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84「仕方なかろう」


「斬るなとまでは言わん。しかし出来るだけ殺すな!」


「甘い! 甘いぞカシロウ! さっきのクィなんとかいう奴を斬らねばどうなると思うんじゃ!」



「どうなると言うんだ? お主分かるのか?」



 未だクィントラの思惑は知れない。

 カシロウにとって、クィントラとは特別に仲の良い同僚という訳でもなく、何ならお互いに嫌い合っている。


 それでもクィントラが、リオを斬りディンバラに(あだ)()す者であるとは信じ難かった。



「いや、それは儂にも分からんが……。(まず)いんじゃろ天狗殿?」


『そうだね、拙いと思う。クィントラさんがこの先どうしたいかは知らないけど、既に神王国の軍を引き入れてる訳だからね。ディンバラにとって良い事にはならないね、きっと』



 そんなやり取りをしながらも、二人は剣を振っている。

 魔術の瞳を追って駆け、出会(でくわ)す兵士を叩き斬る、または峰で(したた)かに打つ。


 シャカウィブ常駐の兵士は大方二千、今のところはリオが連れてきている八軍の五百は見当たらないが、それでもとにかく数が多い。


 雲霞(うんか)の如く湧き出る兵士をそれぞれの手段で薙ぎ払い、砦の二階へ駆け上がり広い廊下に出た時、兵士の中に黒装束の者が見て取れた。



「クィントラか⁉︎」


『違うよヤマオさん。瞳が反応してない。あれはクィントラさんじゃないよ』



 装いは先ほどのクィントラと全く同じ、頭と顔を覆う覆面に、筒袖で真っ黒の黒装束。


『あれはね、神王国の暗部の連中の服装だね。ダナンさんも同じだったし昔と変わってないらしいね』


「そうでしたか。何名かここにいるようですが、クィントラはその中にいませんか?」


『誰にも反応してない。いないみたいだね』



 確かにカシロウが言うように、数十の兵士の奥に黒装束の姿がチラホラ見える。



「ならあれは神王国の者なんじゃな?」


『だと思うよ。もしかしたら中身は違うかも知れないけどね』



 そして再び殺到する北方警備の兵士たち。

 カシロウは魔術の瞳を懐に放り込み、峰を返したままの兼定(二尺二寸)を構えた。


 相変わらず容赦なく大剣を振って斬り捨てるタロウ、砦の二階へ上がったこともあり、斬った兵士を窓の外へと放り投げ始めた。


「カシロウ、貴様もこうするんじゃ。落ちたとて(タカ)が知れてる。死にはせん」


 そう言ったタロウが斬った兵士は、一刀で事切(ことき)れていたが窓から落とされた。



「儂は廊下が狭くならない為じゃ。貴様は……、分かるよな?」


「……ああ、分かる。私もそうしよう」



 カシロウが叩き伏せた兵士の中には、たとえ腕を折られようと逆の手に剣を握って再び挑む者が幾人もいた。


 ――殺さないのであれば手間を省け。


 タロウの提案にはそういう意味が含まれており、足を引っ張っているという自覚のあるカシロウは素直に頷いた。



 そして順調に、その数を減らしてゆく。



 その時、カシロウもタロウもほぼ同時に、重りのついた鎖に襲われた。

 かなりの速度、かなりの威力、唸りを上げて二人を襲う鎖。


 それぞれジャリンと音を立て、受けた剣に巻きつく鎖。



『中身も神王国の者だね。鎖鎌は神王国の暗部の標準装備だよ』


 カシロウの懐から届いた天狗の声。


 それを聞いた二人は、グイと剣を引いて鎖鎌の主を引き寄せる。


 随分と数の減った兵士の後ろから、二人の黒装束が姿を見せた。


「なるほど、確かに鎖鎌じゃ。本物見たのは初めてじゃ」



 四人はそれぞれ、鎖を引き合い力を籠める。


 そしてまた同時、二人の黒装束が力を抜いて、引かれるままにお互いの相手へと跳んだ。


 途端に力の抜かれたカシロウとタロウは蹈鞴(たたら)を踏んで、後ろへ一歩二歩と下がったところに、鎌を振りかぶった黒装束が眼前に迫る。



 鎖の絡んだ剣をそのままに、左の手に神力の刃を作り出した二人。


 驚愕の声を上げた黒装束が、そのまま苦悶の声を上げる。


「甘い。剣は一つだけではないんじゃよ」


 タロウの握る神力の刃は、黒装束の左胸へと突き刺さっていた。



「そうじゃろ? カシロウ」



「ああ、そういう事だな。しかし覚えたての癖に生意気な奴だ」



 そう言ったカシロウの左手、握られた鷹の刃も同じように、黒装束の左胸へと突き刺さっていた。



「しかし良かったのか? さすがに死んだじゃろコレ」


「ん? あぁ良いんだ。コレはディンバラの者じゃない。仕方なかろう」



 溜まったフラストレーションが晴れたような、少し明るい表情でカシロウはそう言ってみせた。





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