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魔法炉戊サーガ ~怖がり勇者の邪竜討伐英雄伝~  作者: 夢明太郎
第六章 エピローグ 邪竜討伐記念コンサートの開催
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第二十八話 邪竜討伐記念コンサートと運命のサイン会(その1)

 〈精霊の夢〉劇場のコンサート会場は多数のファンたちの熱気に包まれていた。


 真の黒き邪竜ダークドラゴンの復活の儀式に伴う巨大な魔法陣やその後のオーラ機士たちとの決戦によって〈精霊の夢〉劇場の建物やコンサート会場は跡形もなく破壊されてしまった。


 しかし、急ピッチで復旧工事を行い、何とか元の姿に戻したのである。


 歌声を拡大する魔法のマイクや華やかなイルミネーションを投影する魔法プロジェクターなどの魔法装置の類は、仮設したものが大半である。

 しかし、機能は十分だった。


 開演時刻間近となり、司会を務める吟遊詩人スペルシャが舞台の上に登場した。


「さあ、もうすぐ邪竜討伐記念コンサートがはじまります。今回は真の黒き邪竜ダークドラゴンが討伐されて、この世界が救われたことを記念する特別なコンサートです。では、はじめる前にダークドラゴンを見事討伐したオーラ機士の皆さんに登場していただきましょう!」


 吟遊詩人スペルシャの紹介を受けて、コンサート会場の端から、少年勇者を先頭にして、オーラ機士たちが歩いて登場した。


 勇者ワウディス、聖騎士アーニー、魔法師フォクセル、神官戦士スカード、武道家ジェスパー、侍戦士ジダーインの計六人である。


 世界を救った英雄たちに対して、観客席の人々から割れるような拍手喝采が送られている。


 今回は邪竜討伐記念という国家的な記念行事を兼ねることもあって、エレメンタルシスターズの主要ファン層の男の子だけでなく、多数の女の子も観客席に詰めかけていた。


「ワウディス君、カッコいい~!」


「勇者様、可愛い~!」


「ワウディス様、ダークドラゴンを討伐してくれて本当にありがとう!」


 勇者ワウディスたちは盛大な拍手や歓声に手を振って応えながら、コンサート会場の最前列に用意された座席に並んで座った。


 観客席の少女たちからたくさんの黄色い歓声が上がっている。その中では、特に勇者ワウディスを賞賛する声が大きかった。


 真の黒き邪竜ダークドラゴンと究極の聖剣炉戊ライトブリンガーの一騎打ちは広く知れ渡っており、いまやエレメンタルランド全土で伝説的な武勇伝となっているのだ。


 ただし、当の少年勇者の方は女の子たちから黄色い声援を受けて赤面していた。生まれて初めての経験なので、戸惑っているのだ。


 最前列の席のため、その様子は舞台裏で出場の準備をしているエレメンタルシスターズの精霊の乙女たちにもはっきり見えていた。


「あの子が噂の勇者ワウディス君ね。ダークドラゴンを倒したすごいオーラ機士っていうから、どんなゴツい男の子なのかと思ったけど、意外にスマートでカッコいいじゃない」


 土の精霊の乙女メグノルンは、普段の風刺口調で評価しつつ、熱めの視線を少年勇者に向けた。


 勇者ワウディスの幼くも端正な面立ちを初めて目にして、好感を抱いたようだ。彼女が男の子を異性として評価するのは、珍しいことである。


「ふーん、確かに究極の聖剣炉戊を操るっていう凄腕のオーラ機士って感じには見えないわね。エリート青年機士って感じでもないけど、ああいう可愛い感じの子も悪くないわね」


 火の精霊の乙女サラマンディーは、真紅の瞳に興味の光を湛えて、少年勇者を評価するコメントを口にした。彼女も勇者ワウディスの姿に好感を抱いたようだ。勝ち気でアイドル道一直線の彼女が男の子を気に入るのは珍しいことである。


「何を言っているんですか! ダークドラゴンを倒して世界を救った英雄ですよ! 史上最強のオーラ機士なんですよ! きっと弱虫とか臆病とかは周りを油断させる演技だったんですよ! 能ある鷹は爪を隠すってやつですね!」


 風の精霊の乙女シルフィーユは精霊の羽衣をひらひらと揺らしながら、弾んだ声でまくし立てた。


 天然かつフワフワ言動の演技を完全に忘れてしまっている。どうやら運命の死闘を制した英雄を間近に見て、だいぶ興奮しているようだ。


「ワウディス君って可愛い。でも、アクアマリンちゃんが推しメンだって噂だけど……」


 樹の精霊の乙女ドリアーネは頬を桜色に染めて、ちょっと熱い視線を少年勇者の姿に注いでいる。


 言葉の数は少ないものの、それなりの想いが込められている。儚げな面差しには、この控え目な少女には珍しく少し嫉妬めいた感情が翳っていた。


「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、アクアマリンはどうなの?」


「えっ? ど、どうって……?」


 メグノルンに突然話を振られてしまい、水の精霊の乙女アクアマリンは、水色の瞳に動揺の色を浮かべて言葉を濁した。


 彼女は少年勇者の姿を見慣れているため、開演後の歌とダンスのことばかり頭に浮かべて、ひたすら緊張していたのである。


「だから、ワウディス君がカッコいいかどうかってことよ。アクアマリンはどう思うの?」


「わ、わたしは別に……ただ、ダークドラゴンを倒したのは、すごいなと……」


「ふ~ん、つまんないの。まあ、いいけどね」


 アクアマリンが興味なさげと知って、メグノルンは不満げに唇を尖らせた。


 開演までまだ時間があるため、その後も四人の精霊の乙女たちは勇者ワウディスについて楽しげに語り合っていた。


 何しろ世界を救った英雄である。話は少年勇者の女の子の好みにまで及び、どうやったら自分を推しメンに選んでくれるかと弾んだ声で話している。


 アクアマリンは他の精霊の乙女たちと少し距離を取り、遠目に最前列の様子を見ながら、ムッと眉間を険しくしていた。


 まさしく不機嫌の証である。そこへ舞台裏の奥から、きらびやかなホワイトゴールドの精霊の羽衣をまとったティターニアが姿を現した。


 リーダーを務める光の精霊の乙女は観客席最前列の少年勇者の様子に目をやりながら、楽しげな口調でアクアマリンに声をかける。


「フフッ、ワウディス君は大人気ね。世界を救った英雄なのだから当然かしら。あんなに赤くなって照れちゃって。やっぱり、女の子からたくさん声援を受けたら嬉しいわよね」


「えっ! そうなんですか? 確かに嬉しそう……もう、あんなにデレデレしちゃって」


 改めて最前列にいる勇者ワウディスの様子を確認し、アクアマリンはさらに眉間を険しくした。


 少年勇者は女の子たちの声援を受けて、はにかんだ顔をしている。観客席に沸く明るい声援にどう対応してよいかわからず、戸惑っているのだ。


 しかし、アクアマリンの目には、デレデレして喜んでいる風に見えているようだ。


 ティターニアの虹色の瞳が悪戯っぽく笑っていることにも気付かない。


 こうして、アクアマリンは開演までの間ずっと唇を固く引き結び、不機嫌のオーラを発散していたのだった。その後、開演時刻となり、邪竜討伐記念コンサートがはじまった。


「皆さん、今日はダークドラゴンの討伐を祝う邪竜討伐記念コンサートです。世界の危機を救ってくださったオーラ機士の皆さんに感謝するとともに、エレメンタルランドがより楽しく賑やかになることを祈って、元気になる歌を精いっぱい披露しますので、よろしくお願いします」


 ティターニアが魔法のマイクを握って、はじまりの挨拶を述べた。精霊の乙女の麗しい言葉が会場全体に響き、観客席から大きな歓声が上がった。


 その歓声を聞きながら、舞台の上で精霊の乙女たちは一曲目の立ち位置についていた。


(今日はワウディス君が最前列にいるし、ちょっと緊張しちゃうなあ……)


 舞台に立つとアイドル精神が出てしまい、先ほどまでの不機嫌さは緩和されていた。


 その逆に最前列にいる少年勇者が間近で目に入るため、緊張感が増している。


 アクアマリンがこれまでにない緊張感に包まれる中、ティターニアのオープニング挨拶が終わり、シルフィーユが一歩前に進み出た。


「よ~し! では、早速はじめますよ~! みんな一緒に盛り上がってね!」


 シルフィーユのかけ声とともに観客席から一斉にオ~ッ!という大歓声が沸いた。


 一曲目は軽快でポップなダンスの〈疾風迅雷のマーチ〉という曲である。


 精霊の乙女たちの天上の美声による歌唱と、美しい舞踊のようなダンス、そして、彼女たちを彩る魔法ライトの輝きが舞台を満たしている。


 エレメンタルシスターズはフルパワーで熱唱し、躍動感たっぷりのダンスで観客席のファンの人々を魅了した。劇場の観客席は満員で、熱烈ファンたちは男女問わず総立ちで盛り上がっていた。


 最前列にいる勇者ワウディスは間近に接したエレメンタルシスターズの歌とダンスに夢中になり、元気いっぱいに応援していた。

 本当に楽しそうである。


 こうして、邪竜討伐記念コンサートは最初から最後まで激しい熱気に包まれたまま予定どおりの時刻に終了したのだった。

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