女王様
「あの花のように。」に興味を持っていただきありがとうございます!
今回は咲良が爆発します。
6月上旬、新潟は梅雨真っ盛りだ。来る日も来る日も梅雨特有の匂いと冷たくない雨。そんな気分が落ち込むようなどんよりとした天気でも学生は学校へ行かなければならない。
この時期の学生は大体こんなことを考えながら朝の支度を済ませる。だが中にはこんな時期でも心から学校に行きたいと思っている者もいる。そう言った人間はそもそも時期とか関係ないのだろう。
八重咲良と吉野染もそのうちの一人だ。二人は二人に会うのが毎日楽しみで仕方ないのだ。二人は付き合っているがそのことを学友には話していない。周りから見ればいつも一緒に登下校をしている仲の良い友達くらいにしか思われていないだろう。二人も当然そう思っているし、まだ公言するつもりもない。
そのはずだがなんんだか今日はいつもの視線と違っていた。二人はその艶やかな容姿故に常に視線を浴びていたた。男子の異性を見る目、女子の羨むような憧れられているような目は二人とも浴び慣れている。そして今日はそれとは違った雰囲気を感じていた。
だが、そのいつもと違う視線に気がついていたのは咲良だけだった。
「染さん。もしかしてばれたのかな。」
染と付き合って胃いることがばれたのではと不安になった咲良は小声で染に聞いてみた。
「ど、どうなんだろうね。」
染は何かを隠しているかのような表情をしていた。咲良は染の言葉にも少し違和感を覚えたがあまり深く詮索はしなかった。
そのまま二人はそれぞれの教室に入った。
席についてもなんだかヒソヒソされているような気がした。
「ねぇねぇ。私なんかしたかな。なんか今日やけにヒソヒソされてる気がするんだけど。」
咲良は気になって仕方がなくなり、後ろの席の子に尋ねた。
「たぶん原因これだと思うよ。」
申告というより笑いを堪えるような表情でスマホの画面を見せてくれた。
「え、なにこれ・・・」
そこには見覚えのある顔で見覚えのあるラーメンを前に紙をまとめている写真があった。
「え?ちょっ、え?この画像え?なんで?」
驚きのあまり咲良の語彙力が消滅した。久しぶりだった大好物のラーメンを目の前に本気の写真を他人が持っているというのは咲良にとってはなかなか耐えがたいものだった。
一体この画像はどこから出回ったのだろうか・・・なんて疑問は全く出てこなかった。こんな画像を持っているのなんか咲良の知る限り一人しかいない。
そう確信を持った咲良は慌てることなくゆっくりと隣のクラスへ足を運んだ。この時の咲良の表情からクラスのみんなは近づくことができず、2-9への道が自然と開いた。
2-9の扉がガラガラっとゆっくり開き、重い雰囲気が入り込んできた。
「ひっ!!」
9組の生徒が咲良の顔を見て思わず発してしまった。すると9組の人間の視線は後ろの扉に集まった。
「染、いる?」
いつもとは違った低く恐ろしい声で扉の近くの席にいた女子生徒に質問した。
「え、えーっと、あ、吉野さんね。あ、はいあちらに、あれ?」
質問をした生徒が震えながら染のいる場所を指差しながら教えてくれたが、そこには染の姿はなかった。
「あ、あれ〜?トイレかな〜?あはは」
その女子生徒の声はより一層震えた。差ながら銀行強盗によって捕らえられた人質のよう。
「ありがとう。とりあえず戻ります。」
咲良はニコッとしてそう言うと教室に戻って行った。
「ひっ・・・」
その近くにいたまた別の生徒が幽霊でも見るかの表情で声を上げてしまった。その生徒は見てしまったのだ。振り返った後の咲良の顔を。「人殺しの目だ・・・」とその瞬間に思ったそうだ。
教室に戻ると、もうみんな席についていた。だがまだ始業まで5分ほどある。いつもはギリギリまで話している。いつもだったら必ず違和感を覚えるだろう。だが今の咲良にそんなこと考える余裕はない。だがそれもそのはず、クラスが硬直している原因は何を隠そう咲良だ。
尋常ではない冷徹さを見に纏った姿はまさしく女王様だ。彼女の姿の前には服従するしかないとクラス全員が察知し、体が勝手に動いた。普段は姿勢良く読書をしている姿がとても絵になる咲良が、足を組み、頬づえを月常に何かを睨んでいるような表情に一部の人間は大変興奮していた。中にはMに目覚めたものもいるんだとか・・・。
その日1日はずっとそんな感じで終わった。休み時間は毎回9組に足を運んでいたため、9組も似たような雰囲気だった。ただ一人、咲良のターゲットである染を除いては。染は授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると挨拶を勝手に済ませトイレに逃げるように入っていった。
そして放課後、いつものように咲良は染のことを校門で待っている。染はいつものように遅れている。いつもと違うことと言えば咲良は何故だか「前、失礼します。」「お先に失礼します。」などと一般生徒に挨拶をされたと言うことだ。生徒のこの行動の意図が咲良にはさっぱりわからなかった。
(私なんかしたのかな。悪い気はしないけど。)
生徒たちのこの行動によって咲良の機嫌はほんの少しだけ良くなった。
そんなことを考えていると目の前に怯えた美少女が通りかかる。
「染!!!!!」
その場にいた全員の背筋が凍る。そして染以外は早足になった。
「は、はい。なんでしょうか・・・?」
染は故障した古いロボったのようにビクビク震えながら振り返った。
「説明、いる?」
光のない目と怪しく上がった口角が染の心臓を貫いた。
「申し訳ございませんでした!!!!実は・・・。」
染はその場で何をしたのか全て話し、全力で謝罪した。誠意が伝わったのか桜のとんでもない怒りは少し減ったようだ。
染がした行いとは、例の画像をLINEのホーム画面に咲良の許可なしに設定したのだ。それを見た同じ学校の友達がその画像をスクショし、多くの人に拡散してしまったのだ。
「なるほどね。もちろん染もあれだけどそこまで染は悪くないのね。」
さっきまでの女王様とは思えないいつもの咲良に戻った。
「今はもう変えてるんだよね?」
咲良は「当然だよね?」と言わんばかりにこれまた圧力のかかった声でいった。
「え、あー、いやーー・・・」
染はおどおどしながらまたもや事実を伝えた。
「はぁ!?変えてないの?何で?」
怒りという言うより驚きのあまりかなり大きな声が出た。
「いやー、あまりにも気に入ってしまいまして・・すいません。今すぐ変えます。」
少し寂しそうにそう言う染を見て咲良は何だか罪悪感を感じてしまった。
「いや、もう良いよ。そのままで。」
染の姿を見て、咲良は呆れたようにそう言ってしまった。
「ホント!?オッケ!じゃー変えない!!」
一気に元気が出た染を見て咲良は無性にイラっとし、調子に乗るなと一括入れて二人はジムに向かった。
今日は二人とも腕の日だった。咲良は特にこの日を重要視していた。腕はどこの筋肉よりも多く人に見られるところだ。そのため、引き締まった垂水のない腕であれば見るものに健康的なイメージを持たせやすいからだ。
また、咲良は上腕三頭筋のトレーニンングが多いように見える。もちろん上腕二頭筋や前腕のトレーニングもバランスよく行う。ケーブル・プレスダウン、ダンベルフレンチプレス、ディップスなど三頭筋の種目は多めに取り入れている。
「じゃー次キックバックねー」
トレーナーである櫻井空桜の言葉に対して咲良ははいと言ったが少し嫌そうだ。咲良はこの種目があまり得意ではないのだ。
キックバックとはダンベルを使う種目だ。ベンチに右手右膝をつく。姿勢を伸ばし、身体の横に肘を持ってくる。そして肘を伸ばすようにしてダンベルを引き上げる。これを左右行う。この種目で注意する点は肘を固定し、三頭筋と床が並行に保つことを意識することだ。
「よしっ!」
咲良は一つ気合を入れ苦手なキックバックに向かった。そして見事撃沈した。
そしてそのままトレーニングを終えシャワーを浴びに行こうとすると、珍しく染が先にトレーニンングを終え、待っていた。
シャワーを浴び終え、染の待つフロントに向かった。
「おまたせ。」
「先に終わって待ってるのも悪くないですな。」
染は優越感に浸ったようなニヤニヤした表情で言い放った。
「はいはい、じゃー行くよ。」
咲良は全く相手にしていない。
そしていつも通りジムを後にしたあと寄り道しないで家へと向かった。
「咲良、やっぱホーム画面変えたよ。」
染は少し申し訳なさそうな声でいった。
「そっか。どうして?」
「確かにあの写真は自慢したくてホーム画にしたけどやっぱ咲良に迷惑かけたくないし、あーゆー咲良の写真は私だけが持ってるって何だが気分いいじゃん?だからもう誰にも見せない!」
申し訳ない様子から一転、今度は染らしい可愛い笑顔になった。
「わかった。ありがと。」
この件はとりあえず一件落着した。
咲良は家に着くと、一応染のLINEを確認してみた。確かに変更はされていた。ただ、また自分の写真がその画面には残っていた。前回と違うのは下青が本気ではなく笑っていること。そして、その横でもっといい笑顔をしている染がいることだ。それは、咲良がスマホ本体のホーム画面に設定している画像と同じものだった。
咲良は一人でキュンキュンしていた。日中の女王様など見る影もなくなっていた。
咲良はまだ気が付かないが、この日を境に咲良様ファンクラブなるものが形成された。ちなみに染にはすでにある。
元々人気者で学校内以外でも美人と評判はあったが、何となくファンクラブはなかった。だが、女王様咲良の表情やオーラは多くの人間の西壁に突き刺さり、ファンクラブを作らざるには終えなかったようだ。
知らない間に僕を作り上げた咲良は今後どうなってしまうのか。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
僕ができちゃった咲良はともかく霜bwたちも活躍させたいと思ってます。