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5「今度は耳」


 結局、原因は不明。


 しかし王城治癒術士の治療を受けたからには届け出が必要である。

 相談した結果、「フミリエの不注意による怪我」とだけ届け出る事に決めた。



 翌日の朝には届けを出し、休日なのを良い事にヨウジロウを構いまくって過ごしていたお昼過ぎ、血相を変えたリストルが突然現れた。



 バァン、と扉を開けてリビングに踏み込んだリストルが声を荒げる。


「カシロウ! フミリエ母様がお怪我なされたそうではないか!」


「あら魔王さま、もうお耳に入りました?」


「おぉユーコー、其方も健やかであるか?」


「ええ、もうすっかり。その節は御心配お掛けしました」


 ユーコーは魔王リストルに向かって、ペコリと腰を折ってお礼を述べた。



「リストル様、臣下の部屋に単身乗り込むなどと……、ベルファスト殿が知ればまた叱られますぞ」

「まぁそう言うな。我とトクホルム一家の仲ではないか」



 魔王と臣下の間柄ではあるが、幼少期のリストルを教え導いたのはユーコーの実母フミリエ・トクホルム。

 フミリエを二人目の母と慕い、実際に「フミリエ母様」と呼ぶリストルにとって、その実子ユーコーは妹、その亭主は妹婿も同然だと言うのが魔王様の言い分であるらしい。


「それでフミリエ母様の怪我はどうなのだ。小指が千切れたと聞いたが……」


「第一関節から先が無くなってしまいましたが、特に大事(だいじ)はないようでした」


 カシロウの言葉を聞いて憮然とするリストル。


「……おいカシロウ。お主、物言いが冷たくないか。フミリエ母様に育てて頂いた恩を、よもや忘れてはいまいな!?」


「滅相もございませぬ。例え自分の名を忘れても、義母(はは)上への恩を忘れるような事は決してありませぬ。ただ……」


「ただ、なんだ?」


「ご本人があっけらかんとされておりますので……」


「………………そう言えばそうだ。フミリエ母様は細かい事を気にされるタイプではないな……」



 カシロウが産まれたての赤児の姿でこの世界に転生した直後、カシロウを引き取ったのがフミリエだった。


 出産に備えて家庭教師を辞め、当時のフミリエは産後すぐに訳あってシングルマザーとなり、女手一つでユーコーを育てていた。


 ユーコーが一歳の誕生日を迎える頃、転生したカシロウが現れた。


 先代王が亡くなった直後、 新王を盛り立てるべく賑々しくやっていた当時の十天は額を集めて相談した。


 天が与えた祝福としてのカシロウはこれ以上ないほど有り難い。しかし実際のところは赤子、誰が面倒を見る? 世話をする? と。



「ワタシが育てますよ。今ちょうど一人赤ん坊が居るんでお乳も出るし、一人も二人もそう変わんないでしょ」


 そう名乗りを上げたのがフミリエだった。


 新王の元家庭教師である才女、寡婦ではあるが充分な蓄え、それに国からの援助も当然出す。


 これ以上ない人選であった。


 そんなこんなでカシロウはフミリエに育てられた。リストルにとってカシロウは、妹婿であることに加え、実際は弟同然なのである。



 ちなみに、トクホルム家に婿入りしたカシロウの現在のフルネームは、


 ヤマオ・カシロウ(山尾・甲士郎)・トクホルム、である。


 転生前の姓と名が一括りとしてファーストネーム扱いとなる。

 一応そういった決まりはあるにはあるが、カシロウの事をトクホルムと呼ぶ者はあまりいない。




「分かった。とりあえずフミリエ母様が元気ならばそれで良い。近いうちにお見舞いに伺うと、何かの折りにでも伝えておいてくれ」




● ● ●


 原因不明ながら、フミリエの小指が千切れた件については、とにかく本人があまり気にしていない点によってこれ以上騒ぎになる事はなかったが……。


 数日後、新たな事件によってカシロウ一家は騒然となった。



 その日、カシロウは道場に出ていたため、現場に出る日よりは帰りが早い予定であった。


 夕刻、カシロウが城下町にある道場から魔王城へと歩を進めていると、今度はフミリエが向こうから駆けて来た。


「義母上! 何事かありましたか!?」


「カシロウさん! 今度はハルさんが!」



 フミリエを負ぶってカシロウは駆け出す。

 フミリエを負ぶってさえ、その駆ける速度は常人離れしたものであった。


 寸刻、魔王城の自宅へと駆け込んだカシロウが見たのは、ヨウジロウを負ぶったユーコーに介抱されるハルの姿。


「カシロウ様、一体なんだか分かんねえんすが、やられっちまいやした。すいやせん」


 そういうハルの左耳は失われていた。


「ハル、見せてみろ」


 ハルはトクホルム家で代々使用人をしているオザーワン家の長男、言わばただの町人ではあるが、カシロウがその才を見出し育てた剣の腕前は町人にしておくのは勿体ないほどのレベル。


(ハルの意識を掻い潜って斬撃を加えるのは至難の業だ)


 当然カシロウならば可能であるが、斬撃を加えた後も気配を悟られないのは容易ではない。



「お前でさえ()()か?」 


「すいやせん、()()でやす」


 主従のやり取りに、ユーコーとフミリエは首を捻る。


「何が全くなの?」


「下手人だよ」


「……え? 事故じゃなくて、事件なの?」


 前回フミリエの小指が千切れ飛んだ時と違い、ハルの左耳はまだ治療が施されていない。


「これは刀傷だ。正面……やや下方から斬り上げる形だな」


「貴方、刀傷って……、そうは言ってもあの時この部屋にはハルとヨウジロウしか居なかったのよ?」


 ふむ、と言って顎に手をやるカシロウ。


「……魔術の線があるやも知れんな。風か氷の刃なら同じようになるかも知れん」



 考え込むカシロウに向かって放たれた、フミリエの大きな声。


「そんな事は後になさい! 耳はもう見たんでしょ!? とにかくハルさんの治療を済ませますよ!」


 フミリエの声で我に返ったカシロウがハルに声を掛けて頭を下げた。


「…………あ。すまん! ハル! 気をしっかり持て!」


 出血多量で意識を朦朧とさせたハルだったが、フミリエが手配した治癒術士のお陰で、翌日にはケロっと日常に復帰する事となった。


朝上げるか夜上げるか検討中。

寒いと朝が辛くって……。


なのでもうしばらくは1日2回更新かしらん。


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