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夜に話して朝を迎える

艦橋に行くとスーシアが艦橋にいた。時間は深夜、子供が起きている時間ではない。もしかしたら俺と同じで寝れなくなったのかと思い声をかけようとすると先にスーシアが俺に気が付いた。


「艦長、どうかしましたか?」

「どうしてここに?」

「夜番です。艦長こそどうしてここに?」


 そう言えばプレイヤーがログアウトしている船は他の船に襲われないように夜番として停泊して襲われなくなるように設定されている。それかと思ったが俺はログアウト出来ていないので違うのだろう。ここで言う夜番は文字通り夜の見張り要因の事だと思う。見ればスーシアは梵天丸さんの席に座っている。ここでレーダーを監視して何か異常があれば知らせる為にいるんだろう。


「寝れなくてね。少しここにいさせてもらうよ」

「了解しました」


 そう言ってスーシアはレーダーの監視を続けた。俺も椅子に深くもたれかかって

特に会話をせずに時間が進む。何か会話した方がいいのか?でも仕事の邪魔は駄目だよな?頭ではそう理解するがこの沈黙が気まずい。


「あー、スーシア?」

「はい、何でしょうか?」

「君はどこまで覚えているかな?えっと俺と初めて会った時とか」


 もし、梵天丸さんの話が本当で俺達が異世界転移をしているならスーシア達NPCはどういう存在になるのか気になった。転移して新しい存在になったのか、ゲームとしての知識を持っている状態なのか気になる。


「勿論覚えていますよ。私が艦長と初めて会ったのは艦長の船がまだヨットだった頃ですよね」

「そうだね」


 スーシアは初めて俺が作ったNPCだ。NPCにはレベルが上がるNPC育てる方法と、レベルは変わらずにずっと一定のレベルで存在するNPCを生み出す方法がある。このゲームではNPCはリスポーンしない。死んだらそれまでの存在だ。だからそれなりの立場に付けるNPCは一から育ててる前者を適応して、一般乗組員には後者のレベルが一生一定である方法をとる。そして、一番最初の頃は死ぬことが多いから数を出せる後者を選ぶべきなのだが、当時余りゲームとしての知識を知らなかった俺は一緒に成長したと言う思い出が欲しかったのでレベルが変わるNPCを生み出した。

それから、一緒に行動して沢山NPCを作ってガレオン船に乗ったり沢山戦闘をして、信濃が建造される頃には唯一生き残っていた俺のNPCはスーシアと数人だけだった。


「あの頃は大変でした。まだ外洋に出れる船ではなかったですが、艦長が強引に出た結果、高レベルのリヴァイアさんに追いかけまわされたりしましたね。それと…」


 懐かしい思い出を思い出しながら話しているスーシアを見ると、どうやら記憶はあるようだ。…記憶と言ってもいいのか?ログなのではないか?しかし運営がそこまでログを保存しているとは思えない。転移しているのかしていないのか俺ははっきりとわからない。さっきの梵天丸さんの話も味覚の話は共感することが出来なかった。かといって今の状況がゲームかと言われるとそうとも思えない。冷静に考えれば少なくとも自然に受け答えが出来るAIを運営が開発できる余裕があるとは考えられない。俺は転移しているのだろうか?

その疑問が晴れぬ中スーシアとの会話は進んでいく


「そして艦長、今の艦の艦長になれると知った後、今まで行動拠点にしてた場所でものすごくうれしがっていましたよね。それを見て私も嬉しかったです」


 でも、こうして表情豊かに話しているスーシアを見ることが出来たのは嬉しいと思った。




 結局あれから眠気は訪れずに朝を迎えることになった。だが、何となく体がだるく感じるので一度話し合いが終わったらもう一度試してみることにしよう。


「ああ、もう朝になってしまいましたね。では艦長、私は第二艦橋で休んでいますので有事の際には遠慮なくお呼びください」


 そう言ってスーシアは少し眠そうな顔で一礼をした後にエレベーターに乗って行った。今度、スーシアの部屋をちゃんと作ってあげよう。自室を作るのめんどくさくてずっとCICに入れてたから何か可哀想になった。


「おはようございます」


 入れ替わるように別のエレベーターから梵天丸さんが艦橋に来た。


「あ、おはようございます。ってここに来たってことは…」

「はい、部屋に戻ってすぐに就寝したのですが、ログアウト出来ませんでした。春雷さんもそうだったんですよね?」

「いえ、自分は眠れなくてずっとここにいました」


 やはりログアウト出来なかったのか、流石に長時間気を失っているのに自動ログアウトしないのはおかしすぎる。


「そうですか…とにかく他の皆さんが来るのを待ちましょう」

「そうしましょう。それとも起こしに行きますか?」

「…いえ、それよりも本当に自分たちが異世界転生をしていのなら帰る手段はあるんですかね?」


 俺達もそれなりにインドアな文化を知っているだけに夜寝る前とかにもし異世界転移したら…

みたいな妄想を現実逃避のためにしていたこともある。だが実際に転移してやったーと思えるほど脳みそお花畑になっているわけでは無い。

親は心配しないだろうか?職場は俺がいなくて大丈夫だろうか?妹は休日でも朝ご飯を食べているか?とか色んな心配事が頭の中をよぎる。


「…やはりそこですよね。あると言える程楽観できる状況でもありませんから、厳しいかもしれないかもしれませんね」

「現状手掛かりは無いに等しい。でも、とっかかりは掴めるかもしれない」

「ミアさんですね。彼女は状況から考えるに異世界の人間でしょう、少しおかしな部分もありましたからね」

「何がおかしかったんですか?」


 そう言えば俺はあまり彼女と話していない。話そうとしたら威嚇されただけだったがそんなにおかしなところはなかった気がする。


「背中に変な突起があったんですよ」

「変な突起?」

「ええ最初はニキビとかと思ったんですが、違うみたいで緑色のクリスタルの様が体から出ていました。痛がっている様子もありませんでしたしむしろアピールするようにそこの部分だけ服に穴が開いていました。最初はイベントの伏線かと思っていましたが…」


 もし、転移しているのなら異世界人の可能性があると言うことか


「これ以上の話し合いは自分達だけではなくて皆さんが起きてから進めることにしましょう」

「そうですね。私だけで勧めていい話でもないので皆さんが揃ってからにしましょう」


 それからしばらくしてプレイヤーの全員が艦橋に集まった。暗い顔をしている人、困惑した顔をしている人、真面目な顔をしている人、そして骸骨だから顔色が分からない俺とそれぞれいろんな顔をしているが誰一人として笑っていたり嬉しそうな顔をしている人はいない。


「おはようございます」


 梵天丸さんがそう言うが誰も返事を返さない


「…さて、皆さんログアウト出来なかったようですね。メニュー画面も出ませんし、やはり転移したということでしょうか」


 俺も腕を振ってみたがやはりメニュー画面が現れない。他の人も同じでメニュー画面が現れない。


「うむ……昨夜の時点では半信半疑、いや疑いの方が大きかったがここまでくるとその話も与太話ではなさそうな気がする。がやはり完全には信じることが出来ない」


 フソウさんが頷くと他の人達も同じように頷く


「そうですね。私自身違和感のような物を感じますが、異世界転移しているといわれてそうかと納得できるわけもなく……」

「俺も部屋で魔法が使えると思って、それっぽい呪文を叫んでみたけど特に何も起きなかったぜ」

「自分に至っては味覚を感じないので実感が湧かないんですよね」

次々批判的な意見が飛んできて梵天丸さんが意気消沈している。そんなに異世界に行きたかったの?

「……とはいえ今の状況で運営さんが動かないのはちとおかしな話だ。それに、今の状況が普通ではないと言うことはわかる。だから、梵天丸殿の意見も馬鹿には出来ない。今後検証すべき課題だと俺は思っているぞ」

「そうですね。私自身色々起きすぎて混乱していますが、これが普通ではないことは理解できます」


 フソウさんとシャーロックさんが梵天丸さんをカバーするように言葉をかける。俺も流石にこの状況は不自然だと感じる。異世界に来てしまったのかは分からないが、それっぽいとは思っている。


「そうなのか?異世界と言えば超パワーに目覚めたりすごい力が出てスゲーって言ったりするんじゃないか?」

「最近だと身体能力が凡人で知恵を使うタイプも増えてきましたし一概には言えないと思いますよ」

「そうなんだ」


 一人そんなに気にしていなかった漆捌さんが転移系に対して話始める。結構緊急事態なのに呑気すぎやしないか?というか部屋で魔法を放とうとしているとか結構余裕あるな。


「いやよ…」


今までずっと俯いて黙っていた黒雪さんが呟いたと思うとがたりと席を立った。


「ずっとこの姿なんて私は嫌よ!私はなりきるためにこの姿にしただけで本当にこの姿になりたかったわけじゃないのよ!なんか元の世界に帰る方法とか無いの?!」


 黒雪さんの言う通りこの姿はあくまでなってみたい姿なだけであって、実際になれるとしたら話は別だ。俺も骸骨になると分かっていれば他の姿を選ぶ。


「私も現状転移していると言う事しか分からないので、帰る手段については…」

「そんな…なら私はずっとこのままなの!?」


 黒雪さんが膝から崩れ落ちて目から涙がこぼれていく、実際俺と同じように現実の姿と一番乖離していると思う人だ。実際には会ったことが無いけど偶に出てくる素の口調や知識の感じからJKか行っても20前半だろうと推測している。

そんな黒雪さんに梵天丸さんは近づいて肩に手を置きながら話始めます。


「いえ、そうとも限りません、転移する手段があるなら帰る手段もきっとあるはずです」

「本当に?」

「ですので私達の方針は元の世界に帰ることを目的にして行動したいと思います。そもそも本当に転移しているのかわかりませんから、そこからと言うことになりますが」

「そうは言っても手掛かりがないがないと目的地も決められないんじゃないか?それにどのタイミングで転移が発生したのか分かれば少しはこの世界についてわかるかもしれないな」

「そうですね、どうして転移をしたのかは分かりませんが、転移のタイミングは推測できます」

「ああ、それは俺も分かるな」


 俺にもわかる。スーシアが自律的に動き出す前、あの白い光が信濃を包み込んだ時に俺達が転移した原因だと思う。あの白い光の正体がわかるかどうかはわからないが、動かなければ何も分からないまま終わってしまう。それだけは絶対にダメだ。


「でも、あの光が転移する原因だったとしたら結局何も分からないわね」

「そうですね。ログを確認できれば分かるかもしれませんが、現状見れないですね。ただ、あの白い光が私達だけに現れたとは考えにくいです。もしかしたら他のプレイヤーの船も巻き込まれている可能性があると思います」

「つまり、他の船舶が同じようにあの光に飲み込まれている可能性があると?」

「ええ、その通りです。思い出してください、あの光は我々からは感じ球状に広がっているようにも見えました。ここから想像なのですがもしあの光が私達を飲み込んだ後にあのまま拡大した場合は周辺にいたかもしれない船を巻き込んでいる可能性があります。……例えばギルマスの乗っている青垣とかですね」

「なるほど、大体読めてきました。我々は行動をしながら同じく転移した船を捜索して協力すると言うことですね」


なるほど、他のプレイヤーと情報交換や協力していければ帰る方法が見つかるかもしれない。


「その通りですシャーロックさん、幸い私達にはひとまずの目的地を決める手掛かりがあります」

「それは?」

「ミアさんです。彼女が住んでいた国の名前を出してもらえば、敵船から回収した海図と地図を参照して送っていくことが出来ます。そしてそこから情報収集していけばいずれ手掛かりも見つかると思います。そしていずれ私達が転移しているのか否かを知ることが出来ると思います」


 少なくとも自分の住んでいた場所は言えるだろうから、あとは海図か地図に載っているのを祈るしかない。


「では、梵天丸さんはミアさんから情報収集をお願いします。あとできれば自分が怖くないことを話してもらえると助かります」

ずっと梵天丸さん任せなのも艦長として駄目だと思うし、出来るなら異世界の人とも会話できるようなりたい。

「わかりました。では私は医務室にお邪魔します。ドライさんいいですよね?」

「え?あ、はい、大丈夫です」

「あ、少し待ってください、自分からも少し話があります」

「わかりました」


 黒雪さんも落ち着いているみたいで俺の話を待っている。


「スーシア達についてです」

「そう言えばここにいないな。いつもなら艦長の後ろにぴったりくっついているのにどうしたんだ?」

「皆さんが寝た後に夜番をしていたので今は第二艦橋で休んでいます」

「休んでいる?」

「休んでる。そのことなんですけど、多分彼女たちは自我を持ってると思います。話したりすると実感するんだけど、結構自然に受け答えしてくるんですよ。まるで生きているかのように、自分はそれほど人工知能に詳しくないのですが、あの受け答えは自然すぎる気がします」

「確かに運営はあまりそう言う言語インターフェイスがきちんとしている自立AIは作っていないように感じます。もし、あれほど自然に受け答えできさらにこちらの考えをある程度読んで動くことの出来るAIが開発されているなら大事になります」

「そうだなぁ……俺も孫が持ってきた……あれだロボット犬とかペ〇パー君とかを見てみたが、アレに比べるとあいつらの受け答えは自然だと感じるな」

「確かにあたしの子も皆外見にそぐわぬイケメンになっていたわ」

「僕もそう思います。しかもイユが……こう、自分から動いてくれるようになって……あれだ、初めて自分の足で歩き出した自分の子供を見たようだった」


 頑張って言語化しているように説明しているドライさんの気持ちがよく分かる。俺も妹が立ち上がった時の感動は忘れていない。


 ……ん?先ほどのドライさんのセリフに一つおかしな単語が出ているのに気が付いて追及する。


「あれ?ドライさん、お子さんいませんでしたよね?この前、一人身サイコーって言っていましたし」

「………こんな気持ちだったんだろうなってさ」


 何か心の傷をえぐってしまったような反応だった。目から光が消えて死んだ魚のような目をして俺を見ている。


「……ま、まぁ、とにかく自分としてはスーシア達NPCの動きが生きているみたいで、もし梵天丸さんの言っていることが本当のなら彼女達も意思の無いNPCではなく生きているのではないかと考えているんです」


 俺の話に異議を唱える人は誰もいない。全員が少なからず部下にNPCがいて話せると分かったとたん真っ先に会いに行ったところだ。彼女たちが生きていると言っても不思議ではないと全員気が付いているようだ。


「なるほど、わかりました。それで、彼女たちをどうするとか考えているんですか?今までと同じように接するわけにも行かないでしょうし、特にドライさんは」

「ええ、具体的は彼女たちの働きに合わせて休憩時間を入れたりしてください。幸い信濃にいるNPCの数は補充用のNPCを含めてそれなりにいます。それを交代交代で夜番などをこなしてもらいます。詳しくは場所によって変わるでしょうから皆さんに一任します」


 先ほどスーシアが部屋に戻る時に眠そうな顔をしていた。あれも自然と言うか、人工的な感じが一切しなかった。本当に生きていているならゲーム通りの仕事内容だと倒れる人が出てもおかしくないようなスケジュールになっている。あの時話していたからこそ分かったことだ。


「なるほど、了解しました」

「というか、梵天丸殿の話より艦長の話の方が、異世界に転移したという話に説得力が増したぞ。今言われて確かにと俺自身納得したしな」

「そう……ですね。私より、春雷さんの方が説得力ありますね」

「まぁ、自分も寝れなくてスーシアと話した時に気が付いたことなので、そんなに言われるほどの事でもありません」


 その後、色々話し合いが行われ、今後の予定がおおよそ決まった。

とりあえずはミアさんの故郷を聞き出してサルベージした海図を見比べてそこに送り届ける。そして海賊からのサルベージ品を手土産にしてミアさんの国家と友好関係を築く、最期にそこから世界地図を入手し世界中を旅しながら、ここに転移したかもしれない仲間を探しつつ元の世界に戻る方法を探し出す。


 口に出してもそうだが中々骨が折れる計画だ。黒雪さん達には言っていないが計画通りに行ったとしても最低一年はかかると思う。でもそれを今言ってしまうと心が折れてしまう方が出てきてしまう。この辛い未来はまだ言わないでおこう。

その考えを心の中にしまい話し合いが終わった会議室を出る。少し考えた後に自室に戻るために艦橋に向かう頃にする。

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