第二十四話 聖剣炉戊と邪竜炉戊の一騎打ち勝負!(その1)
戦闘開始から約三〇分が経過した頃。
闇色の暗黒魔法陣から少し離れたところに、虹色の空間の渦が発生した。
そこから、小さな人影が飛び出してきた。
勇者ワウディスが天空神殿トゥルポンダルから空間転移してきたのである。
目の前では、魔法粘土製のゴーレム機兵軍団と、巨漢邪鬼族の軍団や巨大な魔獣モンスターたちが入り乱れて戦っている。
魔法の光がまばゆく煌めき、武器のぶつかり合う轟音で空間が震えていた。
「ワウディス君、いま暗黒魔法師が呼び出した闇のモンスター軍団と、王国騎士団の魔法炉戊軍団が戦っているわ。モンスター軍団は王国騎士団の皆さんに任せて、ワウディス君は暗黒魔法師と対決して、暗黒魔法の儀式を止めてください」
天空神殿トゥルポンダルから〈精霊通信〉の魔法で、ティラミスの声が降ってきた。
「わかりました! じゃあ、ボクも聖剣炉戊に乗って戦います! 邪竜お爺ちゃんをニセモノ呼ばわりするなんて、絶対に許さないからね!」
勇者ワウディスは暗黒魔法陣の中央に立つ黒い人影を睨みつけて、そう宣言した。
いつもと異なり、少年勇者の幼い表情には、自信とやる気が漲っていた。
勇者ワウディスは腰の専用ポーチから、炉戊モデルを取り出した。空中に放り投げると同時に〈魔法炉戊召喚〉の呪文を詠唱する。
たちまち青白い魔法陣が宙に浮かび、魔法粘土製の模型を包み込む。そして、みるみる巨大化して全高約七メートルのゴーレム機兵となった。
究極のオリハルコンフレームを配備した聖剣炉戊ソードグランダムMkⅡ(マークツー)である。
精霊巨神の改造により、元の小型機から中型機レベルまで機体全体が拡張し、その分性能が全般的に大幅に上昇している。
騎士鎧タイプの装甲全体がパールホワイトの光を帯びている上、機体の各部に填め込まれた翠色のメタルフレームが荘厳な輝きを放っている。
兜飾りはW字型に伸びる金色の四本角で、胸ボディに填め込まれたオーラクリスタルには、勇者一族の証である青い稲妻の紋章が刻印されている。
オーラ武装は右手の強化型オーラマグナムと左腕の肘辺りに配備した強化型オーラシールドだ。
とても強烈なオーラパワーが、純白の聖剣炉戊全体から漂っている。
勇者ワウディスは操縦席に颯爽と体を滑り込ませ、魔法粘土製のシートに着席した。装着ベルトを填めて、オーラクリスタルとの精神融合を行う。
精神融合が完了すると、純白の聖剣炉戊の全身から眩い光が噴き出した。
胸部に填め込まれたオーラクリスタルがひときわ明るく輝き、騎士の兜に填め込まれた双眼式の水晶眼に青白いオーラパワーの輝きが宿った。
ソードグランダムMkⅡは、機体各処のオーラブースターを全開にして疾走した。
乱戦状態の戦場を潜り抜けて、暗黒魔力の噴き上がる魔法陣の前にたどり着いた。
勇者ワウディスは暗黒魔法師ダクディスを正面から、真っ直ぐ見据えて対峙した。
「邪悪な暗黒魔法師め、何を企んでいるのか知らないけど、このエレメンタルランドを暗黒魔力で汚そうとするなら、ボクが絶対許さないぞ!」
「ほう、さっき逃げ出した小僧ではないか。確か弱虫泣き虫の勇者君だったかな? 怖くなって空間転移の魔法で逃げ出したはずなのに、一体何をしに戻ってきたのだ?」
暗黒魔法師ダクディスは純白の聖剣炉戊を見ると、余裕の表情で嘲笑うように言った。
「お前を倒すためにやってきたんだ。バンダイン様から、究極のオーラパワーを持つ光の聖剣を授かったから、もうお前なんかに負けないぞ!」
「ふむ、何とも威勢のいいことよ。オレの力を全くわかっていないようだな……」
暗黒魔法師は目を眇めて、眼前の聖剣炉戊から溢れ出すオーラパワーを確認した。
次に、魔法陣から湧き出す暗黒魔力の奔流を見回してから、淡々と言った。
「まあ、よかろう。まだ復活の儀式は終わっていないが、オモチャの魔法ゴーレムごとき、いまのオレの力でも十分だ。ちょっと試したいモノもあったのでな。ちょうどいい」
暗黒魔力の融合を加速させる魔法陣が効果を発揮しており、真の黒き邪竜としての力は覚醒しつつある。復活の儀式はまだ途上なものの、邪魔が入ることは想定済である。
ダクディスは闇色のローブの懐から、魔法粘土製の模型を取り出した。真っ黒な色合いのソレは、炉戊モデルそっくりだ。
「魔法炉戊とやらのゴーレム機兵召喚の技術を使って、オレも魔獣ゴーレム兵器を作ってみたのさ。邪竜炉戊とでも名付けるかな」
ダクディスは不敵な笑みを浮かべると、炉戊モデルを宙に向かって放り投げた。
〈邪竜炉戊召喚〉の呪文を詠唱すると、たちまちダークレッドに輝く魔法陣が浮かび上がり、怪しい闇の霧が漆黒の魔法粘土製の模型を包み込む。
アッという間に巨大化し、全高約十メートルの超重量級のゴーレム機兵が登場した。
邪竜のウロコに似たダークシルバーの装甲を持つ、禍々しい邪竜鎧タイプの機体だった。
真っ白い面貌には真紅の隈取りが施され、双眸と口は鋭く吊り上がっていた。ダークシルバーの毛髪が焔のように逆立っている。
まるで恐ろしい般若の面のようだ。
暗黒魔法師は操縦席に乗り込み、精神融合を済ませて、邪竜炉戊と一体化した。
禍々しい毒竜のマークの刻印された胸部のダーククリスタルがダークレッドに輝き、真紅の双眸に光が灯った。闇色の機体が凄まじいダークパワーに包まれて、蜃気楼のように揺らいでいる。
「猛毒の魔獣バジリスクの肉体や骨格を素材に使ったダークバジリスクだ。では、簡単にひと捻りしてやるとしよう。どこからでもかかってくるがいい」
暗黒魔法師ダクディスは凄まじい威圧感を伴う重低音の声で傲然と言い放った。
「凄いダークパワーを感じるけど、でも、ボクだって究極の聖剣炉戊に乗っているんだからね。全然怖くないぞ! 全力でやっつけてやる!」
勇者ワウディスは自分を鼓舞するように凛たる叫び声を出した。こうして、エレメンタルランドの運命を決する戦いがはじまったのだった。
「愚かな小僧め、我が暗黒魔力の破壊の炎で魔法炉戊ごと焼き尽くしてやるわ!」
ダークバジリスクは両肩に載せたキャノン砲から、巨大な爆炎の弾を発射した。闇と真紅の入り混じった暗黒魔力の超高熱エネルギー弾である。
ソードグランダムMkⅡはすかさずオーラマグナムを連射し、二つのダークボールを撃ち抜いた。超高熱の爆発が連鎖的に空中で巻き起こる。
ダークボールの威力は凄まじく、爆風の余波が純白の聖剣炉戊に襲いかかった。ソードグランダムMkⅡは左腕のオーラシールドを展開して防御した。
「オーラマグナムの三連射だよ! これでその真っ黒な機体を浄化してやる!」
ソードグランダムMkⅡは右手のオーラマグナムを突き出し、オーラパワーの弾丸を発射した。立て続けに三発、三連射である。
超高熱のエネルギー弾はダークバジリスクの胸部に命中し、翠色のオーラパワーの光が噴き上がった。しかし、ダークバジリスクの装甲は分厚く、三つの弾痕が生じたのみだった。
その後、邪竜炉戊と聖剣炉戊はダークキャノンとオーラマグナムで撃ち合った。巻き起こる爆風の余波で、戦場が視認不可の状態になっている。
ソードグランダムMkⅡは灼熱のエネルギー弾をかわして、オーラビームを的確に撃ち込むものの、邪竜炉戊ダークバジリスクの装甲は硬く、有効なダメージには至らなかった。
「まさか、魔法炉戊に類似した秘密兵器を出してくるとは想定外であったが、ワウディス君は十分善戦しておる。これならば、何とかなるだろう」
「そうですね。ワウディス君の頑張りと聖剣炉戊の活躍に期待しましょう」
精霊巨神バンダインとティラミスは、天上から〈遠見〉の魔法を使って状況を見守っていた。
その傍には、ミルフィアも一緒にいるけれど、唇を引き結び、怖々といった様子で魔法スクリーンの映像を見詰めている。少年勇者のことが心配で堪らず、ひと言も発せないのだ。




