現地人との会話
この話から日本語以外の言語を使用した会話には『』を使用します。流石に全編英語とか読める人が限られますし、第一、作者自身が英語書けないので・・・。よろしくお願います。
現在信濃は昨日コバンザメと合流した地点で錨を降ろして停泊している。次の目的地が決まるまでこの状態でいることにした。現状行く場所も決まっていなのに適当に進むのは得策ではない。最悪現在地が分からず遭難する恐れがある。
そして同じ場所にとどまって丸3日が経過した。問題と言えば黒雪さんのお手洗い事情やお風呂騒動があったがそれ以外は平和に時が過ぎていった。あれは大変だった。日に焼けたガタイのいいおっさんが女の子みたいな悲鳴を上げながら全裸で走っているのを見た時はこの世の終わりかと思った。結局男のアレを直視できない黒雪さんの代わりに事情を知っている俺達が洗うことになった。因みに最初の案はアレの無い骸骨の俺が洗うことが提案された。だが熱心な抗議活動(一人)のお陰でこの責務は分担されることになった。
そして…
「お邪魔します」
ゆっくりと医務室のドアを開けて相手を怖がらせないようにゆっくりと近づく。敵船にいた子であるミアさんが椅子に座っている。その顔はこちらを多少怖がっている様だが、最初あった時みたいにこちらを威嚇する様子はない。先日は知らなかったが、向こうからすれば敵のスケルトンが出てくれば怖いに決まっている。むしろ攻撃とかされなかっただけ優しい人なのかもしれない。
そのまま怖がらせないようにゆっくりと医務室のベッドに腰かけてミアさんに対してお辞儀をする。ミアさんも恐る恐ると言った風にゆっくりとお辞儀を返してくれた。そのまま彼女を観察する。外見は普通の俺達と同じ人の姿をしている。金髪と茶髪の中間のような色合いの髪に綺麗な青い瞳、鼻が高い外国人のような顔つきをしている。耳が長いわけでも、肌の色が青色になっているわけでもなく普通の人に見える。
しばらく観察するようにじっと見ていたが梵天丸さんの咳払いで我にかえる。骸骨がジッとこちらを見ているのが怖かったようで彼女の目に涙を浮かべている。
『ごめんなさい、怖がらせてしまいますよね』
慌てながらそう言ってもう一度軽く頭を下げる。梵天丸さん曰く、ミアさんの言葉は酷く訛っているイギリス英語だそうで、簡単な英単語程度なら向こうにも通じるらしい。俺もそれなりに英語は習ったので聞き取るのは難しいけど言うだけなら何とかなる。問題は聞き取りだがここは梵天丸さんに翻訳してもらう。
『こ、こちらこそ、ごめんなさい。あの骨が動いてしゃべるのを見るなんて今までなかったので変に怖がってしまいました』
『いえ、自分自身何で動いているのか分からないんですよ。それに動く骸骨を見て驚かない方がおかしいですから』
ミアさんと話せるようになるまで自分の体について実験してみた。まず、匂いや音と言った感覚のような物は感じ取れるようだが、飲食は飲み物食べ物どちらも骨の間からこぼれてしまう。睡眠欲はあるみたいで、睡眠は最初の夜は興奮して寝れなかっただけみたいでその後は普通に寝ることが出来た。だがそれ以外、飲食をしていないことによる空腹も喉の渇きもこない。
ほぼ完全に人外だ。発音に関しても何でできるのかよくわからない。自分自身のことながら分からないことが多すぎて怖い。いつの日か急にただの骨に戻ってしまわないかが心配だ。
『そう言っていただけると助かります』
『では自分の自己紹介をしましょう。自分はこの船、超々大和型三番艦信濃改の艦長を務めています。春雷と言います』
『私はエイリュバリーのミアと言います。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません』
『いえいえ、自分たちは気にしていませんので』
『そう言ってもらえると助かります』
梵天丸さんによる事前の事情聴取によるとミアさんは普通の港町に住む娘だったそうだがある日その街に海賊が襲来し、ミアさんを含めた数十名を拉致しアジトに戻っている途中だったらしい。アジトに戻った後自分たちがどうなるか分からなかったが多分男女問わずに奴隷生きだったのだろうとミアさんは言っている。自分たちの未来を察して最初は抵抗をしたりしていたが抵抗していた一人が見せしめに殺されたことでミアさんは恐ろしくなって抵抗するのを止め、それでも抵抗していた人も殺されるか拷問を受けて大人しくなっていた。ある日牢屋で項垂れていると途端に頭上にまばゆい光が差してて上を見ると自分の牢屋の天井が無くなって青い空が見えたそう。そして甲板が無くなったことでマストが落ちて自分を拘束していた手錠を運よく破壊したので、その後船が沈んだ時も木材に巻き込まれずに浮上できたそうだ。
『それで船での生活はどうですか?不自由な点等言ってくれれば改善しますが』
梵天丸さんからも一応問題なしと教えてもらってはいるが、一応聞いておく。こうして面と向かって話しているからこそ話せることもあるかもしれない。
『ありがとうございます。ですがお食事を一日三食もいただけて、ベッドもこんなにフカフカの物に寝かせてもらっている現状でこれ以上そちらの負担をかけるわけにはまいりませんので』
『そうですか、何かしてほしいことや、やりたいことがありましたら遠慮なくおっしゃってください』
『でしたら、あの、この船で働かせてほしいのですが』
なるほど、お手伝いをして対価を払おうと言う事か、俺もそっちの立場だったらそうするだろう。だが、それは微妙な所だ。ドライさんは実際に医者ではないのでミアさんの検査や診断が出来ていない。見た所後遺症のような物もなさそうだし、梵天丸さんの話では受け答えもしっかりしているから大丈夫だろうか?
やるとしても簡単な仕事をさせたいが、楽な仕事ってなんだ?まず機関室は危険だ。流石に部外者にこの船の心臓部に関わらせるわけにはいかない。それに間違って聖杯にでも触れるとまず間違いなく死ぬ。戦闘系も駄目だ。転移直後の敵船からの謎ビームに似たようなものがこの船に直撃した場合、一番危険なのが戦闘系だ。とすると梵天丸さんか俺、ドライさんの所に置くのが大丈夫そうだな?
どちらにしてもまずこの質問の答えを聞いてから決めることにしよう
『その前にミアさん、あなたは元々住んでいた場所に戻りたいですか?』
『戻れるんですか?』
『ええ、幸い自分たちも知りたいことが合ってどこかに寄港しようかと言う話が出ていたので名前を教えてくれれば送ることが出来ると思います』
実際に回収した品物の中に略奪した物なのかは不明だが物凄い量の線が引かれた海図のような物があったので、皆で頭を突き合わせながらどうにかこうにか読めるように調べたりしている。
地図と海図では全く別物様に変わっていたので、何処が海図に書かれている場所なのか結構悩んだ。
梵天丸さんがいなければやばかった。
『そう…ですか…』
やはり自分の故郷に戻れることが嬉しいようで目に先ほどとは違う涙を流している。
『ですので、貴方が住んでいた町の前か出来れば国の名前を教えてくれませんか?』
『はい、私が住んでいた町の名前はテイリュバリー、国名はリギース帝国です』
予想通りと言うか、国名も地方の名前も全く知らない。ここが異世界と言うことの証拠の一つだ。
『なるほど、わかりました。地図に載っているか確認しますので少し待っていてください』
一応確認しておかないと、ぬか喜びをさせるわけにはいかない。
『あの!』
艦橋に行こうとした俺をミアさんが呼び止めた。振り返るとミアさんは立ち上がって深く頭を下げる。
『ありがとうございます。私を助けてくれただけじゃなくて故郷まで送ってくれるなんて、この御恩は忘れません』
『いえ、そのお礼は国に無事戻れた時にお願いします。まだ、国に遅れてませんから』
まだ、送れると決まったわけでは無い。海賊のビーム兵器、その他この世界の危険性について俺達は何も知らない。ミアさんをぬか喜びさせるわけでは無いが、安心できる状況でもない。
『それでも、助けてくれたのは事実です』
『そう、ですね。では、そのお礼は受け取っておきます。あと、貴方の働きたいというお願いに関してですが自分達も出来る限り前向きに検討させてもらいます』
『はい、よろしくお願います』
『では、自分はこれで失礼します。イユさん、ドライさんよろしくお願います』
「ああ、まかせて、とはいっても基本的にはイユ任せだけどね」
「ノープログレム、マスターに使えるのが私のプログラムです。なので安心してお任せ、です」
「ああ、うん、よろしく」
「イエア」
思ったよりもアクティブに動いているイユさんに困惑を隠せないドライさんに苦笑しながら部屋を出る。
……あ、ミアさんの背中を見るのを忘れた。ミアさんにある突起は両方の肩甲骨の背骨寄りに左右それぞれ一つずつある。俺はニキビとかみたいなものをイメージしていたが肩から生えているソレはクリスタルのような物が5センチほど出ていた。後から埋め込まれたのではなく、生まれた後に年齢沿って生えてくるそうだ。実際こんなものが胎児の時から生えていたら大変だろう。
このクリスタルは個体差があるらしくミアさんのクリスタルは小さい部類に入るらしく、女王はそれはそれは立派な物が生えているそうだ。問題はどのくらい文明が進んでいるかだが、あの時沈めた船をコバンザメに頼んで調べてもらったが蒸気機関が備わっていなかった。
つまり産業革命以前の世界、それこそ中世辺りの時代に近い文化なのではないかと予想している。
以上が梵天丸さんが話していたこの世界に対する予想であるが、それはそれとして背中にあるクリスタルが気になって話すついでに見ようと思っていた。だが、話をするのに集中して背中を見るのを忘れていた。俺の馬鹿!
……まぁ、今度見ればいいか、まだ時間はあるしその内見れるでしょ。そう考え気持ちを切り替える。