第二十五話 真の黒き邪竜ダークドラゴンの復活と世界滅亡の危機(その1)
天空神殿トゥルポンダルでは、創造神とティラミスが安堵の息をついていた。
「ふむ、真の黒き邪竜ダークドラゴンが復活する前に、何とか暗黒魔法師とモンスター軍団を倒すことができたようじゃな」
「本当に良かったですわ。ワウディス君も怖がらずによく頑張りましたし。では、かねてからの計画どおり暗黒魔力の封印に行って参りますわ」
そう言って、ティラミスが白い壺を持って、下界に赴くために〈テレポート〉の呪文を詠唱しようとした時、ミルフィアが悲鳴に近い声を上げた。
「ティラミスお姉様、暗黒魔法師の様子が変です! すごい力が膨れ上がっています!」
突然、倒れ伏した闇色のローブ姿から暗黒魔力の強烈な光が噴き上がった。見る間にオーラソードで焼かれた傷跡がふさがっていく。
「クックックック……なかなか面白い余興だったな。精霊巨神の力を得た究極の竜神炉戊とやらの力を試すつもりだったが、まさかこの程度とはな」
暗黒魔法師ダクディスは高らかに哄笑し、悠然と立ち上がった。闇色のローブ姿から噴出する暗黒魔力の霧が、はるか高みにまで膨れ上がる。
やがて、ダークレッドの霧の中で、暗黒魔法師の姿が揺らぎはじめた。闇色の影が人型から大きくうねって、恐ろしい魔物の形に変化していく。
暗黒魔力の霧が晴れた後、真紅と闇色の混ざった巨大なドラゴンが姿を現した。ブラックドラゴンよりもひと回り大きな超ビッグサイズである。
禍々しい闇色のウロコの隙間から、ダークレッドの暗黒魔力の光が溢れ出ている。
「さて、ちょうどブラックドラゴンの霊魂との同化も済んだことだし、肩慣らしにはちょうどよかろう。真の黒き邪竜ダークドラゴン様の復活だ。このオレが復活した瞬間に立ち会えたことを喜ぶがいい。たったいま世界の破滅の時がはじまったのだ」
真の黒き邪竜ダークドラゴンの言葉は、凄まじい威圧感を伴って響き渡った。
「な、何と! まさか、この短時間でダークドラゴンが復活してしまうとは……」
「ど、どうしましょう? 完全復活した真の黒き邪竜に対抗するのは困難ですわ……」
「ううむ……一体どうしたものか……」
精霊巨神バンダインの表情も苦渋と困惑に満ちていた。真の黒き邪竜ダークドラゴンが完全に復活する前に、暗黒魔法師を倒すという作戦は失敗に終わってしまった。復活の儀式は、創造神の予想より早く進んでいたのだ。
真の黒き邪竜を倒すためには、聖剣炉戊の持つ究極の力を完璧に使いこなす必要がある。
しかし、勇者ワウディスは臆病でまだまだ修行中のため、それは困難だった。
つまり、打つ手がないという状態なのだ。
「そ、そんな……じゃあ、ワウディス君はどうなるんですか!」
ミルフィアは悲鳴のような叫び声を上げて、偉大な創造神を見上げた。
しかし、精霊巨神バンダインは愕然として言葉を失っており、ただ空中に投影されている〈遠見〉の魔法スクリーンを見つめるばかりだった。
「ア、アワワ……こんな怖いバケモノと戦うなんて絶対無理だよう……」
少年勇者は真の黒き邪竜の圧倒的な迫力を前にして、完全に戦意を喪失していた。
純白の聖剣炉戊は両膝をガックリとついて、その場で脱力している。
「フッフッフ、どうやら、このオレの真の姿を見て、戦う気力すら失ってしまったようだな。では、早速、真の黒き邪竜にふさわしいホンモノのダークブレスを見せてやろう。」
真の黒き邪竜ダークドラゴンは、鋭く尖った顔を天に向けた。そして、有り余る力を解放するかのように、猛々しい咆哮を上げた。
地獄の奥底から響くような雄叫びは、空気をビリリと波立たせて大陸中に響き渡った。
それから、真の黒き邪竜はおもむろに巨大な口をグワッと、縦に裂くように開いた。
そして、喉の奥からダークレッドに輝く灼熱のブレスを吐き散らした。
ドゴォォォォォンッ! 暗黒魔力を凝縮した超高熱のダークブレスである。その瞬間、まばゆいオーラパワーの光が幕のように展開した。
ソードグランダムMkⅡが少年勇者の防御本能により、強大なオーラバリヤーを形成したのだ。
超高熱のダークブレスは光の防御幕に当たった後、その反発を受けて進路がそれ、純白の聖剣炉戊から少し離れた箇所に命中した。
ダークレッドの破壊の焔は、幅数十メートルに渡って暴風のように荒れ狂い、範囲内にある物質を根こそぎ焼き尽くした。
「おやおや、久し振りだったから、ちょっと外してしまったようだな。そんな弱々しいオーラパワーのバリヤーごときで場所がそれるとは、久し振りだから感覚が鈍っているようだな」
真の黒き邪竜ダークドラゴンは余裕の笑みを浮かべた。ダークブレスの圧倒的な破壊力を発揮し、自らの力に酔いしれているのだ。
「ウウ……すごい暗黒魔力のパワーだよ……勝てるわけがないよう……」
ソードグランダムMkⅡはライトグリーンの神秘的な光に包まれたまま静止し、操縦席の勇者ワウディスは子供のように泣きじゃくっていた。
ダークレッドに輝く邪竜の姿がひたすら怖くて、戦うどころではないのだ。
「真の黒き邪竜ダークドラゴンとは、何という恐ろしい姿だ。しかし、王国騎士団は決してひるまない。皆の者、全力で戦い抜くのだ!」
聖騎士アーニーは、皆を鼓舞するように凛たる叫び声を上げた。そして、グランドクロスを駆り、正面からダークドラゴンに突撃した。
疾走の速度を乗せたホーリーソードの斬撃を繰り出し、邪竜の首筋を薙ぎ払った。
ミスリルの剣先が命中し、甲高い音と火花を散らして闇色の鱗が砕け散る。
さらに、渾身のパワーを込めた神聖剣の斬撃で、露出した皮膚と肉を叩き斬った。斬り口から、ダークレッドの血潮が派手に舞い散った。
王国騎士団のキャリバーン隊も隊長機の後を追って、次々と突撃していった。
邪竜の四肢や腹部に向かって聖騎士の剣を撃ち込む。量産機の魔法炉戊のパワーであっても、立て続けの集中攻撃で闇色の鱗が飛散し、確実にダメージを与えていった。
「ダークドラゴンは確かに怖いけど、オーラ機士として黙って滅びるのを待つわけにはいかないよ。ボクが作った最高クラスのスーパーハイブリッド弾をありったけぶつけてやる!」
ルーンスマッシャーは軽やかに跳躍すると、ダークドラゴンの側面に回り込んだ。そして、両手のマジカルハンドガンから、魔法弾を連射した。
複数の魔法特性を混合したフォクセル特製のスーパーハイブリッド魔法弾である。金色の弾丸が爆炎と風刃混合タイプの魔法弾で、銀色の弾丸が氷結と岩石混合タイプの魔法弾である。
超混合魔法弾は雨あられと巨体の腹部に向かって降り注ぎ、次々と炸裂した。
爆炎の風刃が竜の鱗を吹き飛ばし、灰色の皮膚に氷結化した岩の槍が突き刺さる。魔法弾の連射で、巨竜の腹部には大小無数の穴が穿たれていた。
「真の黒き邪竜を名乗ったのは、ウソではなかったのですね……ですが、ダークドラゴンの力がどれだけ恐ろしくとも、怯むことはできません。聖なる浄化の力で立ち向かうのみです!」
神官戦士スカードの操るシールドフェンリルはホーリーハルバードを構えて正面から突撃した。
重量級魔法炉戊のパワーを存分に発揮して矛槍を振り回し、邪竜の前足を切り払った。
聖印を刻印したミスリル製の刃が青白い浄化の焔を噴き出し、傷口を焼き尽くした。
魔法炉戊軍団の連携攻撃は、ダークドラゴンに或る程度のダメージを付与した。しかし、すぐに傷跡を暗黒魔力の霧が包み込み、元の姿に戻った。
真の黒き邪竜の持つ不死身の回復能力である。
ダークドラゴンにとって、この程度の攻撃はかゆい程度の感覚でしかない。
ダメージ受けると回復するために暗黒魔力を消費するものの、甚大な暗黒魔力を有する真の黒き邪竜にとって、影響は軽微なのだ。
「ハッハッハッ! 精霊巨神がこのオレの復活に備えて、魔法ゴーレムを改良したオーラ武装の巨人機兵を開発したと聞いて少しは警戒していたが、どうやら全く相手にならないようだな。まあ、いい。では、ひとおもいにトドメを刺してやろう!」
ダークドラゴンは獰猛な咆哮を上げると、重い地鳴りのような足音とともに突進し、三機の魔法炉戊に襲いかかった。巨体に似合わぬ猛烈なスピードで、突風を伴いながら迫ってくる。
邪竜の顎が迫り、グランドクロスはナイトシールドで防御の姿勢を取った。しかし、騎士の盾は邪竜の牙に噛み砕かれて四散した。
ダークドラゴンは悠々と鉤爪を繰り出し、聖騎士炉戊の胸部装甲を易々と粉砕した。
壮絶なパワーの余波で、純白の機体は軽々と宙を舞って、地面に激突する。
ルーンスマッシャーは回避のため、軽快なステップで跳躍した。
しかし、邪竜の鉤爪が猛然と魔法炉戊に迫り、先端が掠って機体ごと弾き飛ばした。
真紅の魔法師炉戊は地面に叩きつけられた上、勢いのまま横転した。凄まじい衝撃によって魔法師ローブ式の装甲コートがひしゃげて半壊している。
シールドフェンリルはタワーシールドを地面に立て、完全防御の形になった。
その直後、風の唸る音とともに邪竜の尻尾の強烈な一撃が盾のど真ん中に命中した。
壮絶なパワーと超重量の遠心力のついた必殺のドラゴンテイルである。
神官の服式装甲コートの機体は、タワーシールドごと物凄い勢いで吹き飛ばされた。
そして、猛スピードで大地を削りながら横転し、傍にあった劇場の建物に突っ込んだ。
「ふむ、やはり、ちょっと力を出しただけで、エリートクラスの魔法炉戊でもこの始末か……呆気ないというか、全く面白味がないな……」
ダークドラゴンはそう呟くと、王国騎士団の魔法炉戊の隊列に突進した。
無造作に鉤爪を繰り出しては、騎士団標準機キャリバーンの装甲をたやすく両断し、壮絶パワーの尻尾を一度振るうごとに二機、三機の機体を丸ごと粉砕した。
アッという間の出来事だった。
真の黒き邪竜の連続攻撃によって、魔法炉戊軍団は一気に壊滅したのだった。
崩壊した魔法炉戊との融合が解除され、オーラ機士たちはその場に倒れて失神している。炉戊モデルの残骸が至るところに散らばっていた。
ソードグランダムMkⅡは無事なものの、少年勇者はオロオロと泣くばかりだ。
とても立ち向かっていける状態ではない。




