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魔法炉戊サーガ ~怖がり勇者の邪竜討伐英雄伝~  作者: 夢明太郎
第三章 恐ろしき石化の呪いの手紙事件!
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第十九話 暗黒魔法師の罠、呪いの手紙の真実

 手紙の痕跡を追う計画が失敗したミルフィアは、意気消沈していた。トボトボとした足取りで通りを進み、道具屋から少し離れた公園に入った。


 すっかり落ち込んで沈痛な面持ちの巫女姫が公園のベンチに腰掛けると、一緒についてきた勇者ワウディスは隣に座った。


「まさか、手紙の差出人が犯人じゃないなんて……完全に予想外だわ……」


 手懸かりを完全に失ってしまい、ミルフィアは嘆息した。とにかく、調査の結果をティラミスに報告する必要がある。


 手紙から犯人を追う調査は成果がなかったものの、ティラミスの方で〈バジリスクの呪い〉を浄化する手段が見つかった可能性もあるのだ。


 ミルフィアは胸に提げた聖印を握り締め、小さく〈精霊通信〉の呪文を詠唱した。


 たちまち聖印が光り輝き、虹色の光を照射して、空間に光のスクリーンを投影した。


 ミルフィアが空に浮かぶ画面に向かって呼びかけると、先輩の巫女姫が姿を現した。


「ミルフィア、手紙の差出人の調査は終わったの? 何かわかったかしら?」


「実は、差出人の手懸かり自体は見つけたんですけど、どの人も呪いをかけた犯人ではない可能性がとても高いみたいで、こちらの方は失敗でした」


 ミルフィアは意気消沈した様子で報告した。


「そう。やっぱり、現場に落ちている手紙に手懸かりを残していると思うのは、甘かったようね。犯人は相当頭が回るみたいだから、仕方ないわね」


「ホントにごめんなさい。ところで、お姉様の方はどうだったのですか? ナムコルおじ様の呪いを解く手がかりは見つかったのですか?」


 ミルフィアの質問に対し、ティラミスは無念そうに首を横に振った。


「いいえ、残念ながら、浄化の試みはすべて失敗してしまったわ。浄化タイプの魔法をどう強化してもダメだし、浄化タイプのポーション類もすべて効果なし。ここまで〈バジリスクの呪い〉の秘める暗黒魔力が強力だとは、想像もしなかったわ」


「じゃ、じゃあ、お姉様、どうするの? もう諦めるしかないの?」


「いいえ、これが最後の手段になるけど、秘薬のエリクサーを使うわ」


「えっ? エリクサーって、どんな病気や怪我も治してしまう奇跡のクスリのこと?」


「そうよ。とても貴重な秘宝のクスリだし、使うためには、本来バンダイン様の許可が必要だけど、今回は非常事態だから仕方ないわ」


 エリクサーとは、精霊巨神自らが超大容量のオーラパワーを凝縮した秘薬である。


 別名を生命の雫といい、あらゆる病気と怪我を治癒させる他、暗黒魔力を完全に浄化することも可能な最高のポーションだった。


 このエリクサーは製作するために百年近い時間を必要とする超貴重な秘薬である。


 使用するには、精霊巨神バンダインの許可が必要だけれど、今回は非常事態のため、ティラミスは独断で使用することを決断したのだった。


「バンダイン様のお力を借りずに封印庫の扉を開けるのは、少し時間がかかるけど、それほど難しくはないわ。エリクサーの使用は天空神殿トゥルポンダルで行うから、ミルフィアは先に神殿まで行って、準備しておいてちょうだい」


「わかりました、ティラミスお姉様。すぐに天空神殿トゥルポンダルに向かいます」


 ミルフィアが〈精霊通信〉の魔法を閉じると、空間上の映像はたちまち霧散した。


 巫女姫は天空神殿に向かう〈テレポート〉の呪文を詠唱しようとした。そこへ勇者ワウディスが少し申し訳なさそうな口調で話しかけた。


「あ、あのさ、ミルフィアちゃん、ボクが出した手紙を返してもらってもいいかな? もうナムコル支配人に読んでもらう必要はないから、持って帰って、捨てちゃおうかなと……」


「え? あの一通目の手紙のこと。ああ、そうね。わかったわ。ちょっと待ってね」


 ミルフィアは了解してポシェットから六つの手紙を取り出した。ところが、手紙の材質や形が同じである上、差出人欄が空白のため、どれが少年勇者の手紙なのか、すぐに見分けがつかなかった。


「ワウディス君、手紙を出すのはいいけど、名前はきちんと書かなきゃダメでしょ。差出人の名前がなかったら返事を出すこともできないんだから」


「それなんだけど……」


 勇者ワウディスは怪訝そうな声になって言った。


「ボクは、ちゃんと自分の名前を書いたはずだよ。時々だけど、ナムコル支配人やスペルシャさんから返事を貰えることがあるから、差出人欄は必ず書くようにしているんだ。でも、さっき見たら、空白になっていたし、どうしてなのかなあ……?」


「えっ? そうだったの? でも、確かにワウディス君の手紙の差出人欄は空白になっているし、どういうことかしら……アッ! もしかして!」


 ミルフィアは或る可能性に気付き、驚きの声を上げた。慌てた様子で、六つの手紙すべてを裏返した。差出人欄を確認すると、どれも真っ白だった。


 ミルフィアは悪い予感を覚えて〈ディスペル〉の魔法を使用した。

 魔法の効果を打ち消す消去魔法である。


 呪文の詠唱が終わると同時に、六つの手紙を白い光が包み込む。消去魔法の光が収まると、手紙の差出人欄に文字の列が浮かび上がった。


 勇者ワウディス、聖騎士アーニー、魔法師フォクセル、神官戦士スカード、武道家ジェスパー、侍戦士ジダーインの六人の名前と住所が、きちんと記載されている。


 つまり、誰かが差出人欄の文字を隠す魔法を使って、隠ぺいしていたのだ。


「六つの手紙の差出人欄すべてから、ごく僅かだけど暗黒魔力の痕跡を感じるわ。何ということなの。きっとこれは、犯人が仕掛けたトリックだわ。それにしてもどうやって……」


 〈バジリスクの呪い〉を秘めた呪いの手紙は、この六つの手紙とは別に存在していたのだろう。


 しかし、執務机の上に置かれている手紙は六つだけだった。しかも、暗黒魔法で隠ぺいが施されていたとは……考えられることはひとつ。


 誰かが執務室に侵入して隠ぺい工作を施した上、本当の呪いの手紙を回収したのだ。その推測が正しければ、犯人の暗黒魔法師は、既に〈精霊の夢〉劇場の中まで侵入していることになる。


 邪悪な暗黒魔法を操る暗黒魔法師のことである。

 〈精霊の夢〉劇場の中や付近にいるなら、こちらの行動を把握している可能性がある。

 それは全く想定外の事態だった。


「大変! ティラミスお姉様が危ないわ! すぐに報せなきゃ!」


 ミルフィアは直感的に暗黒魔法師の危険を感じ、ティラミスへ警告するため、再度〈精霊通信〉の魔法を使用した。


 しかし、何度呼びかけても先輩巫女からの応答はなかった。おそらく、既に封印庫の入口に向かっているのだろう。


 封印庫の周辺は特別な結界が張られているため〈精霊通信〉や〈テレポート〉のような時空タイプの魔法は、効果を打ち消されてしまうのだ。


「何だか嫌な予感がするわ。ワウディス君、一緒についてきてちょうだい」


「えっ? 何が起こっているの? 暗黒魔法師が見つかったの?」


「事情は後で話すわ。とにかく、ティラミスお姉様のところへ行きましょう」


 封印庫へ続く扉は〈精霊の夢〉劇場の地下に隠されている。ミルフィアは少年勇者の手を掴むと、大急ぎで劇場の方へ向かったのだった。

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