な事(具体的に言うなら、俺が巻き込まれるような事)にならなきゃいいんだけど・・・・・・
ずぞぞぞぞ。
そう思いながらカレーうどんをすすっていた、その時だった。
「あの、お隣よろしいですか?」
という声とともに、フワフワの髪を背中まで伸ばした、おっとりした笑顔が素敵な女子生徒が、焼き飯が乗った盆を持って、俺の傍らに現れた。
彼女は三年の本坂夕香奈先輩。
この学校の生徒会長にして、ミナ高三大美女の一人と言われる程の絶世の美女。
性格はほんわかでおっとりしていて、誰からも好かれるタイプだ。
いささかおっちょこちょいな所もあるけど、それがかえって周囲の男子達のハートを鷲掴みにしている(俺もその一人だ)。
そんな本坂先輩の申し出を断る理由は何処にもないので、俺は快く、
「どうぞ」
と言って隣の席の椅子を引いた。
すると本坂先輩は、
「ありがとうございます」
と言ってその椅子に座り、天使の様な微笑みを俺に向けてくれた。
う~む、相変わらず素敵な笑顔だ。
ちなみにどうして俺みたいな特に取り柄のない一年の男子生徒が、こんな素敵な上級生の女子生徒と知り合いなのかというと、実は俺と本坂先輩は、おなじファミレスでアルバイトをしているのだ。
そのバイト先で仲良くしてもらっている関係で、学校でもこうして気安く声をかけてくれる。
それは何とも嬉しい事なんだけど、あんまり調子に乗ってると、本坂先輩のファンの男子達にシメられるので注意が必要だ。
ミナ高三大美女の人気はダテではないのだ。
その本坂先輩は、テーブルに置いた焼き飯に、一味トウガラシをこれでもかというくらいぶっかけて(この人は、見かけによらす『超』が付くほどの辛党なのだ)、それを一口頬張ってから俺に言った。
「ところで、昨日は大丈夫だったんですか?」
大丈夫というのは、矢代先輩の事だろう。
昨日バイト先で美鈴が本坂先輩に話したんだな。
それに対し、俺は軽い口調で答えた。
「まあ、何とか無事に沢凪荘に辿り着きましたよ」
「矢代さん、でしたっけ?美鈴ちゃんが言うには、何者かに狙われているらしいじゃないですか」
「ああ、それがどうやら、相手は矢代先輩の身内らしいんですよね。
だからそんなに心配する事でもないかなと思うんですけど」
「そんな事はありませんよ。最近は身内同士でも殺人事件が起こったりしていますし、下手をすれば、矢代さんの命に関わる事かもしれません」
「そんな大げさな。そもそもあの人は何も話そうとはしないし、俺達にはどうする事もできませんよ」
「それなら、こちらで独自に矢代さんの事を調べるまでです」
「ええ?調べるってまさか、あの人に頼む気ですか?」
「はい、尾田さんにお願いしましょう」
「・・・・・・」
その名前を聞いた俺は、言葉を詰まらせて冷や汗を流した。
尾田清子。
ミナ高新聞部の部長にして、本坂先輩と同じく、ミナ高三大美女に数えられるほどの美貌の持ち主。
しかしその影では『裏の生徒会長』とも呼ばれ、ミナ高の内外に幾多の情報パイプを持ち、その情報力は、そこいらの私立探偵をはるかに凌ぐとも言われている。
そしてそんな彼女を敵に回し、恐ろしい目にあわされた人間が数多に居るという噂もあるようだ。
俺はその尾田先輩に以前お世話になった事があるけど、できればもう、あの人とは関わりたくないと思っている。
あの人と関わると、ロクでもない事に巻き込まれるような気がするのだ。
なので俺は両手をブンブン横に振って、本坂先輩に言った。
「いや!それはよしましょう!それだけはやめた方がいいと思います!」
「そうですか?私は尾田さんに頼むのが一番いい方法だと思うんですが・・・・・・」
「いえ!俺的に遠慮します!この件は矢代先輩個人の問題なんで、他人である俺達は何もしない方がいいんですよ!だから尾田さんにもこの事は黙っておいてください!いいですね⁉」
「はあ、まあ、稲橋君がそこまで言うのなら・・・・・・」
「お願いしますよ?この事はくれぐれも他言無用という事で」
「分かりました。ところで、稲橋君は今日のバイトには来れるんですか?」
「あ、はい。今日はちゃんと行きますんで」
「そうですか、それは良かった」
「え?良かったって、どういう事です?」
もしかして俺がバイトに行かないと、本坂先輩が淋しいって事ですかい?
という期待を込めて聞き返すと、本坂先輩はニコッと笑ってこう言った。
「稲橋君が来てくれないと、岩山店長が淋しがりますから」
「ああ、岩山店長が・・・・・・」
その名を聞いた俺は、ガックリとうなだれた。
俺のバイト先の店長は、尾田先輩とはまた違う意味で、関わりたくない人物だった。
やっぱり今日も、バイト休もうかなぁ・・・・・・。




