48「懐かしい二人」
カシロウがエアラを紹介されていた頃、ヨウジロウ達は勉学に励んでいた。
その一方で、ハコロクはせっせと王族専用区画に抜け道を拵えていた。
(ヨウジロウはんが居てる今の内にワイのテリトリー増やしとかんならん)
今朝ヨウジロウにぶっ刺されたクローゼットにも、一見すると何の仕掛けもない様に見せて、裏の洗面室に抜けられる様、昨夜の内に穴を開けておいたのである。
(どうせやるんやったらきっちり護ってワイの腕前知らしめてやらんとな)
――勿論ワイの身が一等大事なんは変わらんけど。
● ● ●
遠慮せずに上がって行けば、と誘われたが天狗とはエアラの店で別れ、カシロウは城下南町を真っ直ぐに縦断した。
すっかり秋らしく、冬の訪れを予感させる外気に、そろそろマントの準備をせねばとカシロウは考えつつ歩き、南町の外れ辺りに差し掛かった頃、不意に名を呼ばれてそちらを向いた。
「「ヤマオ先生! ご無沙汰してます!」」
息を弾ませ駆け寄って来たのは懐かしい顔、弟子一号と弟子二号ことトビサとナンバダという二人の魔人族。
人影の制服に、魔王国軍とは色違いの白い外套をきっちりと着こなして、ベルトに吊ったサーベルを揺らす二人が笑顔で駆けてきた。
「よぅ、久しぶりだな。最近は道場には来てないみたいだが忙しいのか?」
カシロウの教える道場は国営の道場であるため門下生はかなり多い。十二年も間が空いた為、その中で顔と名前を把握しているのは一割程度でしかないが二人とは長い付き合いである。
だから、道場で見掛けないなと思ってはいた。
「先生が戻られたのを聞いてから顔を出さねばと思ってはいたんですよ」
「ホントなんすよ。マジで近いうちに顔出そうって言ってたとこなんすよ」
十二年前、二人はカシロウの下で剣の腕を磨いていた。
二人ともにあまり才能は無く、腕もそう大した事はなかったが、ヤマオ先生ヤマオ先生と煩いほどに懐き、いつの間にか弟子一号二号と呼ばれる二人組となっていた。
「数は少ないんですけど部下を持つ様になったんですよ」
「そしたら忙しいんすよ。偉くなったら楽できると思ってたのに」
はぁぁ、と二人揃って溜息をついた。
「ま、そんなもんさ。お主らは人影だろ、もう少し偉くなったら楽になる。今が一番忙しい頃だな」
カシロウは元人影、先輩らしく二人にエールを送った。
「ところでこんなところで何してらしたんですか?」
「ここで何、って事はないんだ。南トザシブ川の工事に顔を出そうと思って歩いてただけだよ」
「ああ、先生は南トザシブ川の担当だったすね、そう言や」
そうそう、そう言やそうだった、と二人は頷き合った。
「お主らこそこんな所で何してるんだ? そんな格好して非番か?」
「今夜の夜回りの下見ですよ」
「トビサの班と俺の班がこの辺りの担当なんで被んないよう相談す」
「……あぁ、噂の辻斬りの件か」
「もうお聴き及びっすか……、すんませんっす」
「申し訳ない。誠に面目ないです」
「え? 何故だ? お主らが辻斬りという訳でもあるまい?」
カシロウは二人が何故謝るのか分からなかった。
正直に思った通りに口にすると二人は慌てて、
「おおおお俺らじゃねぇっすよ! ななな何言ってんすか!」
「僕らは人影です。辻斬り犯をのさばらせて申し訳ないという意味ですよ」
ナンバダは慌て、トビサは落ち着いてそう答えた。
「あぁ、そういう意味か。しかしそうは言ってもしょうがないだろう。向こうだって捕まらない様にやってるんだろうし、はい分かりましたとは――」
――二人が自分を見る目がなんとなくおかしい。
そう思い自分の言動を省みると、確かにかつての自分らしくはない。
どちらかと言えば、天狗が言いそうな軽い言い回しである。
「いや、なに、お主ら人影が精一杯やっているのは勿論分かるからな、焦らずにやれ、とな、そう言いたかったのだ」
天狗の真似をして、焦らぬように伝えると二人は即座に言い募った。
「そんな訳にはいかないっすよ!」
「僕らがチンタラしてる間にまた被害者が出るんです!」
――間違いなく、自分でなく二人の言葉が正しい。
二人はこの国、この街を守る人影である。民を斬る辻斬りを許せる訳がない。
「すまん。軽率な発言だった、許してくれ。だからと言うわけではないが私に手伝える事があったら言ってくれ。協力は惜しまない」
そう言ったカシロウの言葉に一瞬、頬が緩んだ二人だったが思い改める様に揃って首を振り、
「いや、俺らでなんとかするっす」
「僕らの仕事ですから」
口を引き結ぶ様にしてそう言った。
「そうか。なら無理にとは言わん、精一杯やれ。ただし無理はするなよ。お主らの腕じゃ頼りないからな」
カシロウはニヤリと笑ってそう返した。
「先生が居ない間も訓練してましたから、きっとひっ捕らえてやりますよ」
トビサがそう言って、左右にぶら下げた大小二本のサーベルの護拳(※剣把についている拳を守る部分)を両掌で叩いた。
「おぅ。お主らならきっとやれるさ」
そう声を掛け、また落ち着いたら道場へも顔を出すように告げ、二人とはその場で別れた。
カシロウはその後なんとか昼二つの鐘が鳴るころ現場に辿り着き、ボアと明日以降の工程について打ち合わせを済ませ、思った以上にケーブらが使えるらしい事を聞いた。
身軽なナッカとマッツは高所での作業が得意らしく、ケーブは風の魔術を駆使して二人の命綱代わりを行なっているそうだ。
そして帰路、明日の道場でケーブらを褒めてやろう、トビサとナンバダはいつごろ道場に出てこれるだろう、などと考えつつ日暮れ前には王城へと戻った。
しかし、その後トビサとナンバダの内、ナンバダが道場へ出てくる事はなかった。
次回は来週となります。
月曜のつもりですが、前後するかも知れません。
なので更新通知お願いします。
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