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全員集合!発信準備!そして初主砲発射

 俺達の所属しているギルド『理想郷』のギルド拠点である那覇ドックの第三ドック、そこに鎮座している俺の船である『信濃』は全面改修のためにドックの水は全て抜かれ船はガトリーロックに両側から固定されている。ドック内の壁にはキャットウォークがついているのでそこから見ることも出来るが俺は下から見上げる場所に降りて信濃を見上げる。


 横から見る機会は結構あるが、下から見上げる構図は進水してしまうと見ることが出来ないからこうして見上げる構図で信濃を見る。


 改修前の信濃の260メートル、排水量71890トンだったが、改修により全長が増えて400メートル、排水量93809トンとかなり巨大になった。主砲は55センチ魔導式三連装カノンで甲板にある砲台3門は副砲の20センチ三連装カノンを含めて四門、後部甲板にある砲台が2門副砲が1門全部で三つ、計7つの砲台がくっついた。さらにいろんな人の趣味を頑張ってすり合わせた結果、迎撃魚雷やら艦底部付属潜水艦やらついたせいで外観が某宇宙戦艦とWW2の戦艦を合わせて2で割ったような外見になっている。


 艦名にもなっている信濃は戦時中では航空機を運用するための空母とし運用されていたが、元はあの大和型戦艦の三番艦として運用される予定だったが中途半端な所で工事が中止、その後は航空母艦への設計変更により空母として建造が再開され後に無事完了し進水した、そしてその約二か月後に沈没することになった。


 俺はこの船がちゃんと戦艦として建造された姿をゲームで再現して建造した。その時はエンジンはボイラー式の魔法要素一切なしの戦艦だった。しかし、あの忌々しい化けタコ潜水艦に大破まで持ってかれてから、改修により魔法要素を追加して宇宙戦艦感が少し増えた外見になった。

流石に後部のエンジン部分は宇宙に行く予定はないのでジェットではなくスクリューのままになっている。


 船底部には平べったい赤いヒラメみたいな物がくっついているのが艦底部付属潜水艦の『コバンザメ』だ。コバンザメは海底への探索と撃沈した船の資材を取るために作った。そのため回収のために採掘用ドリルから対潜水艦用の指向性低周波スピーカーとか魚雷迎撃専用魚雷とか色々積んである。そのかわり戦闘機能なんて全くないので普段は信濃の艦艇にくっつく形で普段はいる。

現在船に入れる道は船の底にくっついているこのコバンザメから入るか、両側面から伸びているタラップから船の中へ入る方法の二つの手段がある。荷物の搬入用タラップもあるが現在航海用の物資を搬入中なので使えない。今回は道のりが簡単なタラップから艦橋に行く。タラップに敷かれている鉄板を音を鳴らしながら上って行き船の中に入っていく。この革靴と鉄板が鳴らす高く乾いた音も好きだなー。ずっと鳴らしていたい。タラップから船内に入り回収した船内を眺めながらこれからの航海に胸を膨らませる。


 このゲームは近未来からファンタジー寄りの要素が組み込まれている。近未来で言えばレールガンやビーム兵器、ファンタジー要素は先も少し説明したが魔法の道具等だ。

この信濃のエンジンはその魔法の道具『聖杯』を二つ使った。名付けて『HGリアクターエンジン』を使っている。


 一部のミリタリーファンから反感を買っている要素ではあるがが俺達は特に気にしていない。ゲームバランスを壊すものじゃないし別に使わなくても戦艦は建造できるから気にし過ぎだと思う。聞くところによれば魔法を使っている船だけを襲うDQNギルドがあるみたいだ。そこまで毛嫌いする必要はないと思うんだよなぁ。


 話がそれた。それでこの聖杯は想像通り金色の盃のような形をしていて器の底から魔法の元、魔力水が無限に零れてくる最高レアのアイテムだ。信濃はその魔法水を艦全体に巡らせて様々な魔法効果を使用している。例えば、空間を歪曲して信濃の体積の4倍の空間を作り出していたり、信濃の倉庫の強化に使用していたりする。このHGエンジンは機関室に設置されており、もしエンジンが停止してしまう事態になれば空間が元に戻り大惨事確定である。さらに砲塔に回すことで魔法による砲撃を行ったり、砲塔そのものを強化して実弾の長時間の連続使用を可能にしている。


 一見すると万能エネルギーではあるが欠点も存在し、例を挙げると水に物凄く溶けやすかったりする。魔力水なので水と混ざりやすく喫水より下の部分に装甲強化の魔法は使用できていない。嵐の天候に遭遇した場合には喫水より上の部分の装甲に回している魔力水も使用できなくなる。

またこの艦の電力供給元も聖杯からなので壊れたりしたら本当に大変なことになる。

空間歪曲で艦内の距離が実質四倍になっていると移動も大変なので艦橋から信濃の中枢部まで伸びているエレベーターを使って一気に艦橋まで上がると、もう既に艦橋にいる人たちは集まっているみたいで最終チェックを進めていた。


 この信濃、完成したのがつい先日なので荷物や食料などのアイテムの搬入も現在進行形で進めている最中だ。一応ゲームにとって必要不可欠のアイテムボックスもあるが個人で持つ量は信濃の積載量に比べると微々たるものだから装備品とかアイテム以外にアイテムボックスに入れているプレイヤーは少ない。


 艦長席の近くと人影がある。長いまつ毛に金髪のポニテ、服装は海軍のような上着にひざ下までスカートが伸びている。そんな恰好をした女の子が俺の席のすぐ隣で立っている。NPC副艦長のスーシアだ。NPCはそれぞれの機関室や砲手など色んな場所に存在している。流石に乗組員一人一人をPLがしてくれるなんてゲームしてるのに仕事してるみたいで誰もやってくれない。


 皆それぞれ好みや片隅に封印していた性癖に合わせて思い思いのキャラメイクをしているが俺の場合NPCを置く場所が無いので作らなくてもいいのだが、一人だけNPC持っていないのが嫌で副艦長の役割を持たせたNPCを一人作った。ただ、NPCに指揮系統を任せはしないので完全にお飾りになっている。皆のNPCはそれぞれ持ち場があるけどスーシアに持ち場は無いので、これまたお飾りになっている第二艦橋(CIC)に配置して夜番要因という設定で配置している。もちろんNPCは寝ないのでそこに配置しても意味は無いので艦長席の近くにある椅子に座らせている。


 メニュー画面からスーシアを選択してすぐ近くの椅子に座らせた後に自分も艦長席に座る。

目の前に広がるコンソールと画面、周りを見渡せばそれぞれ好きな作品に近づけてカスタマイズをしている皆が見える。操舵を舵輪で行うシャーロックさん、ソナーとレーダーを全員が見えるようにそこそこ大きい球体を二つ浮かべてた後に意味もなく艦橋を歩き回っている梵天丸さん、主砲の発射スイッチと武器管制に目をキラキラしている漆捌さん。

それを見回した後にメニュー画面を開いて信濃のNPCの現在位置を調べる。

発進した後にまだ乗っていない乗組員がいたら、悲しいしせっかく発信して盛り上がった空気が一気に盛り下がってしまう。


 今このドックにいるメンバーの大半は信濃と青垣に集まっている。ドックに残っている人も信濃の乗組員ではない。


『「春雷さん、物資と生体の搬入終わったようだぜ」』


 フソウさんから艦内通信が入り物資の搬入が終わったことを教えてくれる。実際の所予定時間を大幅に過ぎてしまっている。一緒に出発するはずだった青垣にはあらかじめ連絡を入れているしギルマスも『あははは、まぁ仕方ないね!こっちは先に出発しているから急がないで確実に終わってから追いかけてきてね!』と言ってくれたのでこうして急がず確実に発進準備を進めている。


「わかりました。ありがとうございます」

『「おう、後発進準備に入る時に連絡入れてくれ、少しやっておきたいことがあるんだ」』

「?わかりました」

『「よろしくな」』

フソウさんからの通信が切れた。何をするんだろうと思いながらも、次に医務室にいるドライさんに通信をかける。

「ドライさん医務室は問題ないですか?」

『「問題ですよ。回復アイテムも揃え終わりました。いつでも発進どうぞ」』

「わかりました」


 次に艦橋でチェックをしている皆さんに聞く。


「皆さん大丈夫そうですか?」

「機関動かしてからじゃねぇと分からないが多分大丈夫だ!」

「戦闘管制動かさないと分からないけど、問題点はないよ」

「操舵システム問題ないです」

「レーダー、ソナー、共に異常なし」


 全員から異常なしとの報告を受けてから艦長の椅子に座り、フソウさんに連絡を入れる。


「フソウさん、発進準備に入りますよ」

『「分かった!ちょっと前を見な!」』

「前、ですか?わかりました」


 フソウさんに言われた通りに船体の艦首の方向を見ていると、ドックのキャットウォークからフソウさんが駆けている姿見えた。一体何してるんだろうと思ったらフソウさんがアイテムボックスから何か瓶のような物を取り出して物資を甲板に置くクレーンにロープ一緒に括り付けて信濃に戻って行った。その一連の動作を見てフソウさんが何をしたいのか分かった。発信準備のためにフソウさんの行動を見ていた人たちも何がしたいのか分かっている様だ


『待たせたな。確かそこからあのクレーンを操作できたよな?』

「できますよ。アレをぶつければいいんですね?」

『「おう、頼むぜ!」』

「わかりました。シャーロックさん」

「わかってます」


 慣れた手つきでクレーンを操作してロープの先にある瓶を船体にぶつける。進水式にシャンパンを割るのはよくあることだ。流石にぶつかった瓶の中身は分からないが進水式にやるアレをしたかったみたいだ。

割れた音も聞こえないがワクワクが増してきた。


「では発進準備に入りましょう」


 そう言うと艦橋にいる人たちがそれぞれ操作を始める。このゲームにはマニュアル操作とオートマチック操作があり、オートマチック操作はゲームシステムによってサポートされて初心者でも簡単に船の操縦を行うことができ、マニュアル操作は設置された機材を実際に操作して行う方法だ。操作方法がオートマチックに比べて格段に難しくなるがその分オートマチックに比べて細かい操作も可能になり、操舵手の腕次第だが戦艦ドリフトなどが行えるようになる。初心者はオートマ、熟練者はマニュアルとプレイヤー間では認知されている。

信濃は全員マニュアル操作で動かしている。


「搭乗用タラップ収納します」


 カタカタとキャタピラが進む時のような音を立てながらタラップが信濃に収納されていくのをモニターで見る。信濃は観測用のカメラが船体の至る所にあり、見張りを出さなくてもカメラで監視することが出来る。


「補助エンジン始動」


 低い唸り声のような音が聞こえてきて最小限の電力で回していた艦内が明るくなっていく。

信濃には二つのエンジンが組み込まれている。一つはメインエンジンである『HGリアクターエンジン』もう一つは水蒸気を使ったディーゼル補助エンジンだ。

メインエンジンの『聖杯』はこのゲームで開催されたとあるイベントでの最高レア報酬でこの船には復刻版の分の報酬と合わせて二つの聖杯がエンジンに組み込まれている。

聖杯は器から無限に等しい魔力を生み出し、それを信濃の機関としている。改装前の信濃であるなら一つで十分だったのだが改装により全長、全幅が大きくなったので追加でもう一つ組み込んだ。おかげで主砲の55センチ魔導式三連装カノンの威力、信濃の装甲に編み込まれている強化術式の効力が共に上昇した。


 ただその分威力調整が出来ないのが難点だ。少し試し撃ちで砲身だけで実験したら、近くを通ったガレオン船が跡形も無く吹き飛んでしまった。自動でポップするモブの船だったから良かったがプレイヤーが操縦している船だったらやり返しが来てもおかしくなかった。


「サブエンジン内異常なし、出力順調に上がっています」


 機関部を受け持っている黒雪さんが状況を教えてくれる。補助エンジンはゆっくり動きたいときに使用する。聖杯エンジンだと出力が高すぎてあまりゆっくり進めないからドックからの発進だけは補助エンジンに任せる。


「サブエンジン動力接続」

「ドックに注水開始」


 ドックにある穴から海水が入り、甲板を超えて最終的には艦橋を超えドック内が水で満たされる。この那覇ドックは地下にあるが、入港は海上からも行えるが発進は海中からとなる。ゲーム上の使用で海中から出撃は出来るが風船が浮き上がるような感じなってしまう。それもそれで恰好いいのだが、どうせ改修するのだからだと海中も進めるように潜水艦モードも追加した。これによって俺達がやりたいことが出来るようになった。


「ドックに注水完了、続けてガントリーロック解除」


 船体を横から支えていたロックが解除され支えを失った信濃が少し右に傾く。俺は座っているので大丈夫なのだが操舵手のシャーロックさんは少しよろけていたがすぐに姿勢を戻して真っ直ぐになった。


「ゲートオープン、微速前進」


 シャーロックさんが横にあるエンジンテレグラフ、船の速度を機関室に伝えるための装置を微速に合わせると信濃がゆっくりと動き出す。同時に前方のゲートがゆっくりと開きその先を少しずつ前進してドックを出てカモフラージュ用に配置されている岩礁地帯の洞窟を進む。


「信濃、那覇ドックから海中に侵入」


 洞窟を抜けるとフッと明るくなり、果てが見えない蒼い世界が信濃を包み込むついに外に出たのだ。ずっとこのまま潜水行動でいるのもいいが、潜水艦モードだと通常よりも速力が落ちてしまうのですぐに上昇にうつる。

ゆっくりと艦首から海面に向かってシャーロックさんが舵を取り艦橋が傾き始める。俺達は椅子に座っているので問題ないがシャーロックさんは立った状態で操縦しているので体を前に倒して踏ん張っている。


「HGメインエンジン並列にて低起動から本起動に移行開始、本起動完了まであと7分」


 信濃は空間歪曲魔法によって実際の船内の空間よりも4倍の面積があるが、その元は聖杯エンジンからであるから、万が一聖杯からの魔力供給が無くなってしまえば大惨事になるので、動かさない時でも低起動状態にして空間歪曲魔法だけは維持している。


「サブエンジン最大船速、上昇角30、海面まであと3分」


 海面浮上と共に聖杯エンジンを本起動させて一気に加速する。ついでに海面に出てから装甲の強化も始める。


「HG起動30秒前、聖杯魔力増加開始」

「メインエンジン始動開始10秒前」

…5……4……3……2……1


 海面が近づき海面越しに見える空がこちらを誘っているように見える。そのまま艦首から真っ直ぐに進んでいき、一旦海上に出た艦はその艦首を高々と空に掲げた後にゆっくりと水平になっていき再び船底から着水する。


「HGメインエンジンに接続、メインスクリュー回転開始」


 それと同時にメインエンジンを起動し、メインスクリューが回転を始める。少し金属が軋む音を立て少し艦橋を揺らしながら艦首が海を切り裂き白波を立てる。


「HG起動成功、船体に魔力水充満しています」

「空間拡張魔法並びに装甲強化魔法、魔導式カノン砲動作問題なし」

「戦闘システムオールグリーン各種魚雷発射管、異常なし」

『「コバンザメ異常なし」』『「医務室も問題ない」』

「全艦異常なし」


 本起動後の点検と報告が次々と上がり、全ての報告が俺の下に集まる。どうやら出発時には特に問題は起きなかったようだ。全ての報告を聞いた後に席から立ち上がり、ポーズを決める。


「信濃改発進、目標、イベント開催地点大大西洋!」

「了解、自動航行を設定、ショートカット用のワープゲートを使用するので到着まで2時間となります」


シャーロックさんがマップを表示しながらオートパイロットに切り替えをする。この世界は現実世界と同じ広さであるので現実世界では那覇から大西洋までを移動することとなる。

直接行くとアフリカ大陸を迂回することになるので信濃の最大船速で飛ばしても一週間以上かかることになる。それでは移動できる海域が制限されてしまうのである程度魔力を持った船が通ることの出来るショートカット用のワープゲートが存在する。

今回はそのワープゲートを使って大大西洋付近にワープする。


「わかりました。では各員――――」


 そこまで言いかけた時にアラームが鳴る。その音にビックリしながらも状況を確認する。

「え、なに?」


 レーダー担当の梵天丸さんの方を見ると大きな球体の内のレーダー上に一つ点が写っている。


「レーダーに反応あり」

「敵ですか?」

「手元のモニターに写します」


 艦橋の近くに設置されている望遠カメラの映像が艦長席にあるモニターに映る。マストが数本立っている木造の大型船、その内の一本の最上部にドクロの旗が掲げられている。


「ガレオン船型の海賊船か?」

「みたいですね。しかもこれを見てください」


 そう言って梵天丸さんがカメラをとある場所にズームするとガレオン船の陰に何か見える。


「あれは、ヨット?」


 少なくとも外洋に出れるような素材でできている船ではないな。上級者ならもっといい装備をしているし、何よりガレオン船に捕まるような速度を出したりしない。素早い、小回りが利くがヨットの利点あるこのゲームでガレオン船に捕まるくらいの速度を出していると言うことは初心者か、対してガレオン船は少なくとも中堅以上の素材を使っている。少なくとも初心者ではない。


「ええ、旗も立ててますし、多分初心者狩りかと」


 このゲームにおいて船の種類が強弱を決めるのではなく素材の良しあしが船の強弱を決める。

素材が悪ければ戦艦もガレオン船や駆逐艦に撃沈される。ヨットは流石に詰める兵装は少ないが、その代わりに追いかけようとする船を置き去りに出来る速度を出せる。

この場合はコツを掴んだ初心者が装備もままならないまま外洋に飛び出して運悪く初心者狩りに捕まってしまったんでしょう。


 それにしてもこの初心者狩り地味にしっかりしているな。大体の海賊船って旗を掲げずに襲う場合がほとんどだからわざわざ海賊旗を掲げて襲う船は珍しい。はたから見たら海賊旗を掲げるなんてこれから襲うと言っているような物だ。大体の海賊は旗を立てずに襲うのに……


「船長助けますか?」

「無論です。主砲発射準備、ついでだ、試し撃ちの的になってもらおう」


 襲うと言うことは襲われる覚悟があると言うことだ。

それに、今回の航海が初となるので無論他の船に信濃改が砲撃したことは無い。それぞれの武装は設置前に試し撃ちはしたが、それでも船の上から撃つのを見たい気持ちがある。

恨むならナハ基地周辺で初心者狩りなんて自己満足行為をやってしまた己自身を恨むんだなぁ!


「戦闘準備!目標、左舷前方のガレオン船!魔導式カノン砲発射用意!」

「了解!カノン砲一番発射用意、魔力充填開始」


 戦闘系を担当している漆捌さんが操作をして、信濃の一番前に鎮座している主砲がゆっくりと回転を始めガレオン船にその砲身を向ける。信濃の主砲は55センチ三連装砲、とにかくデカいのに180度旋回するのに15秒で済み、さらに実弾と魔力水を使用した魔導砲の切り替えが可能な俺達のロマン砲だ。一応、両方の併用も出来るが調整が面倒くさいので基本的には切り替えて使用する。


「目標の近くにヨットがあるから当てないようにお願いします」

「レーダーによる船の大きさと喫水部分をおおよそながら算出しました。漆捌さん参考にしてください」

「ありがとー、この位置なら当たらないんじゃないかな?」


 ヨットとガレオン船では喫水、船が沈む深さが違う。小さいヨットよりも大きいガレオン船の重心が上がって転覆を防ぐために深く船を沈める必要がある。なので、そこをうまく狙えばヨットに当たらないようにガレオン船の前方から底にかけて主砲で撃ち抜けばガレオン船だけを落とすことが出来る。


 幸い向こうにレーダー装備は積んでいないのか、襲う事に集中しているのか、こちらには気が付いていないようだ。漆捌さんが操作をして第一主砲を回してゆっくりと主砲をガレオン船に向ける。少し左右に振った後にロックオンが完了する。


「照準ヨシ!測敵ヨシ!エネルギー充填かんりょー、発射準備オッケーですよ」


 照準完了してガレオン船がターゲッティングされる。艦橋からでもわかるほど砲身が光り魔導砲として発射される時を持っている。俺は腕を前に突き出して指示を出す。


「撃ち方始め!」

「ッテー!」


 漆捌さんの声と共に主砲から青白いビームがガレオン船目掛けて一直線に進む。少ししてガレオン船の側面から水しぶきが上がり目に見えてこちら側に傾き始めた。


「―――――!!!!カッコいいぃぃぃぃ!!!さいこーだぜーーーーー!!!」


 漆捌さんの歓声を聞きながら、船体が斜めになっていくガレオン船をモニターから眺める。出来るなら別の視点で見たいところだがゲームだと一人称視点固定だから出来ないんだよな。


「…っと向こうは沈みそう?」


 向こうが実は無事でこっちに攻撃を仕掛けようとしているなんてことになったら、目も当てられない。


「沈みそうです。多分向こう側もそんなにいい素材を使った船ではないようです。コバンザメに資材を回収させますか?」

「いや、ここは初心者の人に分けてあげよう」


 敵の船からドロップするアイテムは全て海に投げ出される。回収するにはサルベージ用の装備や小舟を使用して回収する必要がある。ただ、あの船の素材は信濃に乗せるほどの素材でもないし、これを使ってあの初心者が強くなってくれると嬉しいな。ついでに大艦巨砲主義のすばらしさに目覚めて欲しい。

そんな初心者の健闘を心の中で祈りながらワープゲートに向けて進む。


「ではこのままワープゲートまで行きます到着時間は三時間後になります」


 マップを見ながらシャーロックさんが答える。三時間…なるほど時間はあるな。


「わかりました。それでは皆さん時間も空きましたし、自由行動にしましょう!」

「いえーーーーーーい!!」


 艦橋と医務室、そしてコバンザメにいる全PLから歓喜の声が上がる。何も戦闘だけしたいわけでは無い。自分が関与していない部分への探検、信濃の姿をカメラに収めたい自分たちが努力し作った最高傑作を思い思いに堪能したいのだ。


「ですが、周りの警戒もしなくてはいけないので半分に分割して一時間半で分けます。前半を自由時間に分けるか、後半を自由時間に分けるか決めましょう」


 遊んでいるのに夢中で敵の船をもろに受けるなんて大惨事には会いたくない。ギルマスたちとはイベント海域に合流するので探すのは向こうからでいい。




「では、決まりましたので時間までに戻ってくださいね。では一時解散!」


 艦橋にいる半分の人がエレベーターに駆け込むのを見ながら自分が座っている椅子についているスイッチを押す。すると椅子が壁まで後退してその後上に上がっていく。この機構は頑張って俺が組んだ。やっぱり戦艦の艦長の席はこうしたかった。自己満足だ。

上に上がり切ると艦長の私室に繋がっている。殺風景な私室にインベントリからアイテムを取り出して飾っていく、ふと甲板を見ると写真を撮っている人影が見えた。


 俺も参加したいところだが、もうちょっと内装を凝りたいので今回の自由時間は内装を終わらせるのに集中しよう。

そう決めて、俺は内装のレイアウトを考え始めるのだった。


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