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93「悪い予感」


『ホント大したもんだな、その結界』


 トノは槍の穂先で、石突きで、はたまたその拳で、幾度となくイチロワの結界を斬りつけ殴った。


 しかし、その結界を破ることは出来ずにいた。


 ただし、結界ごと殴り飛ばしまくったお陰で、イチロワは結界内部にあちこちぶつけまくって鼻血を流してはいる。



『なぁ神様よ。お互いもう色々と諦めて帰るってのはどうだ?』


 イチロワのサーベルも魔術も、未だに一撃も喰らうことなく(さば)いているトノが言う。


 対して結界の中、整ったクィントラの顔を歪め、乱暴に鼻血を拭き取るイチロワ。



『舐めるな、この――っ、ゴミ宿り神がぁ!』


『ゴミみてぇなもんだぜ儂なんてよ。しかしそれに一撃も入れられんお主はなんなんだろうな』



 カシロウの顔でニヤリと笑ってみせるトノ。


 それを見てさらに怒りを噴き上げたイチロワ。



『ぜぇぇったいに! お前は殺ぉぉぉす!』


『やってみろってんだ、ボケが』



 コロスコロスコロス……と呟きながら、イチロワが結界の中で目を瞑り深い呼吸を繰り返す。


 何かを始めたイチロワを見、まだ少し掛かりそうだと考えたトノはキョロキョロと部屋を見回した。

 (おも)にトノが開けたいくつかの壁の穴と、()()()()()を見つけ、『ちょっと不味いな』と呟いた。



 そして暫し、瞑想が終わったのか、イチロワが目を開いた。


 先ほどまでのイチロワは、いつも通りのクィントラだったが、今、目を開いたその姿は、明らかに体格が膨らんでいた。



『待たせた。今から殺してやるからな』



 他者の神力など測れないトノではあるが、クィントラの体に内在する神力が段違いに多くなっている事が、その肌で感じ取れてしまう。


 それほどに強大な神力。




『お前の槍なぞもう当たらんぞ』


 そう言ってイチロワが結界を解く――


『それを待っとったぁ!』


 ――と同時にトノが神力の刃を放った。



 一度だけ、結界を破る事は出来ぬと分かっていながらも神力の刃を放ったのは、それはこの一瞬、イチロワが結界を解いたときの為の練習だった。


 見事にクィントラの体に直撃、胸から血飛沫を飛ばしたイチロワが言う。


『……ちょっと慌てたが、効かんなぁ』


『ちっ、駄目かよ』



 効かないと言う割には、胸に真一文字の傷をつけ、そこから血を流してはいる。

 しかし、クィントラはともかく、クィントラに宿るイチロワには効いていないらしい。



『せめてその宿主、クィなんとかを真っ二つにせねばならんか……』


『結界があろうとなかろうと、お前には出来んよ』



 実際問題、トノには結界を破ることは難しい。

 そして、体のボリュームが増すほどに神力で強化したクィントラの肉体を両断する事も難しい。



『参ったな、思ったよりも手の打ちようがねえぜ』


『やっと気付いたか。最初からお主のような矮小な宿り神に勝ち目なぞないのだ』


『まぁそうなんだがよ。こういう時はとにかく精一杯色々やるのさ。そうすると勝負の綾が見えてきたりするもんだぜ』



 イチロワが自らの体を抱くように縮こまり、


『勝負の綾なぞない! 我が勝つのみ!』


 そう叫んで両手を広げて神力を解放した。


 ドォォンと全方位に向けて飛ぶイチロワの神力。



『うぉ……、このバカが――』


 トノが走り出そうとする素振りを見せたが、どう考えても間に合わぬと、己れの頭を腕で覆ってガード、併せて神力を全身に纏わせた。

 


『うぉぉぉおおお――――!』




 パラパラと、月代(さかやき)に降り落ちる、小さくなった建物の破片。


 フラつきながらもなんとか堪えたトノが辺りを窺うと、カシロウの上衣も袴もあちこちボロボロ、両手を広げたままで部屋の中央に立つイチロワ、それに天井と壁が綺麗になくなった部屋。



『ちっ! 悪い予感が当たっちまった! タロウ! 返事をしろ!』


『……あぁ、そこらに転がしていた子供か。せっかくの器が細切れになったか』



 先ほどまでタロウが転がっていた辺り、そこにタロウの姿はない。


 外に吹き飛ばされたかと、壁の無くなった部屋の縁に立ち眼下を覗いた。



『……はは、やるねぇ』


 予想外の情景に、トノから笑いが溢れてしまった。


『なんだ? いたのか?』


 驚いた顔のイチロワへ向け、トノが手招き、目顔でもって下を覗くように言う。



『…………誰だあの無茶苦茶な子供は……』


『儂等の息子さ』



 眼下には、背にタロウを負ぶって浮かぶヨウジロウの姿。


『父上! タロウ殿が降ってきてびっくりしたでござる!』


 ヨウジロウは空中で何かを蹴って上昇、さらに蹴って上昇、それを繰り返してあっという間に砦の三階まで登ってきた。



『ご無事でござるか、父上!?』


 フワリと床へ降り立ったヨウジロウの第一声、父の無事を確認するもので嬉しくなったトノ。



『よう、ヨウジロウ。よく来た、助かったぜ』


『あれ? 普段と様子が違うでござるな?』


『いまカシロウは眠っておる。儂はトノだ。話すのは初めてだな』


 驚いた顔のヨウジロウはタロウを負ぶったままで、トノの頭から足までジロジロと眺め、納得したのか破顔した。



「トノでござったか! ならブンクァブに置いてかれた件については父上が起きてからでござるな。これでも苦労したんでござるぞ。トザシブに着いたら緊張でオーヤさん動かなくなるし、ウナバラさんはなかなか転送術式のこと教えてくれないし――」


『ヨウジロウ、積もる話はあとだ』


 トノに話を止められ、ヨウジロウがイチロワへと目を遣って言う。


「クィントラ殿でござるな。いまいち状況が飲み込めんでござるが、クィントラ殿を倒せば良いんでござろう?」


『ああ、そうだ。しかしそれは儂がやる。ヨウジロウはタロウを頼む』


「承知でござる!」





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