第二十五話 真の黒き邪竜ダークドラゴンの復活と世界滅亡の危機(その4)
「クッ! そんなオモチャのゴーレム機兵で、このオレが滅ぼされてたまるものか!」
無敵で不死身の体が、オーラパワーの光刃に続々と切り刻まれている。聖なる浄化パワーを持つ光刃で造られた傷は、暗黒魔力による回復は困難だ。
初めて味わう痛みと恐怖がダークドラゴンの心を締めつけた。それは全く想定しなかった事態である。その痛みと恐怖を跳ね返すように、ダークドラゴンは猛々しく咆哮した。
そして、下方に顎を向け、地面に向かって暴風のブレスを吐き散らした。
凄まじい爆風が大地を荒れ狂い、猛烈な破壊力を伴って、究極の聖剣炉戊に襲いかかる。
ヴィエスカリバーは咄嗟にハイパーオーラシールドを掲げて防御したものの、凄まじい暴風を受けて姿勢を崩した。
そこへダークドラゴンが必殺の尻尾の一撃を繰り出した。究極の聖剣炉戊は機体正面に直撃を受け、後方に大きく吹き飛ばされた。
オーラブースター噴射で転倒を回避し、地面に両足を付けて戦闘姿勢を取り戻す。
その瞬間を狙って、ダークドラゴンが大地を抉り取るようにして疾走し、地獄の入口のような顎を縦に開いて襲いかかってきた。
勇者ワウディスは一瞬の判断で横にステップして回避した。しかし、左腕のハイパーオーラシールドを丸ごと強靭な牙で粉砕されてしまった。
ヴィエスカリバーは体勢を立て直すため、超高速で後方にジャンプして距離を取った。
そこへ、ダークドラゴンが超高熱のダークブレスで追い討ちをかけてきた。
オーラシールドを失った純白の機体は、為す術もなく超高熱の爆炎に包まれた。聖剣炉戊の純白の装甲が、ジリジリと焼かれていく。
「ワウディス君……!」
ミルフィアは絶望の息をつき、怖くなって目を瞑った。もはや少年勇者の戦いを見守るしかない他の者たちも、業火に包まれる究極の聖剣炉戊の姿を見て、敗北を覚悟した。
「ウオォォォォォッ!」
勇者ワウディスは修羅の如き雄叫びを上げて、闇色の爆炎を吹き飛ばした。オリハルコンフレームの真紅の輝きが、ひときわ激しくなっている。
オーラパワーの防御結界を前面に張って、何とか灼熱のダークブレスの破壊力を凌いでいるのだ。ここに来て、魔法炉戊軍団がダークドラゴンと必死に戦い続けた成果が出てきていた。
魔法炉戊軍団との戦闘で多少なりともダメージを受け続けたことで、真の黒き邪竜の暗黒魔力は消耗し、ダークブレスの威力が軽減していたのだ。
ヴィエスカリバーは腰部装甲の左側の格納箇所から、もうひとつのオーラ武具の柄を掴み取ると、瞬時にオーラパワーを込めて、真紅の光刃を発生させた。
そして、二つの超高熱ビーム刃を突き出し、最高速の超スピードで突進した。
それはダークドラゴンの真正面ソノモノだった。
オーラブーストモードの発動時間は限界に近付いている。最後の一撃となるため、防御を無視した突撃戦法を選択したのだ。
ズドドドドドッ!
闇色の巨体に接触する寸前、機体全部のオーラブースターを極限まで稼動させて、純白の機体ごとオーラパワーの二つの刃を高速回転させた。
まるで竜巻が縦になって真っ直ぐ突っ込むような形だ。ブレイブハリケーンと呼ばれる、勇者一族の究極の必殺技である。
ダークドラゴンは聖剣炉戊の突撃戦法の攻撃を正面から迎え撃った。鋭い爪と強靭な牙がヴィエスカリバーの純白の装甲を切り裂き、胸のオーラクリスタルを粉砕した。
しかし、ブレイブハリケーンで突進する勢いは止められず、高速回転する超強化型オーラソード二刀流の刃が邪竜の胸の辺りを突き進み、その奥にある心臓を貫いた。
そして、心臓の核となっているダーククリスタルを粉々に破壊した。
「グオォォォォ……まさか、このオレがオモチャのゴーレム機兵ごときに敗北するとは……」
胸の辺りを丸ごと刳り貫かれた邪竜は、断末魔の悲鳴を上げてドスンッと地面に倒れた。超重量の巨体のため、倒れた衝撃で地面が震動した。
一方、ヴィエスカリバーの機体も、胸部装甲や球殻タイプのオーラクリスタルを跡形もなく破壊されてしまい、全壊状態になっていた。
見る間にオリハルコンフレームが真紅の光を失い、元のソードグランダムMkⅡの姿に戻った。
そして、魔法炉戊召喚魔法が解除されて、純白の機体全体が縮み、小さな炉戊モデルが姿を現した。ボロボロのその姿はまさしく残骸だった。
その傍に小さな光の精霊人が倒れていた。
勇者ワウディスが力を使い果たして、本来の姿に戻ったのだ。ダークドラゴンの爪の一撃を体に受け、光のミニ精霊は重傷を負っていた。
仰向けに倒れた小さな精霊の体から、赤い血がドクドクと流れ出している。
「ワウディス君! しっかりして!」
ミルフィアは離脱した霊体を一度天空神殿トゥルポンダルの体に戻し、すぐさま〈テレポート〉の魔法を使って降りてきた。
大地に足を着けると同時に、大慌てで少年勇者の元に駆けつける。小さな光の精霊を抱き上げると、早速〈治癒〉の魔法を施しはじめた。
光のミニ精霊の胸には、青白いオーラパワーの結界が展開していた。ミルフィアの渡した聖印の光である。〈聖なる祝福〉の防御結界のおかげで、ダークドラゴンの鉤爪の直撃を受けても、即死を免れたのだ。ただし、重傷なのは変わらない。
鉤爪から浸蝕した猛毒の暗黒魔力の影響で、本当に危険な状態だった。
ミルフィアは心配で涙を流しながら〈治癒〉と〈解毒〉の魔法を施し続けていた。
一方、真の黒き邪竜ダークドラゴンは滅びの途上にあった。邪竜の心臓の核となっているダーククリスタルは、暗黒魔力の源である。これが破壊されれば、不死身の邪竜の命もおしまいなのだ。
「……グウゥ……せっかく復活できたというのに、何とも悔しいことよ……」
闇色のドラゴンの巨体は、シュウシュウと不気味な音を立てながら溶解していき、やがて、白い骨組みだけの存在となった。
さらに、その骨組みの残骸も風に吹かれて、あっさりと崩壊した。暗黒魔力の黒い沁みと白い骨の粉末だけが死骸の跡に残った。そして、そこからうっすらとした影が離脱した。
暗黒魔力の凝縮された霊体の影だ。
ダークドラゴンの霊魂である。肉体を失っても、真の黒き邪竜の魂は不滅なのだ。
「フッフッフ、今回はしくじったが、次こそは必ずこの世界を滅ぼしてやるぞ。次は千年とかけず数百年、いや百年で甦ってやる。如何なる敵も容赦なく叩き潰してやるわ」
ダークドラゴンの霊魂は一度霧散する。
しかし、長い時間をかけてエレメンタルランドに漂う微量の暗黒魔力を吸収し続け、いつかまた復活することになるのである。
「そうはいきませんわ。幾ら百年後の未来といっても、貴方のようなとんでもないバケモノに復活されては、とっても迷惑です」
黒い霊体の影の前に、ティラミスが姿を現した。ミルフィア同様、一度離脱した霊魂を肉体に戻し〈テレポート〉の魔法で大地に降りてきたのだ。
巫女姫は両腕に魔法文字を刻印した白い壷を抱えていた。それは〈封印の壷〉だった。
実は、精霊巨神バンダインは千年前のダークドラゴンとの戦いで肉体を失った後、魔法炉戊の開発と並行して、真の黒き邪竜を永久に封じ込める策を考案していたのだ。
ティラミスが〈封印の壷〉のフタを開けて口を向けると、ダークドラゴンの霊魂は不可視の力に引き寄せられた。この壷は暗黒魔力を吸収する特別な力を宿しているのだ。
「な、何をする! その壷は〈封印の壷〉ではないか! 暗黒魔力を封じる壷の中に閉じ込められたら、オレは復活できなくなるではないか!」
ダークドラゴンの霊魂は悲鳴を上げて、抵抗しようともがいた。しかし、暗黒魔力を失って霧散する寸前の状態だったため、逃れようもなかった。
黒い霊魂は、散り散りになって意識を失いながら、白い壺の中に吸い込まれていった。
ティラミスは邪悪な魂を完全に封印したことを確認し、白い壷のフタを閉めた。
「さあ、これで復活の危険はなくなりましたわ。万事めでたしですね」
こうして、真の黒き邪竜ダークドラゴンの脅威は、永遠になくなったのだった。




