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魔法炉戊サーガ ~怖がり勇者の邪竜討伐英雄伝~  作者: 夢明太郎
第六章 エピローグ 邪竜討伐記念コンサートの開催
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第二十六話 邪竜討伐記念祭りと優しい巫女姫の想い(その2)

 少しの間、ミルフィアは睡魔の虜となってグッスリと眠っていた。胸に抱いた光のミニ精霊に負けず劣らず、可愛らしい無邪気な寝顔である。


 ふと温かい風を頬に感じたような気がして、ミルフィアは目を覚ました。


 すると、寝惚け眼に白く輝く不可思議な光が映った。その白い光は温かいオーラパワーに満ちており、何やら翼のような形をしていた。


「えっ? いまの光は一体何かしら?」


 ミルフィアは一瞬目にした不可思議な白い光に驚き、何度も目を瞬かせた。


 慌てて部屋の中を見回したけれど、白い光の痕跡はどこにも見当たらなかった。


 よく見ると、窓のホワイトピンクのカーテンが風もないのにゆらゆらと揺れている。


「さっきの光は一体……あら、邪竜お爺様の遺言書を出したまま眠ったかしら……?」


 ミルフィアは机の上に載っている遺言書を見て、怪訝そうに小さく首を傾げた。


 敬愛するブラックドラゴンから託された大事な遺言書なので、いつも机の引き出しの中に鍵を掛けて大切にしまっているのだ。


 今日は引き出しから外に出した記憶はなく、ミルフィアは怪訝に思いながら、羊皮紙を束ねた形の遺言書をジッと凝視した。


 ブラックドラゴンの遺言書は、特定のページが開いた形で置かれていた。


 そのページのタイトルは「ワウディスの性格についてのお願い」だった。


 勇者ワウディスの弱虫泣き虫かつ臆病な性格について、書かれているようだ。


「あら、こんなページなんてあったかしら……?」


 ミルフィアは初めて目にする箇所だった。

 どうやら、優しき老竜の死後のドタバタで、遺言書を読み飛ばしてしまったようだ。


 生前のブラックドラゴンはミルフィアや周囲の人間に対して、少年勇者の性格を理解してほしいとか、尊重してほしいといった類の発言をしていた。


 当時のミルフィアは、漆黒の老竜の言葉の意味が全く理解できなかった。


「世界を救う使命を負った勇者なのだから、名前のとおり勇敢じゃなきゃダメでしょう。どうして、邪竜お爺様はあんな風なことをおっしゃっていたのかしら……?」


 敬愛する老竜の言葉を思い出し、疑念の言葉を口にするミルフィア。


 それはさておき、如何なる偶然の産物か、予期しなかった遺言書との対面である。その羊皮紙の文字からは、優しい気配が漂っていた。


 まるでブラックドラゴンから読むことを促されているような気がして、ミルフィアは自然と未読部分に目を通しはじめた。


 その部分には、何と少年勇者の母エクレアの教育方針が記されていた。


 かつて、先代の勇者ノーヴィスは、賢王ヴィストールⅦ世の邪竜討伐の命令を受け、邪竜火山パラヴィルマウンテンの邪竜の洞窟を訪問した。


 そして、使命感と勇気に溢れる青年勇者は、洞窟の奥の住処で、黒き邪竜の姿を見つけるや問答無用で戦いを挑んだのである。

 しかし、それは勘違いだった。


 黒き邪竜は誠実で優しい心を持っており、麓の村マールの精霊巨神の巫女を務めていたエクレアが割って入り、戦闘を止めたのである。


 その後、青年勇者と村娘の巫女姫の間では、様々な物語が紡がれ、ブラックドラゴンの仲裁を経て、二人は結婚することになった。


 そして、産まれたのが、光の精霊の力を濃く宿したワウディスである。


 両親が甘やかしたせいか、ワウディスは怖がりで臆病な性格の持ち主になった。


 しかし、エクレアはその性格の方が望ましいと判断し、自然なままに育てたのだった。


 ブラックドラゴンの懸念に対しても、笑顔で自分の教育方針を説明したという。


「だって、勇者はとても強い力を持っているでしょう。勇敢さと自信は大事ですけれど、強い力はたやすく誰かを傷つけてしまうものです。だから、世界で一番強い力を持った人は、勇敢であるより、きっと臆病な方がいいと思うのです」


「なるほど……まあ、エクレア殿がそう考えるなら、それでよかろう」


 こうして、ブラックドラゴンは納得した。

 そして、二人が任務と病気で逝去し、勇者ワウディスの後見役となった後も、その教育方針を継承したのだった。ブラックドラゴン自身も周囲から、しばしば甘過ぎると非難されたという。


 しかし、エクレアの教育方針を尊重し、維持し続けていた。そして、ミルフィアにも理解してほしいと、遺言書に記されていたのだった。


「そういうことだったの……エクレア様がそんな風に考えていたなんて……」


 ミルフィアは初めて知る真実に、呆然となってつぶやいた。辺境の村にある小さな神殿の巫女姫だったけれど、エクレアは精霊巨神バンダインが一目置く尊敬すべき大先輩だった。


 そのエクレアの真摯な言葉が胸の奥まで沁み渡る。いつの間にかミルフィアの心は、和やかで温かい想いに包まれていた。


「そうよね、ワウディス君はダークドラゴン討伐では、命懸けでしっかり頑張ったんだし……勇敢で自信満々な姿なんて全然想像できないし……自分から怖い強敵に突っ込むようなことがあったら逆に心配でたまらないし……泣き虫で弱虫なのは、ちょっとカッコ悪いけど、きっとワウディス君は、いまのままでいいんだわ」


 少年勇者の困った性格について、許容する方向に心が傾いていった。


 精霊巨神の前で交わした約束のひとつである、熱烈アイドルファンの継続についても、認めてあげることにする。これまでの悩みが嘘のようである。


「ワウディス君らしいと言えばらしいし、あんまり長期間はダメだけど、しばらくの間だけ許してあげようかな。そういう約束だったのだし……」


 ミルフィアはそうつぶやくと、小さな光の精霊を抱き上げて寝顔を覗き込んだ。


 巫女姫の優しさに包まれているからか、可愛い寝顔には幸せなオーラが溢れている。


 その光のミニ精霊の寝顔に見惚れているうちに、心の中に重い雪のように積もっていた葛藤が少しずつ溶けていった。


 このような経緯を経て、ようやくミルフィアは期間限定の条件付きで、少年勇者のアイドル趣味を容認することを決めたのだった。

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