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魔法炉戊サーガ ~怖がり勇者の邪竜討伐英雄伝~  作者: 夢明太郎
第一章 黒き邪竜ブラックドラゴン行方不明事件!
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第六話 精霊巨神の敬虔な使徒たる神官戦士スカード(その1)

 王都オーヴィタリアの中心部に、精霊巨神の神殿が建っていた。


 精霊巨神の神殿は精霊司祭や精霊巫女が人々の信仰を導き、悩みを聞いたり、回復タイプの魔法を施したりする信仰の拠点である。


 王都オーヴィタリアの神殿では、高司祭ニトールと息子の神官戦士スカードが精霊司祭の職を務め、娘のミルフィアが精霊巫女の職を務めていた。


 二人は魔法師の塔を出た後、精霊巨神の神殿にやってきた。この神殿の二階より上は居住スペースで、要するにミルフィアの自宅である。


 二人は神殿の門をくぐり、祭壇の間に入った。

 今朝、ミルフィアが〈精霊通信〉の魔法で、精霊巨神バンダインと交信していた場所である。


 つまり、巡り巡って戻ってきたことになる。

 お目当ての神官戦士スカードは祭壇の間にひざまずき、静かに祈りを捧げていた。


「ただいま、スカードお兄様」


 ミルフィアが声をかけると、神官戦士の少年はゆっくりと立ち上がって振り向いた。


 神官戦士スカードは、清らかな信仰心と使命感に満ちた黒髪の少年神官だった。


 純白の神官の服を着用し、聖印のペンダントを胸に提げたその姿からは、十八歳の年齢に似合わない落ち着いた威厳が漂っている。


 高い神聖魔法と戦闘スキルを持ち、さらに、オーラ機士の資格まで保有している。


 その実力は父の高司祭ニトールを既に凌いでいると言われているのだ。


「おや、ミルフィア、お帰り。それにワウディス君まで。何かわたしに用かな?」


「うん、ちょっと聞きたいことがあって。いま話しても大丈夫かしら?」


「そうだね、バンダイン魔法炉戊工房宛の手紙を書くから、ちょっと待ってくれないかな」


 そう言うと、神官戦士スカードは祭壇の横にある儀式の台に向き直った。儀式の台の上に、純白の炉戊モデルが飾ってあった。神官の服タイプの装甲コートを羽織った特徴的な機体である。


 精霊巨神の神殿の精霊司祭に代々継承される魔法炉戊シールドフェンリルだ。その純白の炉戊モデルの隣に、一枚の白い申込用紙が置いてあった。


 申込用紙のタイトルは魔法炉戊部品発注書。発注者の氏名や住所の記載欄の下に、希望する部品の型番と名称を記載する欄が設けられている。


「あれ? スカード君、いまから魔法炉戊の部品を魔法炉戊工房に発注するの?」


「ああ、新製品のハルバードとタワーシールドのミスリルフレームモデルをね。神殿の仕事が忙しくて、いままで発注書を書く暇がなかったんだ」


 神官戦士スカードは羽ペンを手にし、スラスラと発注書に文字と記号を記載した。


 書き終わると、魔法炉戊工房向けの専用の封筒に入れて封をし、儀式の台の上に置いた。


 炉戊モデルはバンダイン魔法炉戊工房で生産されている。魔法炉戊工房がどこにあるのか、誰が働いているのか、全て極秘である。


 申込用紙は王城のテレポート郵便ポストに投函する。すると、数日後に同じくテレポート郵便で、希望の部品が届く仕組みである。


「さて、ミルフィア。わたしに質問というのは、どういう内容かな?」


「昨夜の邪竜お爺様が亡くなったという知らせなんだけど、実は、ちょっとおかしなところがあって、いま調査しているところなの」


 ミルフィアは伝令の衛兵の報告があったものの、漆黒の老竜の死骸は見当たらず、行方不明の可能性があること、そして、自分たちで行方を探していること、といった経緯を簡単に説明した。


 神官戦士スカードは行方不明という事態に驚き、黒色の瞳をスッと細めた。


「何と、そんな状況になっていたとは……父上が王国騎士団から魔法鑑定の依頼を受けたと言っていたけど、そういう事情だったんだね……」


「そうなの。アーニー君は老衰による自然死だと言っているけど、わたしはどうしても信じられなくて……最近、お兄様は何かの用事があって、邪竜お爺様に会いに行っていたでしょ? 邪竜お爺様の行き先について、何か心当たりはないかしら?」


「う~む……心当たりと言われてもね……特に思い当たることはないけど……」


「でも、スカード君はどうして邪竜お爺ちゃんに会いに行っていたの?」


 勇者ワウディスが質問した。

 彼は神官戦士の少年が親しい老竜の住処に来訪している事実すら知らなかったのだ。


「それは、何というか……ブラックドラゴン様から食生活の向上について相談されてね。精霊食材を幾つか勧めるために、何度か洞窟に行ったのだよ」


 神官戦士スカードの説明は、どことなく歯切れが悪かった。何かを隠している風だ。


「ホントにそれだけかしら? 何か他にも事情がありそうな感じがするけど?」


「いや、本当にそれだけだよ」


「そう、わかったわ。スカードお兄様、その言葉にウソ偽りはないわよね」


「もちろんだよ。ここでわたしがウソを言っても仕方がないだろう」


「じゃあ、念のため、この鏡を覗き込んでもらってもいいかしら?」


「えっ? 鏡かい? もしかして、あの魔法をここで使うのかい?」


 神官戦士スカードはやや困惑した口調で言った。

 ミルフィアは兄の様子に構わず、愛用のポシェットから小さな手鏡を取り出した。そして、神官戦士スカードの顔が映るように高く掲げた。


 ミルフィアが呪文を詠唱すると、たちまち小さな手鏡がまばゆい光に包まれた。


 手鏡には、神官戦士の少年の優しげな面立ちがクッキリと映っていた。ところが、見る間にその顔は黒く染まり、醜く歪みはじめた。


 〈真実の鏡〉の魔法が効果を発揮し、鏡に映った人間の言葉がウソであると見抜いたのだ。

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