第二十三話 少年勇者の決意と光の聖剣の授与(その2)
「ワウディス君、よくぞ決意してくれた。では、これから君に光の聖剣を授けよう」
「わかりました、バンダイン様。でも、本当に精霊巨神の試練を受けなくて大丈夫なのですか? 試練を突破できる実力がないと、光の聖剣を扱えないと聞いていたんですけど……」
勇者ワウディスは偉大な創造神を見上げ、例の如く不安そうな面持ちで質問した。
「確かにワウディス君は試練を突破していないが、究極のオーラ武装と言われるオーラソードの起動に成功している。光の聖剣を受け取る資格は十分にある」
「わ、わかりました。では、頑張ります」
少年勇者が納得すると、精霊巨神バンダインは厳かな雰囲気をまとって頷いた。
「うむ。光の聖剣授与の儀式は荘厳なオーケストラやイルミネーションに包まれるものだが、今回はそれらの準備はしておらん。申し訳ないが、淡々と光の聖剣の力を組み込むこととしよう。ワウディス君、ちょっと君の炉戊モデルを渡しなさい」
「えっ? 炉戊モデルって、ソードフェニックスの炉戊モデルのことですか?」
「そうだ。光の聖剣とは、剣の形をした武具ではなく、特別な力を秘めた魔法炉戊なのだよ。つまり、光の聖剣の授与とは炉戊モデルを改造することを意味するのだ」
「そ、そうなんですね。ボクもてっきり光の聖剣は特別な魔法の剣だと思っていました」
伝説の光の聖剣の正体に驚いたものの、勇者ワウディスは腰帯の専用ポーチから、愛機の炉戊モデルを取り出し、精霊巨神バンダインに渡した。
「よし、少しの間、預からせてもらうぞ。光の聖剣の力を付与するためには、それなりの時間がかかるからの。できるだけ早く仕上げるつもりだが、作業が終わるまでここで待っていなさい」
そう言うと、精霊巨神は祭壇の間の奥にある扉を開けて、その中に姿を消した。
不可思議な紋様の描かれた魔法の扉である。
それは開かずの扉と言われており、その中に何があるのか、筆頭巫女のティラミスも知らされていない秘密の空間だった。
「えっと……ティラミスお姉様、わたしたちはただ待っていればいいのですか?」
「う~ん、どうかしら……正直言うと、わたしも光の聖剣授与の儀式の詳細は知らないのよね。待っていなさいと言われても、いつまで待てばいいのかしら? ちょっとわからないわね」
しばらくの間、勇者ワウディスと二人の巫女姫たちは祭壇の間で待っていた。
しかし、すぐに退屈になってしまい、魔法の扉の中の空間が気になってしまった。
よく見ると扉の隙間から光が漏れている。どうやら精霊巨神バンダインが扉を閉め忘れたようだ。その光を三人は同時に発見し、顔を見合わせた。
「ティラミスお姉様、秘密の扉ですけど、ちょっと覗くだけならいいですよね?」
「そうね。まあ、覗くだけならいいかも……」
「あの、でも、バレたらバンダイン様に怒られてしまうんじゃ……」
不安に苛まれていたミルフィアも好奇心を刺激されて、奥の扉へ近寄った。普段は冷静なティラミスも精霊巨神の試練に関わる光の聖剣の儀式には、日頃から興味を抱いていたため、扉に近寄った。
勇者ワウディスは迷ったものの、やはり好奇心が勝り、一緒についていった。
普段は決して開かないはずの神秘の扉である。
創造神が慌てていて、たまたま閉め切らなかった隙間から、三人は中を覗き込んだ。
そこはまるで鍛冶場のようだった。作業台や窯のような装置がたくさん設置されており魔法職人らしき小人たちが、忙しく立ち働いている。
背丈50センチ程度の可愛らしい小人の妖精族、ヤマトブラウニー族だ。
東方辺境のヤマト地方の山奥に居住していると言われる魔法鍛冶を得意とする妖精族である。
その鍛冶場の真ん中辺りの作業台で、優しげな賢者の風貌をした老人が何やら作業をしていた。見た目は、まるきり創造神その人である。
つまり、精霊巨神バンダインが体を縮めているのだ。巨人の姿の状態では、手が大き過ぎて細かい作業ができないからだろう。
何と偉大な創造神は、ソードグランダムの炉戊モデルを分解し、自ら光り輝く翠色のフレーム部品を組み込む作業をしていたのである。
新しい炉戊モデルはパールホワイトの美しい装甲で、各処に翠色の結晶が填め込まれていた。
その周囲では、たくさんのヤマトブラウニー族の魔法職人たちが、テキパキと別の炉戊モデルを分解したり、部品を修理したりしている。
また、魔法粘土を加工して何かを作る甲高い槌の音も響いている。どうやらここは、炉戊モデルを製作する工房のようだ。
「も、もしかして、この場所がバンダイン魔法炉戊工房なんじゃ……」
勇者ワウディスは驚きの光景を目にして、茫然とつぶやいた。魔法炉戊の元となる炉戊モデルを製作しているバンダイン魔法炉戊工房は、存在自体が謎となっている。どこにあるか、誰が働いているかなど一切不明なのだ。
製品や修理部品の発注と受領は、王城のテレポート郵便システムを利用しているのだ。
魔法炉戊工房の正体が、天空神殿トゥルポンダルの工房であり、運営者が精霊巨神バンダインというなら、数々の謎が納得できるというものである。
「あ、あの、これは見なかったことにした方がいいですよね? バンダイン様に覗き見したことがバレたら、やっぱり怒られちゃうでしょうし……」
ミルフィアは驚いたものの、中を覗いて好奇心よりも不安感が勝り、そう言った。
「そうね。あんまりずっと覗き込むものじゃないわよね……扉は閉めておきましょう」
こうして、三人は祭壇の間の石造りの台まで戻り、静かに待つことにした。三〇分ほど経過した頃、ようやく精霊巨神バンダインが戻ってきた。
手の平の上に純白の炉戊モデルを載せている。
純白の装甲の各処に翠色のメタルフレームが填め込まれており、それらは荘厳で神々しい翠色のオーラパワーに輝いていた。
「ワウディス君、これが光の聖剣の力を付与した君の愛機、名付けてソードグランダムMkⅡだ。ミスリルフレームの代わりに多数のオリハルコンフレームを組み込んである」
「えっ? オリハルコンフレーム、ですか?」
「うむ、オリハルコンフレームとは、その名のとおり究極のオーラパワーを秘めた最高の魔法金属オリハルコン製のメタルフレームなのだ。つまり、このオリハルコンフレームを内蔵した魔法炉戊こそ、光の聖剣そのものなのだよ」
勇者ワウディスは創造神の差し出した手の平から、愛機の炉戊モデルを受け取った。機体の各処から溢れ出る翠色のオーラパワーに、少年勇者は興奮の声を上げた。
「これはすごいや! ものすごく強力なオーラパワーを感じるよ! これならきっとあの怖い暗黒魔法師だって、きっと倒すことができるよ!」
少年勇者の心に渦巻いていた不安や恐怖は、新しい機体への期待で吹き飛んでいた。
「どうやら、やる気になってくれたようだな。既に王国騎士団には、暗黒魔法師の打倒のために出動するよう指示している。いままさに暗黒魔法師が召喚した闇のモンスター軍団と戦っているはずだ。皆で力を合わせて、暗黒魔法師を倒してくれ」
「はい! わかりました!」
勇者ワウディスは全身に活力を漲らせながら、元気いっぱいの声で返事した。
「本当によかったわ。ではミルフィア、ワウディス君を勇気付けるために〈聖なる祝福〉の魔法を施してあげなさい。それが精霊巨神の巫女の一番大事な役目なのですから」
「えっ……あ、は、はい、わかりました……」
ティラミスの指示に、ミルフィアは一瞬躊躇したものの、すぐに納得して頷いた。勇者ワウディス自身がダークドラゴンと戦う気持ちになっている以上、もはや止めることはできない。ミルフィアは前に進み出て、少年勇者の傍に立った。
胸に提げた聖印を握り締めて、静かに〈聖なる祝福〉の呪文を詠唱する。たちまち青白いオーラパワーの光が聖印から溢れ出した。
ミルフィアは聖印の鎖を首から外して、勇者ワウディスの首にかけた。少年勇者の胸に提げられた聖印はより一層光り輝き、オーラパワーの光が繭のように全身を包み込んだ。
やがて、その光は少年勇者の体の内側に溶け込むようにして消失した。
同時に勇者ワウディスは熱いオーラパワーと勇気の力が湧き出すのを感じた。
「これが〈聖なる祝福〉なんだね……力がどんどん溢れてくるよ。すごいね」
勇者ワウディスはかつてない力強さを感じること、そして何より、大好きな幼なじみの巫女姫から祝福を授かったことに、ひたすら感動していた。
ところが、ミルフィアの方は、蒼白で思いつめた表情になっている。紺碧の美しい瞳には、不安と心配の色が濃く宿っていた。
「ワウディス君、絶対に無茶しちゃダメよ。本当に気を付けてね」
ミルフィアは小さな声でそう言うと、ソッと勇者ワウディスに近付いた。
そして、少年勇者の頬に優しくキスした。
それは〈聖なる祝福〉の儀式とは全く別物で、少年勇者を力付けたいという優しい思いから行ったものだった。勇者ワウディスは突然のことに驚くとともに、大喜びした。
「あ、ありがとう! ミルフィアちゃん! ボク、本当に頑張るよ!」
勇者ワウディスは顔を真っ赤にしつつ、すっかり舞い上がってそう叫んだ。
ミルフィアも羞恥に頬を赤くしつつ、再度「無茶はしないでね」と付け足した。
「ふむ、では、準備はすべて整ったようじゃの。ワウディス君、すべては君の頑張りにかかっておる。ダークドラゴンのニセモノを倒して、この世界に平和を取り戻すのだ」
精霊巨神バンダインはそう言うと〈トランスポーター〉の魔法を使って、勇者ワウディスを下界の〈精霊の夢〉劇場周辺へ送り出したのだった。




