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魔法炉戊サーガ ~怖がり勇者の邪竜討伐英雄伝~  作者: 夢明太郎
第六章 エピローグ 邪竜討伐記念コンサートの開催
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第二十九話 英雄となった少年勇者に待ち受ける新たなる災難

 勇者ワウディスは〈精霊の夢〉劇場のコンサート会場から、真っ直ぐ精霊巨神の神殿に戻ってきた。


 ミルフィアとの約束の刻限より少し早い時間である。二階のキッチンルームへ行くと、既にミルフィアは食卓にお皿を並べて待っていた。


「お帰りなさい、ワウディス君。間に合ってよかった。ホントはコンサート後のパーティに夢中で、時間どおり戻ってこないと思っていたの」


 ミルフィアは普段どおりの笑顔で少年勇者を迎えた。精霊巨神の巫女として、また、年頃の女の子として、とても純真で可愛らしい笑顔である。


 ただ、その笑顔には、何となくどこか薄暗い影がまとわりついているような……。


「えっ? そんなわけないよ。ミルフィアちゃんとの約束だもん。絶対守るよ」


 勇者ワウディスは全く邪心のない笑顔でそう答えた。この少年が大事なミルフィアとの約束を忘れるなんて、絶対に有り得ないことなのである。


 夕御飯はカレーライスだった。肉類や野菜の他、精霊食材もたっぷり入れて具沢山になっている。


 栄養とボリューム満点のミルフィアスペシャルだ。カレーライスは少年勇者の大好物だった。


 ただし、お子様なので、ハチミツ入りの甘口オンリーとなるけれど……。


「ちょうどいま出来上がったばかりなの。温かいうちに食べてね」


 笑顔のミルフィアだけれど、青い瞳の奥にうす暗い光を宿していた。


 ところが、大好きな女の子の手料理に浮かれている勇者ワウディスは一切気付かない。


「うん、じゃあ、いただきま~す」


 ホカホカの温かいカレーライスにスプーンを差し込み、パクッとひと口食べた。その途端、勇者ワウディスは舌に走る凄まじい激痛に飛び上がった。


 このカレーライスは超激辛だったのである。少年勇者は黒い瞳に大粒の涙を浮かべて懇願した。


「ミ、ミルフィアちゃん、これすごく辛いよ~、お水ちょうだい」


「ご、ごめんなさい! カレールーの配分を間違えたみたい。水よりミルクの方が辛さには効果があるから、このミルクを飲んでみて」


 ミルフィアはテーブルの上に置いてあったミルクのコップを差し出した。勇者ワウディスは涙目のまま、コップのミルクを一気に飲み干した。


 すると、辛さは楽になったものの、今度は激しい眩暈と脱力感に襲われてしまった。


 少年勇者は訳がわからないまま、ウッと呻き声を出して、テーブルの上に突っ伏した。


 実は、このミルクは回復タイプのポーションの失敗作なのである。飲むと体力を一気に消耗してしまうのだ。少年勇者の体は青白い光に包まれて縮み、アッという間に小さな光の精霊の姿になった。


 ミルフィアはテーブルの下に隠していた鳥カゴをサッと取り出した。そして、光のミニ精霊の衣服の背中を掴み、鳥カゴの中に放り込むと、ガシッ!とカゴの扉を閉めた。


「この鳥カゴには聖なる加護の力を付与してあって、一度入ったら出られないの」


 ミルフィアは作戦が成功したため、満面の笑みを浮かべていた。サイン会の少年勇者の言動に激怒した巫女姫は、エレメンタルシスターズのトークショーの冒頭だけ参加して、すぐさま精霊巨神の神殿に戻ると、お仕置きの準備を行ったのである。


 短時間で作戦を練った上、超激辛のカレーライス、体力消耗効果の失敗ポーション、そして、聖なる加護付きの鳥カゴを超早業で用意したのだった。


「えっ? ミルフィアちゃん、どういうこと? どうしてボクが閉じ込められるの?」


 勇者ワウディスは意味がわからず、鳥カゴの中で目を白黒させていた。


 お人好しな少年勇者にも、この処置がミルフィアの意図した結果であるのは明白である。


 ただ、いままでずっと笑顔で優しかったのに、どうしてこうなったのか理由が全然わからないのだ。


「ワウディス君、わたしにとんでもないウソをついたでしょう?」


「えっ? 何のこと? えっと、その、確かにナムコル支配人に手紙を送っていないってウソをついたけど、あの時は突然だったから仕方なく……」


「そんなことじゃないわ。それにコンサート会場で女の子たちの歓声を受けて、嬉しそうにデレデレしていたでしょう。本当に信じられないわ」


「えっ? ボクはデレデレなんてしていないよ。恥ずかしくてちょっとうつむいていたかもしれないけど……で、でも、どうしてコンサート会場の様子を知っているの?」


「そんなことはどうでもいいの。問題はワウディス君の心が他の女の子のことでいっぱいだってことよ。ダークドラゴンを倒した英雄だからモテて当然と思っているんでしょ?」


「ボ、ボクはそんな風に思ってないよ! いつだってミルフィアちゃんが一番だから他の女の子は関係ないよ! ウソだと思うなら〈真実の鏡〉の魔法で確認してよ!」


 勇者ワウディスは突然の非難に驚き、大声で自分の潔白を主張した。彼にとっては全く身に覚えのない指摘だからである。


「また、そんな見え透いたウソをついて……もう魔法で確認はしないわ。だって、ワウディス君は〈真実の鏡〉の魔法の力を打ち破るくらい完璧な気持ちでウソをつけるんだもの」


「そ、そんな……ボクはウソをつくのがとても苦手なのに……どうして……?」


「でも、ひとつだけ、ワウディス君の言葉が真実と証明する手段があるわ」


「ホ、ホント? 一体どうすればいいの?」


「エレメンタルシスターズのファンをやめるの。そして、グッズ類を全部捨てるのよ」


「えっ? そ、それは……だって、アクアマリンちゃんのことは、しばらくの間許してくれるって、そういう約束だったよね……?」


「気が変わったの」


「で、でも、あの約束はバンダイン様の前で誓約したものだから、精霊巨神の巫女として破ることはできないって言っていたよね……?」


「気が変わったの」


「そ、そんな~……そんなことを突然言われたって。しばらくの間許してくれるって話だったのに」


 ミルフィアの突然の厳しい要求に、光のミニ精霊は泣きそうな顔になった。アイドル趣味をやめることができないから、先日のブラックドラゴンの葬儀の後に喧嘩になってしまったのである。


 せっかく邪竜討伐の後は幸せいっぱいだったのに……。勇者ワウディスは突然の環境変化に悲嘆し、ガックリと小さな肩を落とした。


「やっぱり、無理よね。でも、それでいいの」


 少年勇者の反応は予想通りだった。

 推しメンのアクアマリンへの熱意を捨てさせることは非常に困難なことであり、その事実はこれまでの経緯で明白なのだ。


 ところが、ミルフィアはむしろ晴れやかな笑顔を浮かべていた。そして、決然とした口調で少年勇者の運命を宣言した。


「ワウディス君はアイドルグッズを全部捨てる決心がつくまで、ずっとこの鳥カゴの中で暮らすの。ずっとわたしと一緒にいられるから、ワウディス君も嬉しいでしょ?」


 実は、ミルフィアは邪竜討伐の功績で少年勇者に対する評価が変わり、すっかり女の子にモテモテになったことが、アクアマリンへの情熱と同じぐらい気に入らないのだ。勇者ワウディスの精神は、未成熟なお子様同然である。

 

 勇者のファンを名乗る可愛い女の子に優しくされたら、何の疑問も抱かずに甘えてしまうだろう。つまり、ミルフィアが怒って放り出したら、別の女の子とくっついてしまう可能性が高いのだ。


 そのため、ミルフィアは少年勇者を光のミニ精霊の姿に変化させて、聖なる加護を付与した鳥カゴの中で管理することにしたのだった。


 完全な思い込みから端を発した行為だけれど、付け入る隙はなさそうである。


「あ、でも、ずっとカゴの中に閉じ込めるわけじゃないのよ。わたしが祈りの儀式とか巫女の仕事をしている間は閉じ込めたままにするけど、ご飯を食べる時は外に出して食べさせてあげるし、わたしが部屋にいる時も外に出して遊ばせてあげるから。ただし〈光の鎖〉の魔法を使って、絶対に逃げられないようにするけどね」


「え~っと……ミルフィアちゃんとずっしょに一緒にいられるのは嬉しいけど……」


 大好きな巫女姫と一緒にいられるのは嬉しいものの、生活の大半がずっと鳥カゴの中というのは、単なる監禁である。


 つまり、アイドルグッズの観賞や魔法炉戊の炉戊モデルの整備を含めたあらゆる趣味を奪われることを意味しているのだ。


 勇者ワウディスはミルフィアの勘違いを解こうと必死に説明を続けたけれど、巫女姫は少年勇者の言葉に聞く耳を一切持たず、議論は全く噛み合わなかった。ミルフィアは光のミニ精霊を鳥カゴの中で飼う作戦に大満足な様子である。


 このままでは半永久的に鳥カゴの中で暮らすことになってしまう。そのため、少年勇者は大好きな巫女姫が「鳥カゴ作戦」を撤回してくれるよう必死に懇願し続けたのだった。

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