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79「天狗の案」


「ヤマオさん、ここから真っ直ぐシャカウィブを目指すの?」


「それしか方法がないかと思っていますが……、何か名案でも?」



 ここブンクァブからほぼ真西にトザシブ、その距離はカシロウらでさえも丸一晩は掛かる距離。


 対してシャカウィブへ向かうならば、全力で走り続けられたとしても丸三日は掛かるだろう。


 ちなみに騎馬で駆けたとしても、カシロウや天狗ならば走ったほうが速いので論外である。



「名案ってほどじゃないんだけど、ちょっと気になることがあってね。上手くいけばさらに短縮できるかも知れない」


「そうですか、では天狗殿の指示に従います。どちらへ向かえばよろしいか?」


「とにかくトザシブだね。ちなみに僕も行かなきゃ話にならないから一緒に行くよ」


 そう言って天狗が杖に手を伸ばし、把手を握って僅かに引き抜き、杖の中の白刃を煌めかせた。


「今度こそ出番があるかな?」


「……仕込み杖だったのですね」


「そうだよ。せっかく持ってきたのに、誰かさんのせいで全然出番がないのさ」


 力付けようとヴェラの背を撫でていたタロウが慌てて反応した。


「誰かさんて……儂じゃないよな? カシロウじゃよな?」


「どっちかなー? 斬りまくったヤマオさんかなー? それともタロさんかなー?」



 それはもう、楽しそうにタロウをいじる天狗の姿。それを見てカシロウが口を開いた。



「天狗殿、もう向かいましょう。今は早ければ早いほど良い」


「そうだね、その通り。タロさんはどうする?」


「儂か? カシロウが行くなら当然儂も行く。とととと友達じゃからな!」



 タロウの宿り神は、恐らくヨウジロウと同程度の神力を秘めている。

 その竜を宿したタロウが味方であれば、それは相当に頼もしい。



「私にはどうにも展開が読めん。どうなるか分からん。戦さになるかも知れんが良いのか?」


「皆まで言うな。友達が困っていれば助ける、多分そういうものじゃろう?」


「……分かった。頼りにさせて貰うぞ」



 カシロウら三名は席を立ち、速やかに出立の準備を整える。


 カシロウは部屋に戻って袴を履いて、すやすやと眠る愛息子(ヨウジロウ)を見遣り、ユーコーによく似た面差しの頬をつついて微笑んだ。



 広間に戻ったカシロウを迎えたのは、天狗らに加えて、不貞腐れた顔のハコロク。



「なんなんやもう。また走ってトザシブ戻るらしやん。ワイさっき寝たとこでんがな」


「こんな事言ってるけどね、ハコロクさんたらちゃんと盗み聞きしてたんだから」


「そりゃ……まぁ、ワイかてビスツグはんの警護を請け負うとるさかい、トラブルには耳聡(みみざと)くもなりまんがな」


 ぶちぶちと、そうハコロクが愚痴るのを無視して、天狗がとっとと話を進める。


「早くビスツグさんのとこに帰りたいだろうハコロクさんも入れて四人で戻るからね」


「分かりました。よろしく頼みます」





● ● ●


 夜半前にブンクァブを出発した四人は、駆けて駆けて駆け通し、夜明け前には行程の八割がたを走破していた。



「ヨウジロウさんのこと、心配だろうけど大丈夫。オーヤさんに任せておけば二、三日中にはトザシブに帰ってくるから」


 

 駆けながらもどこか上の空のカシロウへ向け、天狗がそう声を掛けたが、カシロウはヨウジロウの事を考えていた訳ではなかった。



「あ、いえヨウジロウの事は心配しておりませぬ。恐らくアレは私よりもしっかりしていますから」


「へぇ、ならリオさんのこと?」



 走りながらとは思えぬ程に、いたって普通に話す二人はさらに話を続ける。



「そうです。リオははっきり言って強い。御前試合では私が勝ちを拾いましたが、リオほどの手練れが斬られた事が信じられないのです」


「僕の魔術の瞳もまだ届いてないから分かんないけど、パガッツィオの軍に雪崩れ込まれた可能性もあるし」


 ブンクァブを出る際、天狗は魔術の瞳をシャカウィブ目掛けて飛ばしているが、まだシャカウィブに到達していないため様子が分からないでいる。


「……そう、ですね。五万の軍勢ですからね……」



 仮に五万の敵であってもカシロウには、あのリオが一日で陥落するとは思い難い。


 魔術も武術も軍務さえも、全てを高レベルでこなすリオこそが四青天の筆頭たる実力を兼ね備えている。


 実際はその、あまりにも寡黙な性分ゆえに筆頭の座をヴェラに明け渡す形となったが、リオを除く四青天の三人には、リオこそが筆頭だという思いがあった。



 ――ヴェラを遺して逝くなよ。



 カシロウは強くそう心に念じて駆け続け、夜明けを過ぎて半刻ほど、一行はトザシブへと辿り着いた。

 




● ● ●


「なんだと⁉︎ リオが何者かに斬られただと⁉︎」


「はっ。天狗殿の手の者が確認した事でございます。間違いない情報かと思われます」



 場所は王城三階の王の間。

 ハコロクは何食わぬ顔でビスツグの背後に回り、シレッと警護の任に復帰していた。


 カシロウ達がトザシブを離れてブンクァブへと向かった時から数えて丸一日半、夜が明けて朝一つの鐘がなる少し前である。



「リオはいま二千五百しかない兵とともに籠城している筈、そのリオを例え五万の軍と言えどもほんの一晩で攻め込めるものかよ……?」


 どうやらウナバラもカシロウと同じ思いらしい。


 この短時間でリオ・デパウロ・ヘリウスが遅れを取る筈がないと、カシロウ達からの報告を聞き終えても信じられない様子だった。



「私も同じ思いですが、このまま放っておく訳にもいきますまい」


「おう、確かにそうだ。ならどうするんでえ?」


「これから私たちで向かいます。私なら二日半もあればリオの(もと)へ辿り着けるでしょう」



 ウナバラがカシロウ達を見遣り、タロウを見詰めて(いぶか)しんだが、「長くなりますので彼については後日報告致します」というカシロウの言葉を受け、今は一旦忘れる事にしたらしい。



「クィントラが連れた八軍と九軍のうちの騎馬が……、あと四……いや三日ほどでシャカウィブだろう。そう変わるまいが行くってのかよ?」


「それについては天狗殿に案があるそうで」



 皆からの視線を一斉に浴びて、オホンと一つ咳を挟んだ天狗が言う。



「今からエスード商会に行こうか」


「エスード商会? クィントラの実家の?」


「そうそう、そのエスード商会。きっと上手くいくと思うんだ」





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