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魔法炉戊サーガ ~怖がり勇者の邪竜討伐英雄伝~  作者: 夢明太郎
第二章 優しき黒き邪竜の遺した奇跡、そして……
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第九話 優しき黒き邪竜の葬儀と二人の少年少女の決意(その1)

 王都オーヴィタリアの王城の中庭で、ブラックドラゴンの葬儀が執り行われていた。賢王ヴィストールⅦ世の主催による豪華で壮大な国葬である。


 広い中庭の中央に大きな祭壇が設置され、魔法プロジェクターを使って、上空にブラックドラゴンの遺影が投影されている。


 昨年の邪竜討伐伝の演劇のフィナーレの後に、演劇の出演者全員で撮影したマジカル写真から取り出したものである。


 漆黒の巨大なドラゴンは恐ろしい威容を誇っているけれど、その表情はやわらかく、黒い瞳は人々を優しく見下ろしている。


 葬儀には、サティライム王国の各地から、老竜を慕うたくさんの人々が参列した。


 唯一の家族である勇者ワウディスは家族の席に座り、ずっと涙ぐんでいた。


 昨夜、ブラックドラゴンとの戦いの記憶を取り戻してから、少年勇者は一睡も出来ず、ひたすら泣きじゃくっていた。


 葬儀への出席についても高司祭ニトールや聖騎士アーニーなどが言っても全く聞かず、ミルフィアに無理矢理引っ張られた感じである。


 葬儀に参列した人々は、みんな優しい慰めの言葉を少年勇者にかけていた。ところが、勇者ワウディスはただ嗚咽を漏らすばかりで、優しい言葉に一切反応することはなかった。


 参列した人々はそれだけ少年勇者の悲しみが深いのだろうと、痛ましげな視線を注ぎながら、去って行くのだった。


 そうして、国葬クラスの壮大な葬儀が終了した。

 葬儀終了に伴い、賢王ヴィストールⅦ世、ターキム騎士団長、高司祭ニトール、王国騎士団の面々などの主だった参列者も解散した。


 そして、衛兵たちによる葬儀会場の後片付けがはじまった。それでも、少年勇者はひとり家族席で、ひたすら泣きじゃくっていた。


 勇者ワウディスがブラックドラゴンを実の祖父のように慕っていたのは周知の事実のため、誰も声をかけられない状態だった。


 ふと、ひとりの少女が泣いて顔をクシャクシャにしている少年勇者に近づいた。


 精霊巨神の巫女ミルフィアである。葬儀において高司祭ニトールの補佐役を務めていたけれど、役目が終わってやってきたのだ。


「ワウディス君、本当に辛いでしょうけど、いつまでもそんな風に泣いていたらダメよ。昨晩からずっと泣きっぱなしでしょう。昨日の夜は全然眠れていないんじゃないの?」


 泣き続けている少年勇者だったけれど、ミルフィアの声を聞いて初めて顔を上げた。


「だって、だって、邪竜お爺ちゃんが死んじゃったんだもん。ボクのせいで死んじゃったんだもん。こんなことになるなんて……ウウッ……」


 勇者ワウディスは喋ろうとするものの、口から漏れるのは涙声ばかりだった。


 ミルフィアは隣の席に腰を下ろし、少年勇者の横顔を真っ直ぐに見つめた。


「ねえ、ワウディス君。悲しいのはわかるけど、邪竜お爺様はワウディス君がオーラソードを会得したから、きっと真の勇者になれるに違いないと信じて、大満足で亡くなられたのよ。そんな風にずっと泣いてばかりいたら、邪竜お爺様のご遺志に背くことになっちゃうわ」


「そんなこと言われたって……邪竜お爺ちゃんが死んじゃって、ボクはひとりぼっちになっちゃったんだよ。もうあの邪竜火山の洞窟に遊びに行っても、誰もいないんだよ……」


「そうね……わたしも邪竜お爺様が亡くなってしまって、本当に寂しいわ。でも、ワウディス君の話を聞いて、ちょっと嬉しかったの。邪竜お爺様はワウディス君のことも心配だったけど、暗黒魔力の破壊衝動を抑えるのに、ずっと苦しんでいたのよ。それがみんな解決して、幸せな気持ちで亡くなられたんだわ。本当によかった」


 ミルフィアの安らいだ表情を見て、はじめて勇者ワウディスは、漆黒の老竜の亡くなった状況の意味するところに気付いた。


 あまりに悲し過ぎて、ブラックドラゴンの心情を推し量ることができなかったのだ。

 少年勇者の表情に少しだけ元気さが戻った。


「そっか、そうだね。確かに邪竜お爺ちゃんはとても満足そうだったよ。最後に見た顔は少し疲れていたけど、本当に嬉しそうだった。邪竜お爺ちゃんは幸せだったのかな?」


「もちろんよ。お父様が洞窟の黒い沁みを分析した時、命が尽きた気配と合わせて、とても温かくて安らかな思いが漂っていたことを不思議がっていたもの。ワウディス君が頑張ったから、邪竜お爺様は幸せな気持ちで亡くなったのよ。そのことはちゃんと誇りに思わなきゃ」


「そっか、そうだね。邪竜お爺ちゃんは本当に幸せな最期だったんだね……」


 はじめて少年勇者の胸に誇らしげな想いが湧いた。ブラックドラゴンの死にひたすら打ちひしがれていた心に、温かい光が差していく。


 寂しくて辛いのは事実だけれど、大好きだった老竜が大満足で亡くなったのは、大事な揺るぎない事実なのだ。いつの間にか、勇者ワウディスの表情にいつもの生気が戻っていた。


 昨晩から泣き続けたこともあるけれど、幼なじみの巫女姫の優しい励ましの言葉が効いたようだ。ミルフィアは澄み切った紺碧の瞳に最大限の慈しみを込めて、少年勇者を見つめた。


「ねえ、ワウディス君、つらい気持ちはわかるけど、これからは邪竜お爺様のご遺志に沿って、少しずつでいいから、前に進まなきゃダメよ」


「う、うん……そうだね、少しずつなら頑張れるかな、たぶん……」


「じゃあ、この後、落ち着いて心の準備が出来たら、天空神殿トゥルポンダルに行って、バンダイン様の試練を受けましょうね」


「えっ? で、でも、精霊巨神の試練はすごく大変だから、ボクにはまだ……」


「何を言っているの。邪竜お爺様はワウディス君が精霊巨神の試練を突破して、真の勇者の証である光の聖剣を授かることを信じていたのよ。邪竜お爺様との特訓でオーラソードはちゃんと使えるようになったんでしょ? それなら、体調さえ万全だったら大丈夫じゃない」


「えっと、そうかもしれないけど、でも、精霊巨神の試練はとても厳しいらしいし……」


「大丈夫、失敗したって、またトライすればいいんだから。わたしも一緒に天空神殿トゥルポンダルに行ってあげるから、頑張りましょうね」


「そ、そうだね……それなら何とか、頑張れるかな……た、たぶん……」


 普段は臆病で引っ込み事案の少年勇者も可愛い幼なじみの巫女姫に励まされて、少しずつやる気を出したようだった。漆黒の老竜の遺志に沿わないといけないという責任感もある。


 しかし、それ以上にミルフィアの優しい笑顔の励ましは、効果抜群なのだった。

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