第十三話 ナムコル支配人あてに要望の手紙を書こう!
〈精霊の夢〉劇場のすぐ傍に大型の魔法バーガー店があった。魔法バーガーは精霊食材で作り、通常の味付けの上、魔法ポーションを添加した優良魔法食品である。食べると、体力回復や気力向上その他の魔法効果が付与される。
精霊食材や魔法ポーションを大量に調達して量産体制を構築しており、リーズナブルな値段を実現している。味も美味しいので、老若男女に大人気の魔法食堂なのだった。
実は、魔法バーガー店はエレメンタルシスターズの後援者であり〈精霊の夢〉劇場を運営しているナムコル支配人が経営している。
その名もエレメンタルバーガーである。
エレメンタルランド全土に展開しているチェーン店である。そして〈精霊の夢〉劇場の傍の大型店舗は本店だった。
エレメンタルバーガー本店の二階フロアの窓際のテーブル席に、三人の利発そうな少年たちが座って、楽しげにおしゃべりしていた。
定例の魔法バーガーや魔法ポテト、魔法シェイクその他のバーガーセットを食べながら、弾んだ声と笑顔で会話している。
話題はエレメンタルシスターズだった。
今日開催のコンサートの様子や精霊の乙女アイドルについて熱心に語り合っている。
三人の少年は、勇者ワウディスとその友達だった。三人ともエレメンタルシスターズの熱烈ファンで、一緒にコンサートを見て、その帰りに魔法バーガー店に寄ってご飯を食べているのだった。
「やっぱり、エレメンタルシスターズのコンサートは最高だよね! どの曲も聞いていて元気が出るし、歌声のハーモニーはキレイだし、劇場での観賞は本当にいいね!」
勇者ワウディスは最高の笑顔でそう言うと、テリヤキ魔法バーガーを両手に掴んでパクッと食べた。
目の前のお盆の上には、魔法ポテトとヨーグルト味の魔法シェイクが載っている。この魔法バーガーセットが少年勇者のお気に入りなのだった。
「歌声も素晴らしいけど、エレメンタルシスターズ女の子たちのダンスはとてもキレイだよ。振付けは可愛いし、六人のリズムは完璧に調和しているし、本当に見入っちゃうよ」
熱い口調でそう主張したのは武道家ジェスパーである。ジェスパーは十六歳の少年武道家である。
若くして才能溢れ、サティライム王国で最も普及しているオーヴィタル武術の免許皆伝を得ている。
爽やかで快活そうな少年で、青色の瞳は気高い挑戦心に満ち、青と真紅のメッシュの髪の真紅のバンダナを巻いている。
魔獣の皮製の武道着を愛用しており、腰のベルトにミスリル製の手甲を提げ、武骨なバトルシューズを履いている。
武道家ジェスパーは片手に掴んだダブル魔法バーガーをガブリッと食べて、その味の良さに満足の笑顔になった。肉が二倍のボリューム満点のバーガーで、武道家の少年らしい選択である。
セットメニューは魔法ナゲットとチョコレート味のシェイク。勇者ワウディスと同様、彼もお気に入りのメニューを注文したのだった。
「歌とダンスも素晴らしいけど、今日の精霊の羽衣はみんな本当にキレイだったね。精霊カラーの色合いは美しいし、踊る仕草ひとつひとつに水しぶきみたいにオーラパワーの光が飛び散るから、とても幻想的だよ。本当に劇場での観賞は楽しいね」
落ち着いた口調でそう感想を言ったのは、侍戦士ジダーインである。
ジダーインは十六歳の少年剣士である。
若くして才能に溢れ、抜刀術を主体とするオーヴィタル剣術の免許皆伝を得ている。
穏やかでおとなしめな風情の少年で、黒色の瞳は芯のある落ち着きの光を放ち、黒色の髪に家紋付きの白い鉢巻をしている。
ひたすら剣術の道を追求するストイックな性格で、いつも侍の武士袴を着用し、腰にはミスリル製のカタナブレードを提げている。
侍戦士ジダーインはベジタブル魔法バーガーをサクッと食べて、お気に入りの味に満足げに目を細めた。野菜タイプの精霊食材主体のバーガーで、バランス栄養タイプということで選択している。
注文したセットは魔法サラダとバニラ味の魔法シェイク。爽やかな味が好みの侍戦士ジダーインのお気に入りである。
それから仲良し三人組は、エレメンタルシスターズのコンサートや精霊の乙女アイドルの今日の衣装や歌とダンスについて、熱く語り合った。
勇者ワウディスにとって、武道家ジェスパーと侍戦士ジダーインの二人は熱烈ファンの親友だった。
後は魔法師フォクセルの四人でよく行動しているけれど、魔法師フォクセルは魔法課題の研究があって、今日は参加できなかったのだ。
ミルフィアに振られて激しく落ち込んだ少年勇者を励まし、希望に溢れる明るい世界に導いたのは、彼らなのだった。
「アクアマリンちゃんは可愛かったな~。いつも明るくて元気で、本当にみんなに力を与えてくれるよね。もっと色んな姿を見てみたいなあ……本当はどんな女の子なんだろう。秘密なのはわかるけど、やっぱり、誰なのか知りたいなあ……」
勇者ワウディスはコンサートの合間のトークで、熱烈ファンに笑顔を向けたり、励ましの言葉を投げかけたりしたアクアマリンの様子を思い出し、うっとりした表情になった。
実は、アクアマリンの挙動はどこか落ち着かなげである。でも、アイドルを必死に頑張っている様子も熱烈ファンとしては嬉しいのだった。
また、精霊の乙女アイドルの正体は極秘だけど、本当の姿を見てみたいという要望が少年勇者の心の中から湧き出していた。
「今日のサラマンディーちゃんはいつにも増して快活でカッコ良かったな~。言葉はいつも勝ち気で激しいけど、エレメンタルシスターズの盛り上げ役なんだし、やっぱり、サラマンディーちゃんが居ないと盛り上がらないよね。一度でいいから、直接会って話してみたいな~。きっと間近に見たら、もっと可愛いんだろうな~」
武道家ジェスパーはコンサートの間、ずっと元気に声を張り上げ、熱烈ファンたちに呼びかけたり、精霊の乙女たちに活を入れたりするサラマンディーの姿を思い出し、楽しげな表情になった。
また、かねてより直接会って会話してみたいという願望があったけれど、この時も自然と口から出てしまった。正体が極秘だからか、エレメンタルシスターズでは、サイン会のような熱烈ファンと触れ合うイベントが用意されていないのだ。
「ドリアーネちゃんは相変わらずモジモジして控え目な感じだったけど、あの儚げな仕草が可愛らしいというか、とても癒されるんだよね。今日のドリアーネちゃんの精霊の羽衣の衣装はすごく良かったけど、いつか浴衣タイプや着物タイプの可愛いアイドル衣装も見てみたいな~」
侍侍戦士ジダーインはコンサートの合間のトークで、いつも不安そうにモジモジして、はにかんだ笑顔で話しているドリアーネの姿を思い浮かべ、朗らかな笑顔になった。
ストイックな侍道を行く少年武士だけど、エレメンタルシスターズだけは別なのだ。
さらに、瞼の裏に浴衣タイプや着物タイプのアイドル衣装をまとった推しメンの姿を思い浮かべる。
侍戦士の彼にとって、最も美しく可愛らしい姿は和風スタイルの浴衣や着物姿の女の子なのだ。
「そっか~、アクアマリンちゃんの正体も知りたいけど、確かにサイン会とかで一度会ってみたいよね。そうだ! みんなの願いを手紙に書いて、ナムコル支配人に出してみようよ。何度も送ったら、もしかしたら叶うかもしれないよ!」
勇者ワウディスの提案に武道家ジェスパーと侍戦士ジダーインは目を輝かせた。
「それはいいね! 直接会話できるサイン会は熱烈ファンなら誰でも希望することだし、ナムコル支配人ならボクたちの気持ちをわかってくれるかもしれないしね!」
「確かにいいアイデアだね! 浴衣タイプや着物タイプの精霊の羽衣は、きっと熱烈ファンのみんなも喜ぶだろうし、夏祭りや秋祭りでのコンサート開催を要望してみるよ!」
エレメンタルシスターズの後援者であるナムコル支配人は、ファンからの要望の手紙はきちんと目を通して、劇場マネージャーを務める吟遊詩人スペルシャとアイドル活動やコンサート運営に活かしていると言われている。
こうして、三人はそれぞれの熱い想いを手紙に書いて、ナムコル支配人あてに送ることにした。
そして、大好物の魔法バーガーセットを食べ終わったことから、今日のコンサート後の熱烈ファン会合は解散となったのだった。




